__Walk_in_the_moonshine,_and_drink_like_a_jellyfish.__

[02.10.31] 

〜海月の放流〜 021

□前回までのあらすじ:
熊野古道を歩くあるく。炭焼きの手伝いをさせてもらう。
おもしろき人々とどんどん出会う。三重県おそるべし、な気分(笑)。
もう何からどう感謝していいのかこの旅の仕合わせな境遇にただただ有り難や。


●『再会 - 三重、和歌山の巻 -』

呼んでいる? 呼んでいる! 胸のどこか奥で
おいでよって言ってた 確かに 呼んでくれてた
ああ 僕の遥か 僕の彼方 目の醒める黄金の月


・(273)10/12/2002/三重県・熊野市(獅子岩近く)/
山本さんがあてがってくれた快適な家で一日ひとり日記書いて過ごす。

夜。僕の居場所を聞き付けて、奈良から車で数時間かけてMくんが訪ねてきて くれた。ちょうど連休を持て余してたって言うが、嬉しい再会。一緒に晩メシ を喰いに出て、戻るとMくんの差入れで飲み語る。

山本さんに電話入れて今夜はMくん共々この快適な“空き家”に泊めてもらう。


・(274)10/13/2002/三重県・熊野市--鵜殿村/
朝、山本さんがいいタイミングでやってきたところで。Mくんとも別れ、僕も 再び歩きだす。Mくんには紀勢町の上野屋に行ってみるべし、と伝えとく。
山本さん、ありがとうございました。おにぎりまで持たせてもらっちゃって。 まだその辺うろうろしてるかもしれませんけど。あぁ見かけたらクラクション くらい鳴らしてやるよ。ははははは。

七里御浜の小石の浜をひたすら歩く。ザクッジャリッズルッ。足をとられない ように歩くにはどうすればいいかな。足をそっと置くように着地。決して後ろ 足は蹴りあげない。そーっとふわーっと歩く。足跡付けない気持ちで歩く。

一時間以上歩いても延々々々と続く浜。左手にはドドーンザバーンと太平洋。 なんだか世界の縁を歩いてる気分。海の舌先が足もとを洗う陸地の境界線上。

数時間後、浜が途切れると国道を歩く。100mほど先に同じ様に熊野古道を歩い てるんじゃないかって人がいる!まるで彼の後を尾行してる気分。
ある本で読んだが、「人を尾行するときには相手の背中を見ずに足の踵を見る という鉄則がある」らしい。いや別に尾行してるんじゃないんだけどね(笑)。

ちょっと話し掛けたい気になるが彼はずんずん行ってしまうのでこっちがQKし てる間に消えてた。

「港のある日本一小さい村」と看板が掲げられてる鵜殿村。熊野川はさんで対 岸は和歌山県新宮市だ。小さい村というわりには過疎村の様な寂しさはない。 村にはでっかい製紙工場があるからか。
それにしてもこの看板の日本語の意味が不明瞭。
港を持つ村の中では日本一小さいのか?港を持たない小さい村もあるのか?
それとも純粋に日本一小さいのか?まぁどうでもいいけど(笑)。

鵜殿村を見下ろせる小山に遊歩道がのびてるらしい。そこに野宿できそうな休 憩所や東屋もあるだろう。もう日も暮れるしそこを見つけて落ち着こう。
山に入るとすっかり暗闇。結局小一時間彷徨ってやっと小屋を発見。床が抜け てたり窓ガラス割られてたり、なんだかおばけ屋敷風だが、窓から月明かりも 差し、ここならあたたかく寝られそうだ。ふぅ。やっと休める。


・(275)10/14/2002/三重県・鵜殿村-和歌山県・新宮市(速玉大社)-那智/
早朝出発。橋を渡ると和歌山県に入った。さて熊野三山の一つめ熊野速玉大社 に参ろう。あ、昨日尾行してた(笑)人だ。彼は昨夜はどこにいたんだろ?
あ、またいなくなった。

熊野詣もずいぶん時間がかかったなぁ。江戸の昔は7日から10日で歩いたって 言うがすごいなぁ。感慨深し。

目覚めたばかりの街を当てもなくぶらり。今日からお祭りが始まるらしい。
とても気になるが大荷物が邪魔なのでのんびり楽しめそうもないな。

それに「放流」原稿をアップしないと。
自慢の?乾電池駆動のモバイルマシンだが気がついたらモデムが電池で作動し なくなってるぅ。なんですとぉ。うーどっかでAC電源確保しないと。うーむち っともモバイルじゃない。

