__Walk_in_the_moonshine,_and_drink_like_a_jellyfish.__

[02.10.02] 

〜海月の放流〜 019

□前回までのあらすじ:
最悪の体調も友との再会によって回復。
これがキッカケなのか旅のペースをもっと落としていく。
思うところあり長野方面は後回しにして
紀伊半島を時間をかけて歩いてみることにする。


●『月光の道 - 三重の巻 -』

どうやらようやく海月流の旅がはじまった。いままでだってかなり海月チック だったけど。まだ旅を続けることに執着しすぎていたかもしれない。

生き続けるのか生きるのか。旅を続けるのか旅するのか。

今はもう。例えば明日にでも旅を終えてしまってもいい、ってくらい気が楽。 安住の地をみつけたとかもう帰りたいというのとは違う。きっとまだまだ旅は つづく。

雨が降る日は予定を棒に振ればいい。
途方に暮れてひざかかえて体育座りしてればいい。止まない雨はない。
晴れたら浮かれて太陽にスキップして。月夜にはうたえばいい。

道をさがしたり選んだりするから道に迷う。
車で入ってゆけない道はあるけど歩いてゆけない道はない。
道なんていくらだってあるしどれだっていい。

海に突き当たってしまったら。月を待てばいい。
月光の道がまっすぐ僕に向かって伸びてくる。


・(245)09/14/2002/三重県・伊勢(度会橋・宮川堤)--多気町/
昨日までの日記vol.18を昼、入稿。
さぁてと。天気はどんよりどよどよしてるけど。熊野へ向けて行ってみますか。

ドシャブリ。ちょうど雨宿りできる地蔵小屋?があって助かった。体育座りで 雨音に包まれてるとここまでの疲れが出たのかその姿勢で一時間ほど眠ってし まった。目覚めたら雨がちょうどあがった。

たぶん夜も降るだろうな。雨がしのげるところが見つかったらとっとと落ち着 こう。

暗い夜道。あぁいい場所が見つからない。・・・高速道路の高架下トンネル発 見!これだ。トンネルの先は林道だし人も来そうにない。ふぅ安堵。


・(246)09/15/2002/三重県・多気町--大台町/
熊野三山へ向かう昔の道がところどころ現在でもかつての面影のまま残ってる。 それを熊野古道と呼ぶのだが、現存してるのは峠道なので山の中に入ってく。 伊勢から熊野へ向かうルートは「伊勢路」と呼ばれてる。そのルート上でまず 最初の峠が「女鬼峠」。歩きやすい道でもないけれどアスファルト道よりも気 分的に楽な気がする。山の空気のおかげかな。

伊勢路はいまの国道42号と同じようなルートなので大半は国道を歩くことにな る。食料の調達やらのためにも山に入りっぱなしというわけにもいかないので まぁいいのだが。国道は。歩道があったとしても基本的に車のための道なので 歩行者にはやさしくない。休憩するところがない。はぁ。

かつてお伊勢参りをしてから熊野詣でをするのが流行ってた時代。多くの旅人 がぞろぞろと列をなして歩く様を「蟻の熊野詣」と称したそうだ。約130kmの 道のりを7日間くらいで歩いたらしい。道中には相当キツイ峠もあるようなの だが大したもんだ。
僕は今回もっとのんびり行こうと思ってる。天気がよくないことと連休がつづ くこともその理由。熊野古道も世界遺産暫定リストに登載されたらしいがそれ によってまた人気が出て蟻の行列に加わらねばならないのはイヤだし。

行列はイヤだが。蟻のように視点を低くかまえて見るのはまたおもしろいかも。

道の駅・奥伊勢おおだい。この周辺集落の中心地になってるみたいなにぎやか さ。役場も電車の駅も大型スーパー、電器店もコンビニもパチンコもなんもか んもここに集中してる。
今夜はここらで野宿、と目を付けてたけどちょっと無理だな。

酒も調達ししばし休憩したらちょっと進もう。すぐ3km先には道の駅・奥伊勢 木つつ木館もあるけどそこまではもう行きたくないな。もう暗いし雨降りそう だし。

で。今夜は橋の下。まだ雨は降っていないので橋の真下からちょっとずれて空 が見える位置で落ち着く。ロウソク立てたらいい感じ。ゆらめく炎を眺めなが ら心地良く酔ったら、寝る。


