この消耗しきった現状で応戦して勝ち目はあるか?だが、撤退を選んだとして確実に逃げ切れるか?
たくさんの命を預かっている身として、優柔不断(といっても、クリフの気性は、それと正反対といって言い)は大きな足枷であり、致命的だ。だが、この現状での決断は、流石のクリフでも迷う。 そんな折、黒点の中でも一際、大きなものが彼の視界にとまった。 「……大将のお出ましか!」 遠目でまだ黒点の正体ははっきりとはわからないが、あの白い輪郭には見覚えがある。 団長<クリフ>の決断はあの白い輪郭を目にしてからすぐに下された。 「敵襲だ! 戦える者は前に出ろ!! 戦えない者は、周囲を警戒して逐一、報告!! 法支援部隊は、俺にありったけの法力を注げ!!」 クリフは前を向いたまま、そう怒鳴り散らすと斬竜刀を構えた。そのタイミングに呼応するかのように、白い輪郭が揺らめき光る。瞬間、紅い二条の光がまっすぐにこちらに向かってきた。 慌てずに深呼吸をすると、クリフは斬竜刀を利き手とは逆の手にそれを預け、利き手を紅い光に向けて掌底の形をとった。 深く深く息を吸い込むと、溜まりきったそれを一気に吐き出す。のと同時に、吼える。 「リフレクスロア!!」 『気』属性の法力による法力波。単純な技だが、その分、出力は正直に高い。 掌底から放たれた琥珀色の奔流は、紅い二条の閃光とぶつかり合い、次の瞬間、爆裂霧散した。背後でざわざわとした部下たちのざわめきを感じ取るが、無視して前だけを見る。 自分が無事ならば、紅い光を放った方も当然無事である。それを証明するかのように数十メートル離れた位置に、白い輪郭は降り立った。 白色の外骨格に全身を包んだ異形。その白さは、茜色に染まりつつあるこの世界で、反逆するかのように浮いている。 が、よく見れば、外骨格というよりも、それはむしろ全身鎧<フルプレート>に見える。といっても、“着ている”というよりも“肌に直接、打ち込んでいる”といった表現の方が正しい気がするが。 足元には、複雑な紋様を描いた赤紫の光輪が、ぐるぐると回転している。両足は、地についていない。おそらくは、光輪が原因だろう。 冷たく光る紅の双眸に、同じく紅の鬣<たてがみ>。臀部には、同じく白い鎧に包まれた尻尾が伸びている。額には、GEARの刻印がしっかりと刻まれている。 「前言撤回するか? ジャスティス」 クリフが挑戦的に言ってのける。だが、ジャスティスはただ睨みつけているだけで、動く素振りを見せない。 「最初にお前と戦った時、俺は死にかけた。その時、お前は言ったな? 『二度と会い見<まみ>えることはない』ってな」 ジャスティスは黙ったままクリフを睨みつけている。その背後では、奴の同胞が確実に近づいて来ている。クリフは、仲間たちが己の背に視線を集中し、指示を待っているのがわかった。 しかし、今はそれを無視する。ぶぉん、と勢いよく斬竜刀を振り回し、切っ先をジャスティスに向ける。 「外れたな」 にっと口の端を持ち上げ笑む。それは、挑発以外の何ものでもない。 「矮小だな、人間。おめおめと死に損ねたことを自慢するとは」 ジャスティスが初めて答えた。人間の声ではない。 声は怒っているようでもなく、嘲っているようでもない。そこに籠められていたのは、嫌悪感。この永い戦の始まりとなった感情。 「Meet Again」TOPへ |