まぁその辺をなんとかこっそりやったところで。那智勝浦方面にもう行こうか。

国道をてくてくぽてぽて。明日からはまた山の中だ。食料調達しとかないとな。 惣菜売場を眺めてるとあれもこれも喰いたくなる。パックされてない揚げ物類 がすべて試食品に見えてきて、口に運んじゃいそうで困る(笑)。

サーファーたちの多い海岸。もう日も暮れようというのにまるで海鳥のように 波間に揺れてる。

今夜は刈り取り後の田んぼのあぜ道で野宿。
ラジオドラマに耳を傾けながら安ウィスキーをペットボトルでちびりちびり。


・(276)10/15/2002/和歌山・那智勝浦町-那智大社-青岸渡寺-(大雲取越)/
那智駅近くの補陀洛山寺から海を離れ山道へ。ここからは「中辺路」ルートに なるらしい。

大門坂の美しい石畳を上っていると平安装束の姐さんが3人下りてきた。
タイムスリップ???

えっちらおっちら階段を上り詰めると那智の滝が遠くに見えてきた。
15年くらい前に一度来たことがあったのだけど、記憶はかなり離散してる。

熊野三山、二つめ、熊野那智大社。ふいーっ。来たぁ来ました。

すぐ隣に那智山青岸渡寺。
上野屋さんで知り合った中世古さんから是非、副住職の高木亮英さんを訪ねて みろと言われてたので、行ってみる。が。そんな地位の人に飛び込みで会いた いって言っても会えるもんなんだろうか?

案の定、受付?で「どのようなご用件でしょうか」とカタい応対。あいやー。 そんな当たり前のことも考えてなかったよ、おい。うーんとえーっと・・・。 歩いて旅をしてること中世古さんと知り合いであることなどを伝えると、急速 に応対が軟化。少々お待ちくださいと奥の間に通される。お茶とお菓子付き。 今ちょうど昼食に出てるのだが急いで済ませるので待っててくれとのこと。

あーそれにしても、会えたところで一体何を話したものか。ぼやーんとなーん にも考えついてないところに、「お待たせいたしまして」と軽妙にやってきた。 突然訪ねてきてしまって恐縮ですぅ。

かなりおいそがしい方なのにわざわざ時間を割いていただいて短時間ながら話 しができた。すっごく気さくな方。熊野古道をゆくならと詳しい地図をもらい。 その上。供物のりんごとみかんをひょいひょいとつかむとリュックに入れとき なさいって。
さらに。(中世古さんの知り合いならと)隣の茶屋でうどんでも食べてきなさ いと高木さんのツケでうどんとおにぎりをごちそうになる。那智黒(飴)も。 うひゃー有り難すぎるぅ。
茶屋の主人にあとは頼む、と言うと、では気を付けて、とすいーっと風のよう に行ってしまわれた。

那智山青岸渡寺・副住職にメシおごってもらったひとなんてそうめったにいる もんじゃなかろう。なんとももったいない話だよぉ。合掌。

茶屋に荷物をあずかってもらって、那智の滝を見に行って、戻ってくると、雨 が降り出した。困ったなぁ。でもまぁレインウェア着込んで、ゆこう。

大雲取越はかなりの難所だった。しかも雨。辺りはどんどん霧が立ち込めてく るし。ピンチ。

なんとか今夜の寝所の当てにしてた舟見峠に到着。あぁ東屋があって助かった。 その頃にはもうすっかり辺り一面真っ白。雲の中に入ってしまったのかも。

メシ喰ったらとっとと寝ようと思うが雨風は急激に荒れ狂いだす。壁のない屋 根だけの東屋ではもう到底雨風はしのげない勢い。くるまるビニールシートは あおられはためき、とても眠れない。寒いよぉ。冷たいよぉ。泣きたくなるよ。


・(277)10/16/2002/和歌山・那智勝浦町(大雲取越)-熊野川町(小雲取越)/
昨夜いつ眠りに落ちたのかわからないが、目が覚めた。
Sunshine!ああ生きてるぅ!おお、空は澄み渡り山なみの向こうに那智の海が 見渡せる。ああ。生きてるぅ!