・(247)09/16/2002/三重県・大台町--大宮町(道の駅・木つつ木館)/
夜明け前雨降り出す。もうここ何日かずっとこのパターン。あわてて橋の真下 へ。(わかってるなら最初からそこにいればいいんだけどね。解放感が違うか らさ。)さてと。夜明けまで寝直し。

橋の下で雨を眺めながら午前中はずっと本を読んでる。もうまったくあわてて もいないし急いでもいないから、今日も一日ここにいてもよいが。雨が降り続 ける限りはあまり快適とは言えない。ちょっと先の道の駅の様子でも見てみよ うか。ちょうど雨も一時的に止んでるし。

距離にして2kmくらい。ざっと30分だけ歩く。道の駅・木つつ木館には無料の 休憩小屋が物産館横に併設されてる。とても快適。ここは夜も開放されてるん だろうか?だったらいいのにな。
バイク旅のにいさんが一人。今日の進路を思案しつつ休憩してる。日本中走り 回ってもう二ヶ月になるという。どちらともなく話し始める頃また雨が降り出 す。どうしたもんかねぇ。今夜はここで過ごしますか?いいっすよねぇ、ここ。

梨食べるかい?と休憩に立ち寄ったご夫婦。いただきます!即答。すっごくジ ューシーでおいしい!梨一個で満腹。

物産館は夕方5時に閉館したが、夜になってもとがめられることもなく閉め出 されることもなく。おぉここで一晩過ごせそうだぞ。やった!予報によると今 日明日はどうころんでも雨だというし。ここで動かずにのんびりしよう。

あゆ釣りに来ていたというおじさんが駐車場で晩メシの支度をはじめる。駐車 場よりこっちの小屋の方が快適ですよ。声をかけると。一緒に食べるかいとの お誘い。やっほう!

旅や山や魚の話を肴に食べ物も酒もいただいて、あぁうれしいおいしい。楽し い夜だなぁ。愉しい場だなぁ。有り難や。

おじさんの1BOX車はすっかりキャンプ仕様に手作り改造されててすごくシステ マティックにきれいにまとまってる。一度釣りに出れば一ヶ月二ヶ月は出っぱ なしだという。定年を迎えたらやりたかったんだよととてもうきうききらきら した笑顔。そういう暮らしもいいなぁ。こういう先輩に出会うと自分が年を重 ねてゆくことも楽しみになる。

バイク兄もいいやつでいい旅を続けてきたんだろうなとうれしくなってくる。


・(248)09/17/2002/三重県・大宮町(道の駅・木つつ木館)/
朝メシもあゆおじさんにごちそうしてもらう。湯を沸かしパックの米とカレー と豆腐わかめスープを温めほかほかあつあつの朝メシ。あぁうまい。
僕は自炊道具を持ちあわせていないから一人でいる時はあったかいものってな かなか喰えないんだよね。うれしい。
そう。もうあったかいものがうれしい気候になってるんだな。雨の所為もある けれど。

昼メシ分の食料までもらって感謝感謝のあゆおじさんは静岡まで帰ってった。 ありがとうございました。お気をつけて。

今日は一日中雨だ、きっと。もうじたばたしないでここに居させてもらおうっ と。バイク兄もどうやら同じ考え。二人だと心強い。二人で居ても好きなこと に没頭したりぼーっとしたり。適度な距離感覚がお互いわかってるから気をつ かわずに済む。でも。ふっと声をかければちゃんと反応が返ってくる。あぁそ れが安心感。

3時過ぎから雨は上がりどうやら回復傾向。それでも今からここを出発したと ころで当てもなし。やっぱりここの居心地の良さったらないし。ここならまと めてやりたいこと、日記書きと読書もできるしね。

夜。バイク兄が米を炊いてくれる。うまし!飲み語り今夜も楽し。予報では明 日から好天が続くらしい。いいぞいいぞ。この道の駅での足止めはいい方向に 転がるキッカケになったなぁとつくづく思う。
そして。久しぶりの月!いいぞいいぞ。


・(249)09/18/2002/三重県・大宮町(道の駅・木つつ木館)--大滝峡/
朝日。太陽。日射し。窓から入ってくる明るさと熱で目覚める。やっほー! Lovely Sunshine!

