す、とジャスティスの両足が肩幅に広がり、腰がゆっくりと落ちる。
「俺がジャスティスの相手を引き受ける。お前らは、できる限り俺の支援。他のGEARが戦闘領域に入ってきたら、支援部隊以外は迎え撃て」
 静かに、ジャスティスから目を離さずに、背後に告げる。返事はないが、伝わった応えはある。
 クリフの判断は、一見すると無謀だ。
 消耗しきった今の自軍だけで、新手を迎え撃つ。しかも、メインの勝負は、敵の大将との一騎討ち。
 だが、GEARの王たるジャスティスさえ倒せば、少なくとも他の大勢のGEARは無力化できる。
 そもそもGEARとは、外部からの命令がなければ、自身では指一本さえ動かせない。それらを余すところなく全て統括できるのが、ジャスティスという個体である。
 それが、ジャスティスがGEARの王として在る所以。
 だからこそ、クリフはここでジャスティスを討つことに決めた。仮に撤退を選んでいたとしても、追撃は相当なものだっただろうから。生き残れる可能性が少しでもある方に賭けなければ、全滅は必至だから。
「KYOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
 今まで静かだったジャスティスが、突如、背を仰け反らせながら吼えた。
「いくぞ! 人間!!」
 そして、奔る。こちらに向かって。まっすぐに。
「こい! ジャスティス!!」
 クリフは、答えた。そして、奔った。まっすぐに。
「おおおおおお!!」
 ジャスティスの黒い五指が伸びて黒剣となり、振り下ろされる。
「おおおおおお!!」
 クリフの振るう斬竜刀が、下から黒剣を迎え撃つ。

 ぎぃぃんんッッ

 微かな火花を飛び散らせ、黒剣と斬竜刀が鬩ぎ合う。
 ぎしぎし、ぎしぎしと武器に籠める膂力が増していく。両者は一歩も譲らない。
「第一支援部隊、強化法術詠唱開始!」
 クリフの背後で部下の誰かが声を張った。それに応えるように幾多の声があがり、陣形が組まれ、法力の律動が顔を出し始める。
 黒剣と斬竜刀の鬩ぎ合いは、まだ終わらない。
 だが、その均衡をジャスティスが破った。両足の間から尻尾を振るい、クリフに向かって叩きつける。
 斬竜刀を黒剣に叩きつけ、その衝撃でバックステップし尻尾を避ける。
「っらあぁ!!」
 そして、反撃とばかりに刺突を頭に向かって突き出す。だが、肩にどっしりと備わっている鎧でそれを防がれ、黒剣が首筋狙って突き出された。
 回避は間に合わない。故に、ジャスティスの手首に狙いを定め、引っ掴む。黒剣の進行は止まった。
 お互い、両手が塞がった均衡を、またもジャスティスの尻尾が破る。尻尾はクリフの太腿に巻きつくと乱暴に彼を振り回し、上空へと放り投げる。
「――っく!」
 回転する視界の中でクリフは、斬竜刀の重さを利用して体勢を立て直す。その視界の中、ジャスティスが、黒剣を腰だめにしているのが見えた。嫌な汗が身体中から、どっと噴き出る。
「ミカエルブレード!!」
 ジャスティスが吼えた。そして、黒剣を振り払った。瞬間、法力を纏った斬撃がクリフを襲う。
 が、支援部隊の展開した局所重複結界が、斬撃の被害をクリフの身体を吹き飛ばすだけに留める。
「小賢しい」
 ジャスティスが、離れた場所で援護している聖騎士たちを、ぎろりと睥睨する。が、すぐにクリフに向かって接近した。


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