しっかし寒いなぁ。これまではヒートアップするのでTシャツ一枚で歩いてた けど。今日は一枚多く着込む。

難所と言われる道が果てしなく続く。
一旦、小口の集落に下ると今度は小雲取越。小口で食料補充できると思ったの にみんな閉ってる。しまったぁ。

桜峠に向かう手前、桜茶屋跡。展望休憩所サイコー!目の前の山なみは今日歩 いてきた大雲取越だろうか。その山の端に月!眼下の集落に明かりがぽつぽつ 灯る頃、月を愛でながら一杯。今夜の食料はカンパンくらいしかないけれど。 ラジオからノイズ混じりにジャズヴォーカル特集。なかなかどうしていい月見。


・(278)10/17/2002/和歌山・熊野川町(小雲取越)-本宮町(本宮大社)-/
朝日の前触れで起きる。晴れやかな気分。気が充ち満ちてる。
見下ろす山あいの里は雲の下。まるで山に囲まれた湖の世界。あぁ思い出す。 かつて暮らした山梨の光景。秋冬の早朝。甲府盆地を見下ろす高みに立つとよ く盆地が湖になってた。白くゆらめく朝霧に覆われて。そして正面には富士山。 なつかしい。

今日はいよいよ熊野古道も大詰め。熊野三山3つめの熊野本宮大社はこの山を 下った先にある。

下り坂が延々と続く。ハイスピードで駆け下りてく。これまでのタイムレコー ド更新か?いや競走ではないんだけどね。

本宮町に入る。なんだかにやけてくる。にひひひ。来たね来たよ。

かつて大社があったという大斎原(おおゆのはら)に足を踏み入れた時は神妙 になった。
伊勢から出発して一ヶ月。熊野古道・伊勢路ルート完歩。目的などなく漠然と 目指してた到着点だったけど。なんだか達成感のような嬉しさ。

それから少し歩くと、熊野神社の総本山・熊野本宮大社到着!
境内には4つの神(プラス1つ)がまつってある。3つめが主神だが4つめの アマテラスさんの前に立ったらにやにやが止まらない。そう言えば、お伊勢さ んもアマテラスさんだったな。やぁやっとここまで無事にたどりつきましたよ。 ありがとう。そして。端っこにちょこんと八百万神もまつってある。ここでは 神妙な顔で、でもかなりくだけた気分でお礼を言った。山々では助かりました。

さて。「達成感」なんてものをへたに感じてしまうと直後は腑抜けてしまう。 が。そうもしてられない。上野屋さんに帰ろう。歩いてるだけじゃ間に合いそ うにない。最短ルートを考えなくちゃ。

昼メシ喰ったら熊野川に沿って国道を新宮方面めざして南下開始。車やダンプ がぶんぶん横をすり抜けてく。歩道がある区間は少ないので、こわいぃ。
さらに熊野古道に比べて国道のなんと単調なことか。やっぱりここは車の為の 道であって歩くための道じゃあないな。つまらん。
熊野川を見下ろせるのが唯一の救い。むしろ船で川を下って行ければいいのに。

どんどん日が暮れる。じゃんじゃん暗くなる。今夜の寝所になりそうな道の駅 への道のりは遠い。

真っ暗な中、やっと道の駅・瀞峡街道熊野川にたどりつく。夜露をしのげそう な東屋もあり助かる。ああ、お月さんも居る。
ふぅ。今日は何十キロ歩いたんだ?疲れたよ。


・(279)10/18/2002/和歌山県・熊野川町(道の駅)--新宮市(王子ヶ浜)/
道の駅があわただしくなってきたので出発。AMラジオさえまともに入らない山 あいの国道168号を熊野川に沿って南下。何も考えずにただ歩く。単調な道が だらだらと続く。森の道が恋しい。

昼。新宮に戻ってきた。さあて。次の一歩は?尾鷲に寄ろうか紀勢町に帰ろか。 上野屋さんに電話してみる。およそ一ヶ月ぶりに声を聞いたらうれしくなっち ゃってもう新宮から汽車に飛び乗ってしまいたくなる。少しでも旅費を抑える ために行けるとこまで歩くつもりだったが・・・。

今夜は十三夜。とりあえず食料残ってるんで今夜は新宮で野宿で月見にしよ。 夜までは街をぶらぶら。新宮には無料ネットコーナーなし。残念。

王子ヶ浜。海亀が産卵にくるらしいが時期ではない。浜に掘っ建て小屋。ホー ムレスのおっちゃんでも住んでるのかもと暗くなるまで様子をうかがうが誰も 来そうにない。よし、ここなら雨風しのげる。