荷をまとめ読み終わった本をバイク兄にプレゼントして。さてと地図。今日は どこまでゆこう。どこまでも行けそうな気分でもあるし。また1、2時間歩い ていい所が見つかればそこで落ち着いてもいいし。のんびりいきまっしょい。

バイク兄が先に出発。ぢゃ気を付けて。よい旅を。お互いに。ガッチリ握手し て別れる。よし。僕もゆこう。

カラッと清々しい空気。緑の山々青い空。スキップしたくなるほど。

大滝峡へ向かう自然歩道の看板。お、こっち行ってみよう。大内山川沿いに続 く道。巨石河原。水量豊富な綺麗な川。もう10日間も風呂に浸かってないから 川で体洗っちゃお。秋の河原ですばやく全裸男。うひゃ。冷たいけど気持ちい い。
さっぱりしたところで辺りを見回すと。アユだかなんだか大小様々ひゅんひゅ ん飛びかってる。水が澄み切ってるからすべて丸見え。魚たちを眺めてるだけ でも時の経つのを忘れる。
近くには幾筋かの滝があり寝られそうな所もある。いいなぁここ。決定。今日 はここまで。一時間しか歩かなかったけどオッケー!

秋晴れの気持ちいい日を一日中河原で満喫。ヒルネの似合う午後。

辺りが暗くなり始めたらロウソク立てて晩メシ。くつろぎぃ。
夜空には星たち。川の対岸の森が徐々に白く浮かび上がる。月が昇ってきたの だろう。こちらの山を越えて早く来いこいお月さん。月待ちのそわそわわくわ く感も酒がおいしくなる。
月が見える前にすっかり気持ちよくなって寝てしまう。

真夜中に目が覚めるとうっすらと明るい。月光の明るさ。けれども月は雲の巣 にからめとられてて見えない。はぁ残念。


・(250)09/19/2002/三重県・大宮町・大滝峡--紀勢町(ギャラリー上野屋)/
今日もいい日和。さあて行ってみますか。

昼どき。コンビニでカップラーメンなんぞをなけなしの金をはたいて買って近 くの岩船公園で一本一本大事にすする(そんな気分で味わう)。一服してると 環境観察員(だったかな?)の腕章つけたおじさまたちが3人弁当休憩のため にやってくる。弁当のお裾分けをもらったりして。話しがだんだん弾んでくる。

旅や仕事や人生の話からおじさまたちが生きてきた時代背景へ話が移行する。 僕にとっては生まれる直前直後の話。けっして大昔ではないはずなのに歴史と して認識していた時代。僕が最も興味がある時代。世界が今よりもっとダイナ ミックに動いていた時代。高度成長期と革命(を夢見ていた)の時代。
良くも悪くもこの時代のパッションから僕は生まれ、育ったのだ。

僕はもっと聞かなければならないのだろう。そしていつか。僕も語らなければ ならないのだろう。時代は書かれるものではなく語られるものなのだろう。

別れ際。「煙草はまだあるかい?」と煙草一箱と千円札をそっと手にねじ込ん でくれた。うれしさで呆然と立ちつくしてしまう。何度も頭を下げお礼を言う が空回りしてたかもしれない。

僕の旅に大上段にかまえた目的も使命もないけれど。こういう大きい人々との 出会いによってナニカを託されてる気にもなってくる。それは決して重荷とは ならず元気の源のようなナニカ。
なんかそういうのが存り続ける限り、どっか上の方から「まだ旅を続けてみる べし」と言われてるような気分。誰かがナニカがまだ僕を呼んでいるのだろう。

HPを見て、行ってみたいなと思ってたギャラリー上野屋www.uenoya.netを探 すともなく歩いてたらいきなり、あった!でも誰もいないようなので置き手紙 だけ残して立ち去る。一ヶ月後の10/21にここで僕の大切なうたうたい・寺田 町さんのライブがあるので「その時にまたやって来る」と。もともと上野屋さ んを知ったのも寺田町BBSにおいてだったのだ。(なお、この掲示板において はなぜかうたのこと以上に酒の話題が盛り上がる・笑)

立ち去って10分もしないうちに車が追いかけてきた。海月さん?あ、はい。
出掛けていた上野屋の女将さんが置き手紙を見つけてすっ飛んできたのだった。

急展開で今日は上野屋さんとこでお世話になることに。古民家をリフォームし たすっごく寛ぐ空間。女将さんはまだ用事があるので僕を放っぱらかしにして しまうことを済まながっていたが、いやいや全く苦にもならないですよ。こん なに落ち着ける空間の中にいるし。
主は大阪に出掛け中で夜遅くなるという。突然の訪問になってしまったけど会 えるのが楽しみ。

