携帯用の食糧を豪快に平らげると、クリフは水を一気に飲みほした。ぐいっと剛毅に口元を拭う。そのまま立ち上がると人の波に向かって歩を進める。 先程の勝利から数時間。 蒼穹だった空は、燻ったような茜色に染まりつつある。人気のない場所までGEARを誘い込んでの戦闘だった為、周辺に対する被害は軽微。 だが、各部隊の被害は、それと反比例しているかのようだった。死傷者は限りなく出たし、配備されていた消耗品は、ほとんどが底を尽きかけている。戦闘後の今でも、苦痛に喘ぐ仲間達が、治療班に手当てを受けていた。 クリフは、一通り歩き回ると、土の上にどかっと腰を下ろし地平線を睨みやった。 もしも、もう少し、自分が遅れて到着していたらこの戦場はどうなっていただろうか。 おそらくは、撤退。いや、撤退時を狙われて半分以上の聖騎士を殺されて、大敗だっただろう。 クリフは思う。 「……俺抜きでも最後まで戦い抜いてもらいたい」 間に合ったのは幸運だった。だが、団長<自分>は、たったひとりだ。全ての戦場に余すところなく足を運ぶのは、時間的にも体力的にも不可能である。 クリフは思う。 「……俺と同じくらいの実力は求めない。だが…俺と同じくらい、部隊に士気を高められる人材が欲しい。例え前線で戦えなくてもいい」 聖騎士団には、GEARと渡り合うだけの実力は、充分にある。だが、敵になくて自分たちにあるもの…敵にあって自分たちにないもの。それが重要なのだ。 GEARには、戦うことに対しての恐怖や迷いがない。だが、人間にはある。 GEARには、戦うための大義が意思がある。だが、人間は、それらに抗うために戦っているだけで、正当な理由はない。 人間<自分たち>には、護らなければならないものが、奪われたくないものが、失くしたくないものがある。だから、戦っている。 だが、GEARにはない。 GEARにあるのは、人類を敵と定め、根絶やしにすることのみ。 それらが、敵になくて自分たちにあるもの…敵にあって自分たちにないもの。 クリフは思う。 「この戦争に意味なんてものはない。ただ、戦わなきゃならんから戦ってるだけだ」 そう、意味などない。くだらない戦いだ。動物達<第三者>に人間ほどの感情があれば、「あいつら、なんてくだらないことを平気でやってんだろうね」なんて嘲るに違いない。 だが、この戦争は、人間同士の争いなのではないのだから、外交や交渉では終わらない。だから、戦って勝つしかない。 それが、どんなに愚かしい決断であったとしても。 クリフが、そんなたくさんの思いに心を馳せて茜色の空を眺めやっていた際に、それは現れた。 茜色の空に散り散りと漂っている雲の群れ。その風景にぽつぽつと次々に小さな小さな黒点が生じる。 「…! あれは!!」 斬竜刀を引っ掴んで手早く立ち上がる。ぎしっと奥歯を噛み締めると自然、表情が渋くなった。 後ろを振り返る。仲間は皆、消耗して疲れきっている。そんなものは、誰にだって見ればわかる。だから、クリフは更に渋い表情をしてから前に振り返った。 黒点は徐々にだが確実に大きくなってくる。クリフは、パニックになりかける頭を必死に宥めながら、作戦会議を手早く始める。 応戦か撤退か。 「Meet Again」TOPへ |