目の前は東向き。太平洋と空がだだっ広い。そしてでかい雲たちに阻まれなが らも見え隠れする月!海辺は山の峠よりあたたかいな。でも雨が時折パラパラ。

19時には寝た。23時前に目覚める。そしてもう頭が冴えて眠れない。「上野屋 での再会」にわくわくして眠れないのかも。うす明るい海と月をぼえーっと眺 めて一晩明かす。
一神教と多神教、神仏習合についてなんとなくぼんやり考えてる。鎌倉時代の 宗教家の多くも放浪してる時期がある。僕は何かを悟ったりするんだろか?


・(280)10/19/2002/和歌山県・新宮市++三重県・紀勢町(上野屋)/
5時半。太平洋にでっかい朝焼け。釣り人たちはもう竿を振り回してる。清々 しく気持ちのよい朝。だが予報によると昼前から雨、らしい。こりゃもう汽車 に乗ってしまいたい。

さてどうすっか。上野屋に帰るにしても朝早すぎる。どっか公園で日記でも書 いて期を待つか。

雨降り出す。歩いて旅費を浮かそうかとも思ってたが。やーめた。もうゆこう。 久しぶりに列車に乗る。自分が歩いてきた道も雨に濡れている。

途中下車。熊野市。あまり早く上野屋に着いても邪魔だろうから時間調整。
市立図書館行ってWeb checkでもしてよう。次の列車まで1時間半ある。

再乗車。土曜日だけど中高生満載。しばらく立ってる。
尾鷲駅で馬越峠を越えてきた中年ハイカーたちがどやどや乗り込む。雨の中、 大変だったろうな。車内での会話がはずんでる。僕もぢつは歩いたんですよ、 と会話に加わりたい衝動にかられるが、止めとく。

午後4時すぎ。無人の伊勢柏崎駅到着。雨の中、気が急いて浮足立ってもつれ がちな足取りで上野屋めざす。
「ただいまぁ」「おかえり」女将の笑顔。無事帰り着きましたよぉ。はぁ安堵。 一ヶ月。積もる話もあるけれど。何をどこから伝えればいいのか。
またしばらく居候させてくださいまし。お世話になります。

ギャラリーではTHISの宮嶋さんの奥さん・美衣さんの写真展が開催中。日常の 写真や旅の写真たち。僕と美衣さんの到着がちょうど一緒になったので女将と 三人でコーヒー飲みながら写真を見てる。
写真が切り取る視点(おそらく撮影者の興味の対象)が僕が歩いてる時の視点 ととても近いものを感じる。
台湾食堂の写真が懐かしい。9ヶ月前の光景。音やにおいや味まで思い出すね。

僕がカメラを持たないのは僕以上に僕のイメージを形にできる人がいるからだ。 なーんて、ひとりで妙に納得してる。うんうん。

久しぶりにゆったり湯舟に浸かって日々を振り返る。


・(281)10/20/2002/三重県・紀勢町(上野屋)/
昨夜、主は大阪に行ってて帰宅が遅かったので、朝、改めて。
「ただいま、帰ってきました」「おかえり」
あれから一ヶ月。おもしろおかしくおいしい貴重な体験ができましたよ。なん とか無事帰ってこれてうれしいです。

あいにくの雨。今日は庭で芋煮会をやる予定なんだって。急きょ場所を屋根付 の中庭に変更。準備を手伝う。

上野屋の主・小倉さん、本業は建築設計屋。今日は本業での繋がりの宴らしい。 山形出身の方が仕切り、山形から取り寄せた芋とこんにゃくを堪能する宴。
はたまた水産会社のオーナーはハマチをその場でさばいてくれたりとか。

居候の僕も働きますぅ。せっせと延々と芋の皮むき。

さあさ飲んでのんで食べてたべて。はひぃ食べてまふ飲んでまふぅ。うまひ! なんだか三重県に来てからグルメツアー度高し!(笑)嗅ぎ付ける鼻が利くっ ていうのか。私はきっと幸運の星の下に生まれたんですぅ。恵まれてます。

腹減らしに?THISのミニライブ。贅沢ぅ。宮嶋さんと下村美佐さんとは一ヶ月 ぶりの再会。こんちわ。無事帰ってきましたよぉ。わははは。
もうなんだかすっかり勝手に旧知の仲な気分。(宮嶋さんと僕とは似てるって さんざん言われ、影武者になれるかもって思ったからかも・笑)