久しぶりに湯に浸かる。あたたまる。湯がうれしい季節になったのだねぇ。


夕飯をギャラリーに運び込んでもらってほのかな灯りと木のぬくもりとともに 堪能。新米がこれまたおいしいこと!満腹になったら床にごろごろしながら興 味深い雑誌や写真集をぱらりはらりと旅する。

あまりにも心地良くってうとうとしかけた頃。主、帰宅。こんばんは海月です。 早速二人の宴がはじまりビール日本酒泡盛と飲み継ぎ語りたゆたうように酔い 夜は更けゆく。

かつて江戸の昔ここは熊野街道の木賃宿だったという。なるほどそうか。ここ の風通しの良い招き寄せる渦・空気感はそれに由来するのか。
時代を経て。民家として使われるようになった家は。現在ギャラリーとして再 生されモダンな新しい風を呼び込んでる。けれどもかつての役割、機能は再利 用された材や骨組みの「形」の持つ本来的な力として今に引き継がれているの だった。
人々が集い語らい寛ぎそして再びそれぞれの旅へ立つ。トランジットの場。
だから旅人も旅芸人もここに呼ばれるってわけか。
ここに住まう主や女将さんの人柄自体もこの場にぴったりとシンクロしている。 ひとが住まうことで家は生き活きと呼吸し家に育まれてひとはかたちづくられ ていくのかもしれないなぁ。

あぁほろ酔いよいっと。

あたたかい風呂、あたたかいメシ、うまいメシ、うまい酒、心地良い酒、心地 良い寝床。があることの仕合わせ。感謝。

自分の寿命を予め知っていたかのようなジョン・レノンの切なくゆらぐうた声 で今日をしめくくる。


・(251)09/20/2002/三重県・紀勢町(ギャラリー上野屋)/
朝食を運んでもらう音で起きる。一瞬ここがどこだか寝惚ける。久しぶりに快 適なフトンで寝ると全くの無防備になってしまって起きた時に逆にあわてる。 朝風呂で覚醒。ボリュームたっぷりのおいしい朝ご飯。うれしくてまた気が遠 くなりそう(笑)。

まとめてメール書いたりぼえぼえと過ごしてるうちに旅立つキッカケを失う。 別に急いでるわけでも予定があるわけでもないが。ご好意に甘えてのんびりさ せてもらおうか。9/22日曜日は月の宴「月を愛でる会」(!)を催すとのこと だし。有り難や。

洗濯して風通しのいい中庭で日記書いて過ごす午後。静かに音楽とお客さんの 笑い声が漂ってくる。ゆったりとした時の流れ。目を開けたままでヒルネ気分。

N響の小編成コンサートが隣町の公民館で開催されるというので上野屋さんの お誘いで一緒に行ってみる。クラシックなんてまともに生で聴いたことなどな いのでどんなものかとちょっとどきどきしたけど。・・・小ぢんまりとしてと てもお気楽な場だった。お気楽過ぎて音楽に集中するよりも演奏者の表情や観 客の様子などをニヤニヤと観察してしまってた。

背筋をぴしっと伸ばして緊張気味に聴こうとしてる人。早々に寝に入るおやじ。 退屈そうにしてる少年。あくびを噛みころしてるおばさま。絶妙に間の悪いく しゃみやせきをするお父さん。恍惚の表情で心洗われてる奥様・・・。
音をそっくり消してしまったらなんだかカラクリ人形のような動きの演奏者達。 眉間にしわ寄せて集中してるかと思えばニヤリと不敵な笑いをこぼしてみたり 曲調の変わり目に突如としてダイナミック(大袈裟な程)に勢いをつけたり。

選曲自体は耳なじみのあるものもあり足でリズム刻んだりこっそり指揮棒振り たくなるようなノリで僕は楽しんでた。

ライブはやっぱりそこに集結するすべての要素(人や会場、空気、光、等全て) でつくられる“場”ということがよくわかる。たぶんまったく同じ演奏者と曲 目でも東京のホールでやったら全然違ったものになるのだろう。

会場との行き帰りにはまん丸い月が併走。明日が十五夜、中秋の名月。
14番目の月って僕の生まれた時の月齢だからかすごく共鳴する。その時の感情 や体調が増幅される気がする。時にはマイナス方向に増幅されてとんでもない どん底気分に陥ることもあるけど。

