男は、連日連夜、戦場を練り歩いた。 彼にとって、睡眠と食事に割く時間は、戦場と戦場を渡る間の移動時間しかなかった。 それは、男が望んだことでもあったし、何より彼自身にとって、それ以上、時間の余裕はなかった。 GEARとの戦は、開始当初に比べれば、幾分、慣れてきたとはいえ、それでも、基本的なポテンシャルの点では、人類にとってはあまりに勝ち目がない。 そもそも人間というものは、頑丈にできているようで、その実、とても脆く弱い。 たった一つの裂傷でも、運悪く悪性のウイルスが侵入でもすれば、身体を内部から侵され死に至る。 物は、壊れても修復することはできるが、人体のメカニズムは、複雑で繊細だ。急所は数多くあるし、背骨のどこかを傷つけられれば、半身不随の危険性もある。 だが、そんな人類にも文明の発展と共に、それらを克服ではないが、誤魔化す術やなんとかできそうな可能性が広がった。 2010年。 人類は森羅万象のシステムを解明。それら全てを扱う手段が理論化される。 これによりエネルギー問題が解決され、地球環境を汚染する原因である従来の科学を廃止することが決定された。 その理論の発見は、人類の歴史上でも目を見張るほどの大発見であった為、夢見事のように現実感は湧かなかった。 その為、もっとも相応しい名前が、その理論には与えられた。 魔法科学論。 魔法科学論は、人類の文明を革新させただけでなく、人体に秘められていた潜在的なポテンシャルをも見事に開花させた。 元来、人体には『法力』と呼ばれる超自然エネルギーが存在する。 だが、それを扱うには、高い数学の素養が必要であり、制御も困難で、誰しもが扱えるという訳ではない。 属性は、六つ。 『火、水、風、雷、気』の五つが、現存では解析されている。最後のひとつは、公式発表をされていない為、名前すら不明だ。 その内で、法力の制御術を用いて確実に制御が可能なのが、『気』を除いた他の四つ。 唯一、確実な制御術が解明されていないのが、『気』属性である。 『気』属性は、確実な制御術が解明されていない傍ら、既存の法力学を理解していなくても、制御できたというケースが多々、存在している。 その発見のケースが多いのは、中国や日本を代表としたアジア全域で、それらの国々の格闘技では、昔から『剄』と呼ばれる目に見えないエネルギーを格闘技に取り込むのがポピュラーである。 また、それに加え、身体を鍛える道程で精神論を重んじるという点も少なからず、影響していると思われる。 何故なら『気』属性には、感情の高ぶりなども関連しているという報告が、多数に渡り報告されているからだ。怒りや憎しみなどの激情は、普段の法力の絶対量を爆発的に増加させる。だが、しかし、激情に駆られたからといって必ずしも結果が出る訳ではなく、明確なプロセスも解明されていない。 故に、『気』属性の法力を行使できる者は、稀有なのが実情だ。 その“稀有”な者達の代表格を務める男がひとり。 クリフ・アンダーソン。 欧米人でありながら失われた東洋の島国、日本に興味を持ち精通していた彼は、独学で『気』属性の法力を習得し、扱える事に成功した。 習得したといっても、学習して理解したのではなく、いわゆるところの“コツ”とやらをつかみ、使いこなすに至った。 要するに、彼はラッキーだったのだろう。もちろん素養は充分にあっただろうし、何より努力家でもあったから、実際は、その二つが原因となっていることも否めない。 だが、明確な習得法も制御方も解明されていなかったのだから、結局はラッキーだったのだ。 その『気』属性の法力を扱えることは、他の四属性が扱えないクリフにとって、大きなアドバンテージとなった。 しかも、身体を鍛える事にも余念がなかったため相乗効果で、彼は非凡な強さを手に入れていった。 GEARが人類に戦争を仕掛けた当時、ある一つの対抗組織が結成された。 聖騎士団。 歴史の裏に隠れていた異能者や腕自慢の強者達が、兵隊となってGEARと戦う組織。 クリフは、そこで初代の団長を任される事になる。 法術は使えないが、その分、並外れた身体能力を有し、兵法にも精通した彼は、団長選任試験で周りを押しのけ見事に大役を任された。 その時に与えられた宝剣の名を、斬竜刀という。 成人男性一人に匹敵するほどの大きさをもった刀身に、その刀身を扱いやすそうに長く作られた細い柄。巨大な肉切り包丁を彷彿とするその剣を持って、GEARを屠るその姿から人々は、クリフのことを、こう呼んだ。 竜殺し<ドラゴンキラー>と。 「Meet Again」TOPへ |