今日の演奏もイカスぅ。特によかったのが、絶妙なタイミングで入ってくる幼 児の声。これぞ即興。ナイス・コラボレーション(笑)。

宴が片付き、上野屋主とサシでゆったり飲み直す。旅でのこと酒のことうたの こと・・・。うひゃあ久しぶりに嬉しく酔っぱらったぁ。無事帰れてよかった。


・(282)10/21/2002/三重県・紀勢町(上野屋)/
寺田町ライブ。この日のために僕は旅をつづけてきたんだ。
そう言ってもいいと思ったりなんかしたりして。
旅に先立って「海月会」なる壮行会を大切な友人・うたうたい寺田町さんが催 してくれたりもしたし。
お互いが旅先で出会う不思議と仕合わせ。いつかそれを実現させたかった。

僕がライブハウスなどにテラさんを訪ねてゆく姿しか想像してなかったけど。 感動の再会はなんとも不思儀なことに、上野屋さんに居候しながら僕がテラさ んを待ちテラさんが僕を訪ねてくる格好になってた。

あいにく朝から雨が降ってたが。急にものすごい風。厚い雲は吹き飛ばされ。 なんとぴかぴかの晴れ間が。おお、いい兆し。空の準備ができたら。玄関に飾 るすすきを取りにいったり宴の準備。

さてどんな顔して迎えよう。感動して泣くかも(笑)と思ったけど。いざその 瞬間は。お互いBig Smileでがっちりとシェイクハンド!やぁやぁ。

リハーサルから既に鳥肌。この声このギター。あぁ逢えたんだぁ。

THISの二人も今日はからむらしい。あーわくわく。

今宵の宴はほんとに特殊なそして貴重なライブだよ。
お客も「寺田町」を初めて聴くっていう人がほとんど。20人ほどだったかな。 飲み食いものを持ち寄って歓談しつつ小一時間食べてからライブって寸法。

僕は上野屋さんの居候としてウェイターよろしく手伝い・裏方に回る。

echo吸いに外に出ると速い雲の流れを押し開いて完璧な満月が昇り始める。
そうそれはまさにカンペキ!だった。こんな月はめったにあるもんじゃない。 とても独り占めできる代物じゃあない。
テラさんはじめみんなに声かけて、最高の夜の始まりをその満月に予感する。

「すみませーん、私にお酒を、いただけますかぁ、・・・焼酎、お湯割りで」 照明がぐっと抑えられ、テラさんのその言葉から酔いどれライブは始まった。

マイクは使わず、生の声とギター。あぁ、「うたうたい」のうたのチカラ。

僕は客席ではなく裏に回っててよかった。手元に酒瓶があったから勝手にじゃ んじゃん飲れるからね(笑)。

僕が旅立ってから10ヶ月ほどの間の寺田町ライブがどういうものだったか知ら なかったし、今夜は特別だったのかも知れないが、選曲は初めて聴くものが多 かった。もちろん馴染みのうたもあるが古い曲が多かったかもしれない。

さらに今夜の特別は、THISの二人も最後に4曲ほどからんだこと。
寺田町通信vol.40でも書いてあったけど、
(参照:http://www.geocities.co.jp/Foodpia-Olive/7100/tera.htm
テラさんとTHISの宮嶋さんは20年以上の付き合い。

あうんの呼吸って、あるんだねぇ。

拍手拍手さらに拍手。テラさん、・・・しっかり、受け取りましたよ。

うたは終わるがうたげは続く。ブラーボ!
ライブが終わってからしばらくまた改めて飲み食いは続き、場は一気にゆるむ。 僕はこの宴の為に親友・本郷ひろきち&あこに頼んで山梨の“葡萄のチカラ” のある「葡萄の酒」(赤ワイン)を取り寄せてもらっておいたので、テラさん はじめ皆様に振る舞って回る。すごく好評でうれしくなる。
(ひろきち&あこ、ThanQ!)