今夜はとても気分がよくて。夜中に一人になってから泡盛を一杯いただきギャ ラリーでしばらくうたってた。空間があってたった一人でも人が居ればそこは なにかの場になる。聴いてくれる“人”はいないけど。この古くて新しい“家” が聴いてくれてる。

寝床に月光が真っ直ぐに射し込む。フトンの位置を少しずらして月光を浴びな がら眠る。


・(252)09/21/2002/三重県・紀勢町(ギャラリー上野屋)/
朝ご飯用意しといたよの声で起き朝湯ざばっと浴びてから風通しのいい中庭で ブランチ。なんて贅沢な。すごいVIP待遇。身に余る光栄。ただの浮遊者でしか ない僕なのに。あぁ仕合わせ。

家人は仕事で出払ってしまったが留守番の気負いもなくのんびりと昼間っから 泡盛いただいて日記書きつつぼえぼえと過ごす。

主から借りた、ハイクオリティ生活情報紹介雑誌?を眺めてると。なんだか全 く自分には関わりのない世界だなぁと別にうらやましくも思わなかった。が。 トイレに立ちギャラリーを横切ってブラブラしたりCDセットしたりしてる自分 が雑誌の中のまんまであることに気付く。おおっ!
とは言え。仮の宿りでしかないんだけれど(笑)。

留守番中に主の旧知の中の中世古さんがやってきて。熊野古道をゆくなら、と いろんな人の連絡先を紹介してもらう。すごいネットワーク。なんだかおもし ろくなってきたぞ。わくわく。

今夜の天は如何にと空を仰ぎ見やれば雲はなはだ多し。されど夕焼けに染まり し雲は桃とも橙ともつかぬ色合いにて、驚喜す。

満月が昇り始めるのを見計らって、ギャラリーとは別の主の自宅の庭にて月見。 二頭の大型犬に歓迎の飛び掛かり(笑)を受けつつ、雲間に見え隠れする月を 楽しむ。

夕飯にはカレー!昼間眺めてた雑誌にカレー特集が載っててムショーに食べた くなってたところなので絶妙なタイミング。

澄み渡る夜の青空の月もよいが。雲海を泳ぐ月もよし。雲の裏からにじむ淡月、 ぼんやりと定まらぬ月は明確な道を照らさずとも何かの予感を与える。良い傾 向なのか悪い兆しなのか。わからぬ。
目の隅にスッとムーンシャイナー達が走り去る。よい酒ができたに違いない。


・(253)09/22/2002十六夜(いざよい)/三重県・紀勢町(ギャラリー上野屋)/
「月」の百科事典(文庫本)をひがな一日読みながらごろごろり。

ギャラリーがにわかに活気付いてきた。今夜は「月を愛でる会」と称して御食 事会がここで催されるのだ。僕も居候の身でありながらちゃっかり参加させて いただく。料理人呼んでの本格。フグだハモだ松茸だ、とものすごい御馳走。 一週間くらい前まで一袋40円のパンの耳にマヨネーズつけて喰らってたのにねぇ (笑)。
主がこれまた、んまい酒を用意してるからまいっちゃうなぁ。わははは。
昨夜のムーンシャイナーの暗躍か呑兵衛の道楽か。おいしい酒席でありんす。

ハイソサエティな人々の中で居場所がないかと思ったが、よっぽどこんなバカ 旅人が珍しいのか、酒の肴に自らもなりつつ、楽しく酔ってすっかりいい気分。

座もくだけつつ盛り上がってきた頃。This.のLiveが始まる。ヴァイオリンの
宮嶋さんとキーボードのみささんのユニット。即興で奏でられる響きはまるで 声のように肉体から直接出る音のように感じる。
あぁ心地良い時空間。テラさんとは20年来の友だという宮嶋さんとも出会えて よかった。ナニカが呼び寄せ絶妙なタイミングで引き合わせてくれたのだろう。

宴も一段落して帰る人々を見送りに外に出ると十六夜の月。風が強い分、雲が 吹き飛ばされて夜の青空。煌々と照る月明かりのなんと明るいことか。しばし みんなで月光浴びてたたずんでみたりして。

何人もの人から名刺をいただいた。僕は名刺もなければ本名すら名乗らず海月 で通したが。僕が海月として旅をし僕が僕のままでいることを許してもらった 気分。ここからまた繋がり拡がってゆくのかなぁ。

