青年の体に繋がっている腕は、明らかに人の物ではなかった。 『ギア』。その単語が三人の男の頭を掠める。 ギア。人間により生み出され、数年前まで人間と戦争をしていた恐怖の種族。 司令塔であるジャスティスを失い、絶滅したといわれている種族。 「な、な、てめ……」 そんなものが存在するはずはない。だが、目の前にいるこの男の左腕は…… 男三人は恐怖と驚愕に支配され、まともに声が出ない。 男達とは対照的に青年はにやにやしながら、 「なんだ?どうしたんだ?」 男達に向けて言った。 男達が目と口を目一杯広げている前で、青年はその左腕で、ひょいと床に落ちているひとつの酒瓶を拾い上げた。 人差し指と親指の間に挟んで、ちょっとだけ力を込める。 ぱきん。 情けない音を残して、その酒瓶はいとも簡単に、割れた。 男達の目がさらに見開かれる。 その目の大きさも、ある意味人の物ではなかっただった。 「おいおい、どうしたんだよ?」 まだにやにやしながら、青年が言い、その左腕を中央に立っている男の肩にぽむっと乗せる。 肩を乗られた男は顔を強張らせ、ぎりぎりと音がしそうな動き方でその腕を見る。 恐らく、油をさしていないブリキのロボットなども、同じような動き方をするのだろう。 「お、おま、な、おい……」 かすれた声で、その中央の男がやっとつぶやく。 「なんだ?ああ、そういえば、ここら辺のボス様に、自己紹介がまだだったな。俺の名はクレーバ・M・リトル。ま、よろしく」 そう言って、青年―クレーバは、握手を求めるように意地悪く左手を差し出す。 「ひっ!」 手を差し出された真ん中の男が、裏返った声を上げる。 「あ……あ……ああああああああああああ!!!!!!!!!」 そして一瞬だけ、差し出された手を握ろうか戸惑った男は、次の瞬間、脱兎の如く逃げ出した。 その男に、そのほか二人の男も続いて逃げ出す。 「ありゃりゃ……」 右手で、頭を掻く。 「ま、仕方ねぇか、な……」 そこでクレーバは、酒場の中のすべての視線が自分に集まっているのに気づいた。 猜疑の視線。恐怖の視線。驚愕の視線。そして、何かを画策しているような視線。 友好的な視線はひとつも無かった。 そしてその酒場のマスターは―おそらく、このような仕事だと『異常者』には慣れているのだろう―早く出て行ってくれないか、と物語る視線を向けていた。 クレーバはひょいと肩をすくめると、 「へいへい、わーったよ、出て行きゃいーんだろ。ほら。釣りはいらねーよ」 そう言って、幾枚かのW$札をカウンターに置くと、さっさと出て行った。 蛇足だが、一応書いておく。 クレーバの払った金から出る釣りは、たったの2W$だった。 |