僕が炭焼きでお世話になった津村父、母も尾鷲から車で一時間近くかけて来て くれてたのでしばし話し込む。「あんた今日は一番生き活きしとるね(笑)」 なんて言われたりなんかして。

和んでる皆に向かってテラさんが僕のことを「大切な友人」と紹介してくれる。 照れるぅ。しかし、こんなに嬉しいことはない。有り難い。

寺田町BBS( http://bbs2.otd.co.jp/272093/bbs_plain
を介して知った上野屋さんとの出会い。そしてその上野屋でのテラさんとの再 会。ほんとに嬉しい不思議。「呼ばれる」ってやっぱりあるよ。ただただ感謝。

酒が流れ笑いが弾けて夜も更けゆく。客も徐々に退き、気がつきゃ午前2時頃。 そろそろお開き。いざ帰ろうとするテラさんをちょっとだけ引き留める。
僕がうたをひとつ、うたってもいいですか? うん、ぜひ、・・・もらうよ。 全員荷物かかえたまま立ったまま。うたう。月光の道・・・。
再びの再会を誓いまたしばしの別れ。テラさんとシェイクハンド&ハグッ。

まさかそこで僕が感極まって泣くとは思わなかったなぁ。はは。
空には満月。笑って見てる。

宴の後のギャラリーでひとり余韻に浸る。興奮冷めやらず。4時頃まで眠れず。 ほんとに最高の夜をありがとう。


・(283)10/22/2002/三重県・紀勢町(上野屋)/
さて。僕もまた旅立つ心の準備をしないと。でもとりあえず今日はのんびり洗 濯。そしてひたすらメール/日記書き。
手を休めながら地図を開き眺める。次は何処へ?
それにしても今日は寒い。もうそろそろ冬の声を聞くのか?

今日の晩メシ、すき焼き。おっほう!

大満腹の腹をさすりながら一服。あっああ!ギャラリーの窓から月光!
たちまち窓が一枚のスクリーンとなって月のライブ映像。
今夜は月に向かってひとりでうたってる。


・(284)10/23/2002/三重県・紀勢町(上野屋)/
そろそろ出発しようかと思ってたが。日記をまとめてしまいたかったし。この 先どこで通信できるかわからないし(いつも入稿遅くなってごめん、斎藤)。 ずるずると居座ってしまってすみません、上野屋さん。

今日の日記を今日書いてるなんて久しぶり(笑)。

急激に寒くなってきたな。寝袋調達しないと、もう野宿旅は厳しかろうな。
地図広げて思案中。越冬のための仕事と家が見つかったら、一番いいなぁ。

日記もとりあえず一段落したところで。明日からまた後先考えずに再び歩きだ そうか、うーむ。
夜、主が。もしこの先の当てや予定がないのなら見つかるまで決まるまではこ こに居てかまわないんだよ、呑み友達が居るのも嬉しいし、と言ってくれる。 なんとも有り難い言葉。

ぢっとしててナニカが舞い込んでくるかどうかもわからないが、無闇にこの寒 空の下動き回ってたってどうなるものかわからない。まぁ元々そういう旅だが。 でも。ナニカが呼んでてぢっとしてられなくて動きだすっていう衝動が今のと ころない。ってことは待つのもテかな。

上野屋さんのお言葉に甘えさせていただこうか。その代わり。僕ができること はなんでも手伝おう。またしばしお世話になります。


・(285)10/24/2002/三重県・紀勢町(上野屋)/
午前中、日記書き。午後、薪割り。
居候の身としてはタダメシ喰わしてもらってるだけじゃあ申し訳ないので、手 伝えることはなんでもやりたい。
上野屋では近々(11/2)、薪ストーブの火入れ式(&THIS Live)をやるらしい ので、そのための薪を割る。
主が購入した斧はまだ未使用のまっさらなものだが、僕が最初の使い手となる。 実のところ、薪割りなんて小学生の時にちょっとやったきりで、まったくの初 心者と言っていい。斧に付いてた本「斧の本」を読んで予習(笑)。

さて実践。悪戦苦闘四苦八苦七転八倒精神統一一打入魂大願成就。

ふう難しいもんだなぁ。もうすでに背筋とてのひらが筋肉痛。疲れたぁ。
日が暮れる頃には片付けて、また明日、だな。

おつかれさま、とビールいただく。

ゴトーさんがやってきてたので主とともに話してるが、ゴトーさんは車なので 飲めず。しかし、折角だからと(何が折角なのか?・笑)酒モードへ移行。後 で奥さんに迎えにきてもらうってことで安心して宴のはじまり。先日の寺田町 ライブについてなどなど語りながら、目の前で干物焼いて酒も進む。

