「『捕縛』だぁ?『逮捕』じゃねぇのかよ?」 思ったままを、クレーバは口にした。 「ふむ、そのことか……」 チャネルは一枚のペラ紙を取り出した。 「読め」 それをクレーバに渡す。 「ん……」 受け取ったクレーバは、その紙を見る。どうやら、何かの書類のようだ。 内容は、大体このようなものだった。 『ツェップ軍の連行におとなしく従い、ツェップ軍およびツェップ政府からの協力要請を受け入れれば、ツェップで起こした犯罪行為の一切を免罪し、器物破損などによる弁償はすべてツェップ政府が肩代わりする』 ということだ。 「……ンだ、こりぁ?」 怪訝顔のクレーバ。 「見ての通りだ」 書類の下には、聞いたことはないが、肩書きから見ると上層部の人間、数人のサインと捺印がある。どうやら、正式な書類のようだ。 「我々ツェップ軍は、貴公を連行する任務を負って来た……いかなる方法を使ってでも連れて来い、と言われてな」 「それで、それかよ」 クレーバがチャネルの右腕を見る。 例の有線ロケットパンチだ。 肘に届くくらいまでの籠手の先に、人の頭くらいなら握れそうな巨大な拳。おおよそ女性が持てるようなものではないのだが、チャネルは平気な顔をしている。 それから目を離して、再びチャネルを 「悪い条件じゃねぇけどよ」 睨む。 「胡散臭ぇ。何考えてるか知らねぇけどな、そんな指図受けられっかよ。俺には、やることがあンだ」 いっそう強い力を込めて、チャネルを睨んだ。 「衣食住は保障する。協力要請を受け入れれば、中流以上の生活は苦も無く受けられるのだぞ」 「その『協力要請』ってのが胡散臭ぇンだよ。何をさせられるんだ?」 クレーバの強い視線を気にもしないで、チャネルはさらりと言った。 「軍事機密だ。おとなしく連行されれば、そちらで説明する」 「……そうかい」 手にしていた書類をくしゃくしゃと丸めて、チャネルに投げつける。 それはチャネルの額に当たり、ぱさりと地面に転がった。 「交渉決裂だな。別に安定した生活なんかいらねぇよ」 クレーバはそのまま踵を返し、チャネルに背を向ける。 「そうか。ならば、少々痛い目を見るぞ」 チャネルがゆっくり右腕をクレーバに向ける。 「やってみろよ、このアマが」 首だけで後ろを向いて、クレーバはチャネルにガンをつける。 パン! その時、どこからか飛んで来た弾丸が、クレーバの頬をかすめた。 「悪いが、伏兵を潜ませてもらった。ここ一帯に20人ほどだ。次は、威嚇ではなく本当に狙って打つぞ」 少し遠くの建物の上に、ライフルを持った人影が見えた。 |