お礼のかわりにうたをうたう。海や山の生き物やモノノケたちに向かってひと りでうたう時のように。上手にうたおうとか、ほめられようとか、余計なこと は考えずに。ただ心のままにうたう。この場でもらった大きなうねりのような ゆらぎは振動となり声となる。僕はただうたう。太陽の大きな光のエネルギー を反射させて煌々とただ輝く今宵の月のように。

明日出発しよう。気がたかぶってるのか。なかなか寝付けないが今夜も寝床に 射し込む月光を浴びてるうちに眠ってた。


・(254)09/23/2002/紀勢町(上野屋)--紀伊長島町・ツヅラト峠/立待月/
長い夢を見た。ストーリーは覚えてないが。月やうたをともに楽しんできた仲 間達が総出演してるような夢だ。彼ら彼女らもきっと同じ月を見てたのだろう。

上野屋さんで居候してたここ数日は9時過ぎまでのんびり安心して寝てたが。 今朝は6時に目が覚めた。やはりまた歩くってことに少なからず緊張はあるの かも。起きたからには旅仕度。急ぐつもりもないけど。いつでも動ける準備だ けはしとく。

主と女将とゆっくり朝ご飯。落ち着いちゃうなぁ。ずっと前からこうしてたよ うな気分。
昼用にとおにぎりまで持たせてもらって。ほんとにありがとう。

「ぢゃ行ってきます」と僕が手を振れば「戻ってきたら“おかえり”って言っ てあげるよ」と返す主、女将。感動。じわわーん。

天気もいいし。のんびり行こう。急ぐ旅じゃない。大内山川沿いに歩くとアユ を網でねらうおじさんと立ち話。おじさんのオススメで「頭の宮さん」に寄り 道してお参り。ここの御利益でも授かって僕も少しはバカが直るか?

秋晴れの田舎道。赤トンボ乱れ飛び。金木犀の香り。思わず振り返り見回し花 をさがしてしまう。あったぁ。ふぁー。この香りを嗅ぐと。おそらく香りその ものの特性というわけではなく。秋やそれにまつわる記憶なんだろうけれど。 なんとも切なくなる。

ツヅラト峠。昔の面影を残す山道に入る。突然急坂になる。人がすれ違えない 程の細道。こぶし大の石がゴロゴロ。歩きやすくはないけど気分はわくわくし てる。のんびりと味わうように森の道をゆく。

峠には30分で着いてしまった。わっうわっ海だ!うおーっ。
海を渡って鳥羽から三重県に入って以来2週間ぶりに見下ろす海の絶景。この 風景をたっぷり味わうために今日はここで野宿しよ。休憩所はベンチも屋根も あるし。

山の端に夕焼け。しばらくすると町の夜景。星も輝きだす。

峠は風の通り道。日中歩いてほてった体には心地良かったけど夜になったら強 風暴風。さーむーいー。

月はまだかぁー。西の山が徐々に明るく照らされてきてるからきっともうこっ ちの東の山の裏っ側に居るはずなのにぃ。寒さに耐えながらうろうろ動き回っ てまだか立待月。

月を一目観たら安心して寝る。でもふるえて眠る。


・(255)09/24/2002寝待月/紀伊長島ツヅラト峠-東長島-ツヅラト花広場/
昨夜は寒くてほとんど眠れなかった。朝も寒い。早く太陽早くぅ。やっと日が 当たりだしたら日向で昼まで寝直す。
何組かのハイカー達が登ってきて昼ご飯食べて下りてく。さあて僕も。と動き だしたのは午後2時を回る頃。下りの方がキツイかなぁ。筋肉パンパン。ひん ぱんにん立ち止まっては森を眺め回し、下りきってしまうことを惜しむ。

下りきった所に「メダカの分校」。睡蓮や水芭蕉が咲く池にメダカが泳ぐ。
歩き着いた先に“水”が迎えてくれるってのはうれしいな。海でも川でも風呂 でも(笑)。

食料がないので町に買い出し。さあ残金1000円。これであと何日もつかな。
酒買ったら終わるなぁ。

日が暮れてしまった。次の峠を目指すことはできない。うーん戻るかメダカの 池まで。

山間の集落の奥、ツヅラト下りてきた所ではラジオはまともに入らず、唯一野 球中継がつかまる。聞くともなくイヤホンを耳に突っ込んでたが巨人のセリー グ優勝が決ったようだ。僕の日常とは違う日常がここにもある。