主が自宅に引き上げた後も二人で飲み続けてる。
僕はどういう形で旅を終えようかについて考えてる。結局僕はすべてにおいて 「退き際」というものを見極めたいと思いつづけてる。もちろんまだまだ見習 い、修行の段階なのだった。究極的にはどう死ぬかが最大のテーマでありひい てはそこからどう生きるかが見えてくる充実してくる・・・。

なーんてことを話し込んでいたら12時を回ってた。奥さんが迎えに来たので、 今夜はお開き。いつかゴトーさんちにも寄ることになりそう。おやすみなさい。


・(286)10/25/2002/三重県・紀勢町(上野屋)/
午前中、日記書き。午後、薪割り。
昨日よりうまくはなってきたかな?でも木が硬くて簡単には割れない。斧を持 つ握力がなくなってくる。ふにゃあ。

まぁ大して役に立ってるわけではないけど、今日も疲れた。
たっぷりゆったり風呂に入ったら、おいしい晩ごはん。仕合わせ。

食器を片付けてるとギャラリーに月明かり!最高の採光。窓を開けて外気と川 音も取り込む。THISのCD一枚コップ酒一杯分の月見。


・(287)10/26/2002/三重県・紀勢町(上野屋)/
雨。朝だか夕方だかわからないうす暗さ。

寺田町のCD聞きながら日記を手帳に書き写す(日記はコンピュータで入力して るが、バックアップのためにも手書きで手帳にも付けてる。二度手間??)。

日毎に寒くなっている。もう冬ははじまってるのかもしれない。
そこでいよいよ薪ストーブに火入れ!おおっ!!あったかーい。
上野屋主も本業そっちのけ(笑)。火に見入りながら語らい沈黙しまた語らい。 女将さんも、夕方やってきた美衣さんも火のそばであったかい笑顔。

火の見えるストーブっていいな。エアコンやファンヒーターとは違うあたたか さがきっとあるな。

今日は一日薪ストーブの前でのんびり日記を書き、語らい、あたたまる日。

夜更け。今宵もギャラリーに月光が差し込み、僕を誘い出す。そろそろ、か。


・(288)10/27/2002/三重県・紀勢町(上野屋)/
主と女将が昼過ぎに出掛けてしまってから、薪割り。

写真展と店番?のためやってきた美衣さんはいつもより早め。缶コーヒーの差 入れもらって、薪割りの手を休める。

先日、車を置いて帰ったゴトーさんもやってきた。ゴトーさんにも手伝っても らいながら日暮れ前まで薪割り。

お客も退けたところで美衣さん、ゴトーさんと3人でお茶。なんだかすっかり 居候生活も馴染んできたような、もうずいぶん前からこんな風に過ごしてきた ような気分。

でも。やっぱりそろそろ・・・。

美衣さん達が帰ると、戸締まりをする。風呂に入って一日の疲れを洗い流す。 湯に浸かってぼーっと遠くを見る目。あと一歩、決めかねてる。

主が帰ってくると明かりを抑えたギャラリーで飲み始める。

モノや家、空間に人が馴染む。モノたちが人に馴染む。馴染んでくるしっくり くる。しっくりくる音楽、酒、人、場。長年使ってきた愛用品。愛着。
つい一ヶ月前の出会いを振り返る。
しっくりくるものは時間をかけて馴染んでくるのには違いないけれど。
それがしっくりくるだろうことは最初からわかる、のかもしれない。

明日、ゆきます。なかなか言い出せなかったけれど、ふっと口に出してみたら まるでそう決まっていたかのように、腹が座る。
主にはこのタイミングが最初からわかっていたのかもしれない。だから、特に 何も言わずに酒の準備をしてくれたのだろう。

語りたいことはまだまだたくさんある。まだまだ飲み足りない。けれど。全部 満足するまでやりつくしてしまわないで、ちょっとだけ残しておく。次のおた のしみにとっておく。それでいい。それがいい。

ありがとう。


・(289)10/28/2002/三重県・紀勢町崎(上野屋)--錦/
ゆっくり朝ご飯をいただきながら主と女将とこれまでのことこれからのことを 三重県の地図を広げながら話してる。旅立つ気配だ。

上野屋の前で記念に写真。もしかしたら上野屋HP(http://www.uenoya.net
の「今日の上野屋」辺りに掲載されるかもね。
二人とがっちり握手して後ろ髪ひかれる想いだが、ぢゃまた、行ってきます。

