「明日・・・か」
サガは明日に迫るアイオロスの誕生日について考え、ため息をついた。
傍にいると言ったものの、それだけでは、とサガは考えていた。
「アイオロスにあげられるものなど・・・」
何か形として残るものを渡そうかとも考えた。
アイオロスに傍にいて欲しいと言われた。自分もそれに応えるからには、きちんと祝ってやりたかったのだ。
物、と考え、サガは色々と考えをめぐらせたのだが、どれもありきたりな物で、
申し訳なく思ったのだった。
「おいサガ」
「あ・・・どうしたんだ?」
ホースの水を流しっぱなしに、ぼけっと庭に立ち尽くすサガに、カノンが後ろから声をかけた。
「水」
「あ」
「何やってんだよ」
カノンはため息をついてきゅ、と栓をしめた。
「すまない・・・」
「デスマスクが言ってたぞ。明日アイオロスにはお前にリボンかけて渡すから今夜来いってさ」
サガはふ、と笑うと、白いサンダルから内履き用の黒い靴に履き替えリビングへと上がった。
「なあ」
「?」
「大丈夫なのか?」
「何が?」
眉を寄せるカノンに、サガは微笑した。
「ああ、大丈夫だよ。ちゃんと、祝うよう言ったから」
「ふうん・・・じゃ、今夜はいないんだな?」
「え?」
「行かないのか?今夜。一番最初に言うつもりなのかと・・・」
夜、一番最初に、というカノンの言葉に、サガは思わず顔を赤らめた。
「明日は、傍にと言ったが・・・!」
顔を赤くして言うサガに、カノンはにやりと笑った。
カノンはサガの傍まで歩み寄ると、髪をひと房つかみ、耳元に囁いた。
「ベッドの中で言ってやれよ。夜は長いんだ・・・あいつガンガンに腰振って喜ぶぞ」
「カノン!」
サガは顔を顰めてカノンを引き離した。
耳まで赤くするサガに、カノンはくく、と喉の奥で笑うと、冗談だと言って自室へと戻っていった。
「よ、夜・・・?」
サガはアイオロスの誕生日を前に、既にいっぱいいっぱいになっていた。
「ど、どうしよう・・・」
人馬宮で前夜祭と称して黄金たちが集まる中、サガは一人酒の肴を用意しながら焦っていた。
というのも、一日思い悩み聖域をうろうろと歩き回り、アテネ市内まで出向いたものの、
これといってアイオロスに渡すに相応しいものは見つからなかったのだ。
今夜、このまま飲み明かしてしまえば、間違いなく明日買いに出る余裕もなく明日の射手座の生誕式を迎えてしまう。
次期教皇であるアイオロスの生誕式は、他の黄金聖闘士たちよりもより荘厳に、より盛大に行われる。
当然夜までかかり、そしてその後にはまた今夜のように夜を明かして飲むのだろう。
傍にいることはできるが、それ以外には何もできなくなってしまう。
せめてもう少しまともに祝ってやりたいのだが、と先ほどから考えてはいるものの、さっぱり思いつかない。
「サーガ」
「ア、アイオロス」
後ろからかけられた声に、サガはびくりとして振り返った。
「どうしたんだ?・・・まだ、何か気にしているのか?」
サガの頬を撫で、心配そうに顔を覘きこむアイオロスに、サガはなんでもないと微笑んだ。
「お前のなんでもないはあてにならないからな。・・・もう皆酔い出したんだ。
サガも早くこっちに来てくれ。雑用ばかりさせてすまない・・・」
「いいんだ。・・・先に戻っていてくれ。これを終えたらすぐに行く」
アイオロスは微笑むと、サガの頬に軽く口づけを落として、リビングへと戻っていった。
アイオロスの去ったあと、サガは密かにため息をついた。
「とりあえず・・・戻らなくては・・・」
サガは色とりどりの野菜を盛った皿を手に、リビングへと向かった。
夜中近く、昼過ぎから飲み続けていた黄金聖闘士たちはさすがに酔いがまわってきたらしく、大分静かになってきた。
酒を飲みながら語らい合ったり、ミロは既に酒瓶を両手に床に寝転んでいる。
「・・・疲れたか?」
「少しな」
尋ねながら、アイオロスはサガの隣に座った。
「・・・アイオロス」
「うん?」
「その・・・実は・・・」
「サガ」
「え?」
アイオロスに顔を向けると、アイオロスの唇がサガのそれと重なった。
ほんの少し触れて離れたキスに、サガは瞳を瞬かせた。
「傍に、いてくれればいいんだ。・・・今夜一緒に、というのはちょっと無理そうだけどな」
「アイオロス・・・」
「明日の夜は、二人きりで」
「・・・・もうすぐだな」
「ああ。祝ってくれるのか?」
「言っただろう。・・・きちんと、祝いたい」
顔を背け恥ずかしそうに呟くサガに、アイオロスは微笑んでサガの肩を抱いた。
「惜しいなあ。やはり二人だけにすればよかったかな」
「皆お前の誕生日を祝いたいんだよ」
二人の間に、優しい沈黙が流れた。
柱の影に隠れるようにして寄り添い、二人は口づけを交わした。
12時を告げる鐘が聖域に響く。
抱き合う二人は微笑み合い、再び軽く啄ばむように唇を重ねた。
「誕生日、おめでとうアイオロス」
優しく微笑むサガに、アイオロスは強くその愛しい恋人を抱き締めた。