−Meet Again−



 そこで蔓延していたのは、硝煙と血臭と怒号と雄叫び。
 そして、たくさんの死。
 そこでは、蔓延していた。
 数え切れないほどたくさんの死が。
 当たり前の様に、そこにはあった。
 そう、死が。


 男が到着した時には、既に戦況は劣勢だった。
 百を超えた仲間たちの半分以上は、焼け、千切れ、砕け、抉られ、壊され、死んでいた。
 生き残っている仲間たちも、そのうちの半分近くは悲嘆と負傷と疲労と焦燥と絶望で戦意を失いかけていた。
 だが、敵たちは、まだ全体の七割を下回ってはいなかった。
 敵。
 人類の敵。
 人類の存在を脅かす敵。
 人類の歴史上においての戦相手は、人類自身に他ならない。
 あくまでも獣達は戦相手としては足りず、人類にとっては食糧に他ならなかった。
 自分たちの生活を脅かす食用ではない種の獣達に対しては、人類自身の自衛の為に戦った。それでも彼らは、戦相手としては役足らずだった。
 時は、西暦2074年。
 『敵』は、人類に対して初めて牙を剥いた。
 彼らは、人類によって創られ、育てられ、従わせられた。人類自身の為に。
 だが、彼らは反旗を翻した。唐突に。何の前触れもなく。
 彼ら……『敵』の名前は、GEAR<ギア>。
 人間をはじめとした生態系に、GEAR細胞と呼ばれる特殊な細胞を移植して誕生する、人造生命体。生体兵器。
 そう、人類が創り出した新しき、種。
 自然に生まれ出でるはずのない、全くのイレギュラー。
 計算された上で生み出されたイレギュラー。それは、イレギュラーとは呼べないのかもしれないが、イレギュラーなのだろう。自然の成り行きにとっては。
 そのGEARが、何故、生みの親である人類に牙を剥いたのか。
 いや、生みの親が子に対して絶対であることは、可能性としては存在しても、絶対不変の真実ではない。
 だが、GEARにとって、その可能性は極めて少なかった。
 そう決定づけられていたはずだった。
 GEARとは、そもそもが外部からの命令が伝わらなければ、指一本すら動かせない。
 そのGEARの中でも、外部からの命令ではなく、自身で行動が可能な自立思考型は、多くはないが存在する。
 しかし、彼らとて人類に対して、反旗を翻せないように決定づけられていた。
 人類は、それを信じていた。自分たちが、彼らを創ったのだから、それは当然だった。必然だった。
 だが、彼らは反旗を翻し、牙を剥いた。
 有り得ないことだ。あってはならぬことだ。理解できぬことだ。理解する訳にはいかぬことだ。信じられぬことだ。信じてはならぬことだ。
 だが、それは真実だ。
 では、何故、彼らが牙を剥いたのか?
 それは、誰とてわかることではない。
 誰かが、騙していたのだろうか?裏切っていたのだろうか?嘘をついていたのだろうか?
 誰を?誰が?何の為に?
 それとも、これは予定調和なのだろうか。
 では、その予定調和を築いたのは誰だ?画策したのは誰だ?実行したのは誰だ?
 わからない。わかる術がない。知らない。知る術もない。
 わかっているのは、GEARは、既に人類と戦争を開始したということ。
 知ったのは、彼らが自分たちを途方もなく憎悪し、駆逐しようとしていること。
 その要因は、堆く積み上げられた死体の山。山。山。山。山。
 そのおかげで、人類は否応なしにGEARがもちかけた戦争を受けた。
 迷うことも、恐れることも、逃げることも、拒むことも許されなかった。
 そんな時間は、なかったから。
 そして、自分たちの種が生き残る為には、戦うしか、生き延びる術は、最早なかったから。
 そんなことも忘れかけたほどの時間が経ったのが、現在<いま>の戦場<光景>だった。


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