第四話:通告


「『捕縛』だぁ?『逮捕』じゃねぇのかよ?」
思ったままを、クレーバは口にした。
「ふむ、そのことか……」
チャネルは一枚のペラ紙を取り出した。
「読め」
それをクレーバに渡す。
「ん……」
受け取ったクレーバは、その紙を見る。どうやら、何かの書類のようだ。
内容は、大体このようなものだった。
『ツェップ軍の連行におとなしく従い、ツェップ軍およびツェップ政府からの協力要請を受け入れれば、ツェップで起こした犯罪行為の一切を免罪し、器物破損などによる弁償はすべてツェップ政府が肩代わりする』
ということだ。
「……ンだ、こりぁ?」
怪訝顔のクレーバ。
「見ての通りだ」
書類の下には、聞いたことはないが、肩書きから見ると上層部の人間、数人のサインと捺印がある。どうやら、正式な書類のようだ。
「我々ツェップ軍は、貴公を連行する任務を負って来た……いかなる方法を使ってでも連れて来い、と言われてな」
「それで、それかよ」
クレーバがチャネルの右腕を見る。
例の有線ロケットパンチだ。
肘に届くくらいまでの籠手の先に、人の頭くらいなら握れそうな巨大な拳。おおよそ女性が持てるようなものではないのだが、チャネルは平気な顔をしている。
それから目を離して、再びチャネルを
「悪い条件じゃねぇけどよ」
睨む。
「胡散臭ぇ。何考えてるか知らねぇけどな、そんな指図受けられっかよ。俺には、やることがあンだ」
いっそう強い力を込めて、チャネルを睨んだ。
「衣食住は保障する。協力要請を受け入れれば、中流以上の生活は苦も無く受けられるのだぞ」
「その『協力要請』ってのが胡散臭ぇンだよ。何をさせられるんだ?」
クレーバの強い視線を気にもしないで、チャネルはさらりと言った。
「軍事機密だ。おとなしく連行されれば、そちらで説明する」
「……そうかい」
手にしていた書類をくしゃくしゃと丸めて、チャネルに投げつける。
それはチャネルの額に当たり、ぱさりと地面に転がった。
「交渉決裂だな。別に安定した生活なんかいらねぇよ」
クレーバはそのまま踵を返し、チャネルに背を向ける。
「そうか。ならば、少々痛い目を見るぞ」
チャネルがゆっくり右腕をクレーバに向ける。
「やってみろよ、このアマが」
首だけで後ろを向いて、クレーバはチャネルにガンをつける。
パン!
その時、どこからか飛んで来た弾丸が、クレーバの頬をかすめた。
「悪いが、伏兵を潜ませてもらった。ここ一帯に20人ほどだ。次は、威嚇ではなく本当に狙って打つぞ」
少し遠くの建物の上に、ライフルを持った人影が見えた。



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