celebrate our birthday. act4

11月30日。
この日、次期教皇射手座のアイオロスの生誕祭は厳かに行われ、
アイオロスは聖域に沈む赤い太陽を背に、女神から黄金の杖を賜った。

「この杖には、ひとつおまけをつけておきました。サガと、使ってくださいね」
「有難き幸せに御座います」

女神、城戸沙織は微笑むと、右手を杖にかざした。
すると杖は黄金の輝きに包まれ、アイオロスを覆った。
「今日の間だけ、貴方に“時間”を差し上げます。ほんの少しではありますが、自由に使ってください」
「は・・・。時間、と申しますと・・・」
「人馬宮に異空間を作ることができるのです。その中では1時間は2時間に感じます。
貴方の定めた者しか入れませんし、中は人馬宮と変わりありません。人馬宮内の時間がそのまま、2倍になったと考えていただけるかしら」
「は」
「誕生日、おめでとうアイオロス。顔を上げて頂戴」
アイオロスは顔を上げ、幼く微笑む少女に微笑み返した。
「貴方の誕生日を祝えることを、嬉しく思います」
「ありがとうございます」
アイオロスは、いつものように笑った。



「しかし、時間をもらえるとは、有難いことだな」
「時間・・・まさか本当に・・・」
「何か言ったか?」
「いや、なんでもない」
「しかし疲れたな。今日もあと1時間半時間だ。・・・この杖を使うと、3時間になるのか」
「不思議なお力だ」
アイオロスは笑うと、杖をかざした。
「折角頂いたのだ。有難く使わせてもらおう」
黄金の光は人馬宮全体を包み込んだ。

「3時間・・・何も考えずに時間を増やしてしまったが、サガ、何がしたい?」
「今日はお前の誕生日だ。好きに使えばいい」
「俺としては今すぐお前と寝室に行きたいんだが」
「却下だ」
「分かった分かった。だが今日のうちに・・・」
アイオロスはサガの肩を抱き、耳元に熱っぽく囁いた。
サガは思わず身体を震わせる。
アイオロスは少し笑うと、サガの身体を抱き締めた。
「二人きりだ。こんな時間ができるとは思わなかった・・・」
「私もだ。・・・ちゃんと、祝えないかと思っていた」
「傍にいてくれればいい・・・」
「アイオロス」
「ん?」
「誕生日、おめでとう。許されないことかもしれないが、お前の誕生日を祝うことができるのを、幸せに思う」
穏やかに微笑みそう言うと、サガはアイオロスの額にそっと口づけを落とした。
「サガ・・・」
「すまない。昨日も言いかけたんだが・・・他には何も、用意できなかった」
申し訳なさそうに言うサガに、アイオロスはサガと同じように額に口付けると強く抱き締めた。
「何もいらない。サガがいてくれるなら。・・・ありがとう。何より嬉しいプレゼントだ」
「アイオロス・・・」
「なあ、サガ。もっと触れたい。・・・ダメか?」
子供っぽく言うアイオロスに、サガは少し微笑むと、アイオロスに口づけした。
「サガ・・・」
「いいよ。・・今日だけ、だ」
アイオロスはまた強く抱き締めると、サガに深く口づけた。



「アテナも面白いモン渡すよなあ」
「・・・」
「時間が2倍になんだってよ。ヤりたい放題だな」
「カノン」
「今頃二人でベッドの中かよ。くっそー」
「カノン」
「何だよラダマンティス。お前もヤりたくなった?」
「どいてくれ」
「お前このカノン様が乗ってやってんだろ」
「仕事の邪魔だ・・・」
冥界。ラダマンティスの私室に、カノンはいた。
私室で仕事中のところに押しかけ、膝に乗りかかっていたのだ。
「いいのか?」
「何が」
「お前の兄だ」
「・・・ああ、・・・いいよ。暗くなられるより全然マシだ」
「そうか」
カノンはくすりと笑うと、ラダマンティスの頬にちゅ、と軽くキスをした。
「その代わり、今日はお前が俺の傍にいろよ」
カノンがラダマンティスの首に手をまわすと、年下の恋人は少し笑って、二人は口づけあった。



「・・・んっ・・・」
「サガ・・・」
「アイ・・オ・ロス・・・」
人馬宮のベッドの中、サガはアイオロスに抱き締められながら、背に爪を立てた。
互いの息遣いの中で、サガはふ、と微笑んだ。
「おめでとう・・・アイオロス」
自ら手を伸ばし、アイオロスを引き寄せるサガに、アイオロスは更にサガを追い立てた。


13年越しの二人の長い夜は、光に囲まれ、星に照らされながら更けていった。