峠から吹き下ろす風が冷たい。時折あたたかい風もやってくる。海風か?とり あえず寒いので月は寝て待つ。寝待月。

今夜寝てる小屋には振り子時計が掛かってる。2時間半くらいは遅れてる。彼 (彼女?)には彼の時の流れがある。
夜中に時報を鳴り響かせた。山からも突風。眠ってた僕はあわあわしながら飛 び起きる。広場が白く明るい。月が来た。煙草一本分の月見をしてると遠くで 犬が月に吠える。


・(256)09/25/2002更待月/紀伊長島町ツヅラト--島地峠--海山町始神峠/
島地峠は全てアスファルト道。でも車なんて来やしない。真下にトンネルが通 ってる。

今日もいい天気。日中は暑いくらい。でもラジオによると明日から雨らしい。 困った。しのげる所はあるだろか。まぁ行ってみなけりゃわからない。進むし かないね。

久しぶりに朝からずいぶん歩いた。疲れた。そんなときはヒルネに限る。
「紀伊の松島」と呼ばれる海の景色を見ながらいつの間にやら爆睡。

始神峠はじかみとうげの坂道までのアプローチは春には桜が舞うという。今は 目立った花はないけど林の道はわくわく。川跡が道に沿うが水が全くない。明 日からの雨で川になるかもな。水の流れと魚のきらめきを想像してみる。

地図で見たら大した距離には思えなかったが割とハードに道が続く。一日分の 疲れにダメ押し。ひーふー。まだかぁと音をあげた頃、ぽこんと「茶屋跡」の 看板。あっ、峠到着。眺望がすばらしいとのウワサだが果して、素晴しい!

ここでのんびりしたいな。休憩用のベンチはいくつかあるが屋根、雨が防げる 所がない。夜から雨になるかもしれないしなぁ。あっこの眺めは東向き。海か ら昇る月が見られるかも。うージレンマ。うろうろうろ。よしっ降ったら逃げ る準備だけしといて腰落ち着けよう。

6時には晩メシ。すでに辺りは暗い。日が短くなったな。眠気もストンとやっ てくる。

あっちゃー寝過ぎた。1時間くらい遅かったかぁ。月は既に海より浮上完了。 それにしても、だ。なんという絶景。黄金の月。島々を繋ぐ月光の道。待って てよかった。
アトシオンアトシオン、こちらの月景色はすごいことになってます。せめてう たでも届かぬものか。アロー聞こえますか。


・(257)09/26/2002/三重県・海山町・始神峠--船津駅/
朝までなんとか天気はもちこたえた。でもこの雲行き。早いとこ山から下りる にこしたことはない。下りは明治の頃の道という。ここなら荷車も通れたかも な。歩きやすい。

9時。さぁいよいよポツリときたぞ。近くに無人の船津駅があるから雨宿りし て様子を見よう。予報では明日も雨。雷ゴロピカ。本腰入れてドシャブリ。
こりゃまいった。お手上げ。ムダな抵抗はやめとこ。

一日中半径5m以内からはみ出さず立ったり座ったり。日記書いて常備食ちび ちびかじって雨を眺めてる。

乗降客は数え切れる程度。雨に途方に暮れる生徒はケータイで親にHELP。迎え の車が去っては来る。僕だけ取り残されてさみしくなるな。僕が発信しない限 り、誰も僕の居場所はわからないし迎えにも来ないのだ。

すぐ近くに雷が落ちると、この建物までふるえる。雨はじゃんじゃん勢いを強 める。一歩も動けない。ここから動かない限りいつまでも取り残されてる。で もここから動かない限り安全ではある。しかし寒いなぁ。着られるものは全部 着込んでるというのに。食料がかろうじて残ってることとラジオが入ることで かなり救われてる。

終電は22:39。雨の為遅れてるようだから23時くらいまでは安心して寝られない だろう。あと4時間半。まいるねぇ。

県道は通行止め電車は運転見合わせ。との放送が入る。雨は激しさを増すばか り。いっそ明日の分も降り切ってくれ。
ラジオではエルヴィス・プレスリー特集。このシチュエーションと何かシンク ロしてるとは思えないが。妙にしっくりくる。豪雨の駅で途方に暮れてる。も し仮にこんなシチュエーションに再び巡りあったら頭の中でエルヴィスがうた ってくれるかもしれない。

終電は50分遅れ、のアナウンス。待ちきれず寝る。


・(258)09/27/2002/三重県・海山町・船津駅--道の駅・海山/
緑の大蛇に背中をどつかれる夢。口を開けてはいなかった。噛まれる気はしな かった。向きあってしばし両者動けずにいたが、次の瞬間、ものすごいスピー ドで後に回り込まれて、鼻先でどつかれた。痛みはないがビビって起きた。
白蛇の次は緑蛇かぁ。なんの暗示?どんなお告げ?