一応、元気よく歩きだしたはいいけれど。久しぶりの荷物は重く。脚は運動不 足気味。さらに。上野屋の居心地の良さから抜け出した直後の冷たい風は格別 厳しく感じる。

歩き始めてすぐ。車ですれ違う中世古さんに遭遇。道端に座り込んで今後の事 など話してると、どうせこの先の道の途中だし「酒でも飲もうや」の誘い文句 で(笑)今晩は急きょ中世古さんちに泊めてもらうことになった。
(当初はもうちょい先のゴトーさんとこをめざすつもりだったが一日延ばす。) ぢゃ、話しのつづきはまた今夜!
再び歩きだす。またおたのしみができたのでうれしい。天気もとってもいい。

でもなぜか、頭の中では勝手にブルース。うーむ。
まだ別れのさみしさの方が勝ってる?

前へ前へ。一歩ずつ半歩ずつ。
錦の漁港に着いたがまだ日は暮れぬ。海を見下ろせる休憩所でカンパンかじり ぼーっと過ごす。半目を閉じて寝るでもなく起きるでもなく、ぼーーっ。
何を考えてるかについて考えつづけてる。

日が暮れて寒くなってきたので、中世古さんちを訪ねる。中世古さんはまだ帰 宅してないが奥さんは、海月と名乗るまでもなく僕の格好見るや、どうぞどう ぞと招き入れてくれる。家族はちょうど食事中。突然おじゃましてすみません。

中世古さんが帰宅してから二人で晩酌。おいしい料理においしく酒も進み、話 しも弾んでくる。中世古さんの人脈や興味対象の広さはすごいな。

瀞峡方面に「百夜月」(ももよづき)という地名があることを教えてもらい、 その名前に一発でひかれる。
そこには現在じいさんばあさんの二人しか住んでないらしく。しかも。北山川 を船で渡してもらうしかたどりつく方法はないのだとか。

あぁ。そこで月を見てみたい。なんとかもぐりこめないものか?軒先で野宿で もさせてもらえまいか?

とりあえずはめざしてみよう。まぁどうせ「まっすぐ寄り道」するだろうけど。


・(290)10/29/2002/三重県・紀勢町錦(中世古宅)--紀伊長島町(ゴトー宅)/
朝。中世古さんに寝袋もらう。おおっ!これで夜は快適!?
少なくとも野宿旅に耐えられる期間は延長されることだろう。
(荷物が増えたことに耐えられるかどうかは、今後の課題・笑)

行ってきます!と歩きだして早速“今後の課題”に直面。にゃあ。

土砂崩れによる一般車両通行止の道も徒歩なら難なく通してもらえて、紀伊長 島町に入る。錦の漁港から長島の漁港へ。山を越えると海また山を越えると海。 この辺りはたいていこんな地形。
そのため道路が整備されるまではそれぞれの地域は陸の孤島状態だったらしい。

青空に下弦の月。白い雲の中を泳ぐ。

どっから来たのー?休んでいきなー。と声をかけられ二人のおっちゃんがくつ ろいでる物置前手作り野外リビングスペース(謎)で一服。徒歩野宿旅の事を ぽつぽつ話したり感心されたり。
目の前の堤防の向こう、岸壁に掘っ建て小屋(こう言うと失礼だな)がある。 中は狭いがまるで船の中のようでテーブルと寝床。カセットコンロで火も使え る。ここ、いつでも遠慮しないで使っていいよ、ほんと遠慮しなくていいから。

なんともありがたい提案。とりあえず今夜はゴトーさんとこに泊めてもらうけ ど、是非この“船室”にも泊まってみたいな。波音を足もとに聞きながら寝て みたいな。ありがとう。また近々寄らせてもらいますぅ。

堤防沿いにぽてぽて歩きあちこち彷徨いながらゴトーさんち到着。一服したら、 早速、庭の草むしり。それからビール。順番は大切です(笑)。

僕が役に立てそうな事がここにはあるようなのでしばらく居ることになりそう。

夜更け。僕用にと与えてもらった二階、の窓からecho一本分の月見。
今日は二回、月を見た。昼も夜も月に見守られてる。それはとても心強い味方。 けれど。僕はどこへ行こうとしてるのか?どこにたどりつくのか?
月光の導くままに。ナニカに呼ばれるままに。次は何処へ?
望んでたカタチに近付いてきたとは言え、果してこれは旅なんだろか・・・?


・・・(つづく)[02.10.31] 海月
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