11月25日。この日、黄金聖闘士たちは射手座のアイオロスの誕生日を祝うための会議を行っていた。
「さて・・・どうしたもんかねえ」
デスマスクが煙草から煙を吐きながら言った。
ムウはその煙に顔を顰めると、やめてくださいませんか、と言って煙草を消滅させてしまった。
「もう時間がないぞ」
シュラが言うと、黄金聖闘士一同はため息をついた。
「アイオロスは次期教皇。ここで我々が立派な式をあげねば・・・」
「シャカ、結婚式じゃないんだ」
アイオリアがため息をついた。
「あそこまで心の広い男だ。何をしても喜んでくれるのだろうが、しかしそういう男が一番祝いにくい」
「本当だぜ。アイオロスの好きなもんつったらスポーツとサガくらいしか思いつかん」
デスマスクがからかうように言った。
いつものようにサガの叱咤する声が聞こえるかと全員思ったが、しかしサガは黙ったままだ。
「そ、そういえば老師はどうしたんだ」
ミロがごまかすように言った。
「あの方はいらっしゃりませんよ。今頃はシオンと作戦をたてているのでしょう」
「作戦?」
「“アイオロスをこっそり祝っちゃうぞ作戦”らしい」
カミュがいたって真面目に言うと、ミロは呆れたような顔をした。
「なんだ、それ」
「さあ。あの方たちのすることは我々には考え及びませんよ」
ムウが肩をすくめた。
「で、アイオロスには何をするんだ」
アフロディーテが言った。一同はまたため息をついた。
「パーっと酒を飲んで飯を食って終わりじゃだめなのか?」
アイオリアが言った。ムウはまたため息をついてアイオリアを見た。
「それじゃ捻りもなにもないから何かしましょうって話だったのを忘れましたか?」
「だが・・・」
「私のありがたい説教でもアイオロスに聞かせてやるか」
「やめておけ」
「ビ、ビンゴとか・・・」
「野球拳」
「脱衣マージャン」
「なんでそんなに親父くさいんだ」
シュラが言った。
一同は三度目のため息を盛大についた。
「仕方ない。もうこうなったら各自なんかもってこい。以上、解散!」
「勝手に話を終わらせるなデスマスク」
アフロディーテが眉をしかめてデスマスクを睨んだ。
「だけどまあ、そんくらいしかできないだろ」
ミロが言うと、それで場は自然解散となった。
その場には、サガとムウだけが残った。
サガがいつまでも場を去ろうとしないので、ムウが見かねて残ったのだ。
「何を悩んでいるんです。貴方らしいと言えば貴方らしいですが」
「・・・私には」
「祝う資格がない、なんて今更言わないでくださいよ」
「ムウ」
「過去を、忘れろとは言いません」
その言葉に、サガは顔をあげた。
「忘れるなど・・・!」
「ええ、分かっていますよ。貴方は一生忘れることはない。・・・ですが、
こんなときくらい、素直に祝ってあげたらどうです?」
「・・・・」
「私たちがどんなに盛大に祝ったところで、貴方の一言には適わないんですから」
ムウは少し微笑んでそう言うと、サガに背を向け去っていった。
残されたサガはため息をついて天井を見詰めた。
「・・・・私の、一言・・・」
そんなもので喜んでくれるものなのか。
いや、私は分かっている。皆の言った通り、・・・アイオロスは、どんなものだって喜んで笑ってくれる。
だが・・・・・
素直に彼の誕生日を祝うことが、今のサガにとっては一番難しいことだった。
「兄さん」
十二宮の階段の途中にアイオロスを見つけたアイオロスは、駆け寄って後ろから声をかけた。
「どうしたんだ?こんなところで・・・」
というのは、アイオロスが歩いていたのは獅子宮脇。
彼の守護する人馬宮は更に上にあるからだ。
「ああ、・・・ちょっとな」
「サガのところか?」
「と思ったんだが・・・どうも、最近思いつめているようだから」
アイオロスは苦笑した。
「誕生日のことか・・・?」
「恐らくな」
「サガは少し気後れしているだけだろう。13年前の、こともある」
「ああ。こっちもなんとか明るく振舞ってはいるんだが・・・こればかりはサガ自身の心の問題だ」
「珍しいな。兄さんでもそんな風に気を使うのか」
「使うさ。いくらこっちが笑っていたって、サガが笑ってくれないのではなあ」
アイオロスは笑って答えたが、アイオリアには無理をしているように見えた。
サガの心の蟠り———その原因の当事者であるアイオロスは、サガの幸せのためならばどんなことだってしてみせる。
だが、その想いが強ければ強いほど、サガは罪を意識し、切なげに笑うのだ。
「負担を、軽くしてやりたいんだ・・・サガが気付かぬように、そっとな」
「兄さん・・・」
辛そうに顔を歪めるアイオリアに、アイオロスは苦笑してアイオリアの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「お前もそんな顔をするな。シャカに笑われるぞ」
「シ、シャカは関係ないだろう」
「お前ももう大人だからなあ。・・・どんな付き合いをしているのだ。あの乙女と」
意地悪く笑うアイオロスに、アイオリアは顔を真っ赤にした。
「はは。悪い悪い。じゃ、俺は双児宮まで行ってみる。誕生日にサガに祝ってもらえないのでは、夜の楽しみが減る」
アイオロスは笑ってアイオリアのもとを後にした。
アイオリアは苦笑すると、獅子宮へと帰っていった。
「よお」
「カノン」
「残念だな。サガならまだ帰ってない」
双児宮でアイオロスを出迎えたのは、サガではなくカノンだった。
「そうか・・・」
「・・・お前、最近サガと会ってるか」
「ああ、一応な」
「・・・・・・もうじき、誕生日だろ」
「ああ」
「あいつ、本当は誰よりお前を祝ってやりたいんだ。まあお前は分かってんだろうがな。
罪だの何だのに、雁字搦めになっちまってる。今お前がそんな情けない面してると益々あいつは辟易するぞ」
「そんなに情けない顔をしているか、俺は?」
アイオロスが少し笑って言うと、カノンはため息をついた。
「かなりな」
「今日は優しいんだな」
「お前のためじゃない。サガのためだ。・・・とにかく、お前は今まで通り暑苦しくしてろ」
「ああ」
「じゃあな」
「お前もサガの前で、もっと素直になればいい」
「ふん」
カノンは眉をしかめ、双児宮の奥へと去っていった。
アイオロスは苦笑すると、元来た階段を歩き出した。