昨日の勢いはないがシトシト止む気配のない雨。週間予報ではこの先ずっと雨 模様が続くという。あーあ。仕方ない。雨の中歩くか。
しっかし眠いなぁ、低気圧が来ると。通学時間帯が過ぎてから二度寝。

10時半から歩きだす。食料も補充しないと。雨の中歩くのは憂鬱。視界も視野 も思考も行動範囲も狭くなる。あぁもう残金275円か。秋雨に濡れ懐も寒し。

道の駅・海山みやまの休憩所は7pmまでは開放されてる。のんびりできる。こ こが24時間開放されてれば最高の寝場所なのになぁ。夜は外の屋根の下で野宿 しよ。今日歩いたのは10km未満かな。明日はどうしよっかなぁ。雨の峠道かぁ。 最も有名な?石畳の馬越峠なのになぁ。

僕の居場所を発信したら。夜、ゴトーさんが様子見に来てくれた。上野屋で知 りあった新聞記者さん。僕の取材って訳ではなく。この付近の土地柄、都会と 田舎、仕事と遊び、人の繋がりなどとりとめもなく語り合ってた。まぁそんな 片ヒジ張って固っ苦しく話してたわけじゃあない。

ゴトーさんが去ってしまうとさびしくなるな。雨はいよいよ集中豪雨となり濡 れずに済む所が狭ばまる。まいったねぇ。もうビニールシート頭からかぶって フテ寝しかない。


・(259)09/28/2002/三重県・海山町・道の駅・海山/
昨夜3時過ぎ。にわかに騒々しくなってた。朝6時に起きると道の駅の駐車場 も目の前の国道42号も車トラックがあふれ立ち往生中。どうやらこの先で土砂 崩れがあり完全に通行止めになってるらしい。雨は一時的かもしれないが上が っており青空のカケラすら見える。峠越えするなら天候的には今がチャンス。 しかし。近くで土砂崩れがあったとなると山道の土砂や水が危険。ここは一日 待機しとこう。

足止めくらってるドライバー達はうろうろ歩き回ったり情報交換したりケータ イかけまくったり。確かに困ってはいる。でも。まいっちゃったなぁと言いつ つどこかわくわくしてるようにも見えてしまう。
あ、この雰囲気はどっかでも感じたことあるぞ。そうだ。東京に珍しく雪が積 もって交通機関が寸断されて駅のホームで足止めくらってた人達だ。

誰も死なない誰も傷つかないハプニングなら「しょうがないさあ」とのんびり 構えて笑ってる方がいいね。

一歩も進まない日に貴重な食料を減らす訳にはいかないのでほとんど喰わずに 居る。腹減ったなぁ。ただただボーーーッと過す。泡のようにいろんなことを 考えてる。が何を考えてたか覚えてない。ので何を考えてたか考えてみたりし て。
ふいっと枯草色のカマキリが目の前にやってくる。威嚇してくる。がそれはす ぐ飽きたようで好き勝手に動いてる。でも目の前の灰皿からは離れない。一瞬 たりともぢっとしてない。落ち着きのないヤツだがいくら見てても飽きない。

休憩コーナーは一部畳敷き。畳の上でヒルネ。急降下爆睡。

休憩コーナーが閉まる時刻になったら外でぼえぼえ。館の管理のおっちゃんが あんぱんくれる。うれしい。一口一口大事に噛みしめ愛しく飲み込む。目を閉 じ味を思い返す。おいしい。有り難や。

今夜はもう雨は降らないようだ。外でも安心して眠れる。
さて明日は。国道はまだ復旧の見込みは立ってないようだが。
馬越峠を越える山道はどうだろうか。きっと徒歩なら行けるにちがいない。
あとは明日の天気にまかせようっと。

寝てたら月に起こされた。明日はきっといい日。


・・・(つづく)[02.10.02] 海月
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