__Walk_in_the_moonshine,_and_drink_like_a_jellyfish.__

[07.05.25] 

〜海月の放流〜 120


酒飲みながらできる職場って。
水商売と酒蔵だけだよなぁ。
うひ。


【手前酒 -Fun,Fun,Fun-】
今期の酒の仕込みが終わり、後片づけや掃除など、あらかた済んだところで、
蔵人は期間満了、御役御免となった。
秋、冬、春にかけてのおよそ半年の季節労働。

暖冬だったとはいえ、毎朝4時半出勤の日々はツライ時もあったな。
そんな日々も懐かしく思える程に、いまや暑い初夏。

すっかり完全失業者となり、明日のことなど気にせず、昼だろうと夜だろうと
酒を呑んでいる。
いや、身を持ち崩すような荒れ放題というのではなく、
気分のいい時に、その気分を増幅あるいは持続させるのに、
酒がちょうどいいんだな。(まぁ酔っ払いの言い訳なのだが。)

とはいえ、ずいぶん酒には弱くなった。それほど量は欲しないし、呑めない。
だからなのか、好きなもの、おいしいものだけをちょっとずつ呑みたくなる。
年齢のこともあろうし、経済的なこともあろうし、
誰と呑むか(独り酒含む)、どこで呑むか、何を喰いながら呑むか、
というものも影響しているようだ。

そうした現在の状況のなかで、いま、「酒の国・土佐」に暮らしていて
鰹を始めとしたうまい魚菜が安く手に入るとなれば、俄然、日本酒が旨い。
日本酒に関しては、まだまったく未知で無知な初心者な上に、
べらぼうに種類の豊富な中から選び出すのは大変だ。
しかし、ここ高知に来て間もなく、
自分の口にすこぶる合う味、香りの酒に出遭えたのはなんとも奇遇だ。
そして、まさにその酒を自分が造る側になろうとは。

洗い物から始める下っ端も下っ端のわしであるから、
「わしが造った酒ぢゃ!」などと豪語しやしないけれど。
出来上がった最初のひとすくいを利く瞬間はやはりうれしいし、うまいし、
皆に呑ませたいと思うのだ。
それはもう「見て見て見て、こんなん出来た!」とはしゃぐ子どもの気分。

駆け出しの蔵人にとって、酒造りの奥深さは全くもって途方もない。
半年で何かがわかるわけがない。
のだが。ひとつだけ気が付いた。
「酒は、人間が造ってるんじゃなくて、微生物が造ってるんだ」と。
当たり前のこと?かもしれない。でも。
人間は微生物をコントロール出来てるわけでもないんだ、
ってことに気付いたんだ。
「ただ祈りながら見守るだけ」だと。
どんなに設備が近現代化されようが、どんなに研究や経験が蓄積されようが、
「最後は開けてみなけれりゃ分からない」んだな。

だからと言って人間が何も出来ないのかと言うとそうでもなくて。
いい酒になってくれ!という想いはちゃんと伝わる気がする。
その、ちゃんと伝えるための試行錯誤、が
営々と継がれ、また続いてゆくのだろう。

きっとこれは酒に限ったことではないはず。
ヒトがつくってきたあらゆるモノも表現も事象もそうに違いない。

・・・
ヒトには好みってもんがあって、
それは生まれ育った土地や時代や環境に影響され、
さらには自分自身の肉体的精神的な変化に影響される。
しかも。嗜好品であるところの酒に関して言えば、
極端な話、必要不可欠なモノ、ではない。
だから。絶対これは旨いのだ!とは決して言い張ることもできないし、
ましてや、呑め!と無理強い、強要などするはずもない。

のだが。
今年もおいしい酒ができたよ。利いてみちゃくれんかの?
と、すいと盃を差し出したいんだよ、わしはね。

自惚れや手前味噌などと揶揄されるかもしれんが。
わしはこの酒が好きだよ。
まだまだ自分の味覚や仕事に自信とか誇りとかをもってるわけではない。
けど。
好きなもんを単純に素直に「好き!」って言いたいのさ。
たとえそれがいずれ変化したとしてもその瞬間の「好き」に嘘はないよ。

なんにせよ。
自分の仕事(作業、作品、表現、結果etc.)の一番のファンが自分、ってのは
なにより仕合わせだと思うのだ。



・・・(つづく)[07.05.25]Fri...Qurax2海月(=)彡
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