__Walk_in_the_moonshine,_and_drink_like_a_jellyfish.__

[02.05.05] 

〜海月の放流〜 010

□前回までのあらすじ:
沖縄から九州までの間に点在する島々を渡り歩く。
徒歩旅、野宿生活では食料調達にいつも苦労する。


●『九州上陸そして縦断 - 鹿児島,宮崎,(熊本)大分,福岡(山口)の巻 -』

歩いて旅する者は実はいくらでもいる。本に書く者も。彼らのような目標や目 的もなく根性も度胸もない。彼ら彼女ら先人たちの後追いでしかないかもしれ ない。さらに困ったことに彼らのようには成れず追い抜くこともない。

まったく困ったしがない旅人である。


・(074)03/27/2002/鹿児島県・屋久島〜鹿児島〜桜島/
いよいよ本格的に九州上陸そして徒歩遊行。のんびり行くつもりだった。が。 大分の別府近くにいるいとこのこどもらの春休み中に会いたいと思ったら、か なり急がないと間に合わない。
というわけで鹿児島市内散策はフッ飛ばしてすぐに桜島に渡る(と言っても15 分)。

鹿児島は今日が桜開花日。東京辺りでは既に満開だと言うが。
桜島の桜は海から生えてた。

今夜は溶岩の塊の上で野宿。


・(075)03/28/2002/鹿児島県・桜島--国分/
桜島を海岸沿いにぐるっと半周。砂浜が真っ黒。そうか火山灰なんだ。あちこ ちに火山避難所が目立つ。天気予報では必ず桜島上空の風向きまで伝えていた がそうかこの山は火山として活きているんだ。道が火山灰まみれなのも納得。

島々を歩いていた頃の地図と九州の地図では根本的に縮尺が違ったんだ!頭で わかってるつもりだったが。実際歩くと何時間歩いてもちっとも地図上では進 んでいかない。精神的疲労倍増。初日にして既に泣き入る。

夜、雨。新築の綺麗な公園トイレの軒先で小さくなって寝る。寒いぃ。早く朝 よ来い。


・(076)03/29/2002/鹿児島県・国分--宮崎県・都城/
やっと夜明けの白み。しかし大雨。人が来る前に撤収、出発6時半。ところが。 いきなり道を間違え山の中をさまよう。元の場所まで戻ったこの1時間は全く の無駄足。

雨風は止む気配も見せず。疲れても座り込んで休める場所もなかなかない。 トラックに水を跳ね掛けられてもどうでもよくなってるほど既に全身びしょぬ れ。さらに追い討ちをかけるようにこれまで多いに僕を助けてくれた旅の相棒 “サンダル”がついに崩壊。もう半分以上やけくそなどうにでもなれな気分。

そんな気分が転がり出したのは県境を越え宮崎県に入ってから。雲はどんどん 飛び去り一気にLovely Sunshine!そして都城に到着。駅前に宿も決まり一安心。

近くのコインランドリーに着てたもの全て投げ込みスーパーで食料買い出し。 フッと靴のSALEが目に付き散々迷った挙句購入。あぁなんだかワクワクしてき た。

部屋で荷物にドライヤーをかけながら新しい靴に?発泡酒で乾杯。

ところで。都城という地名を見るとミヤコグスクと勝手に脳内変換されてしま う。沖縄が長かったからなぁ。


・(077)03/30/2002/宮崎県・都城--田野/
新しい靴、天気もいいし軽快なステップ!と言いたいところだが。まだ靴が馴 れてなくて足の痛み爆発。気を失いそうになるほどの痛みだがそれを一瞬でも 忘れさせてくれるのは桜。 山間にくねくねと続くワインディングロード。標高ごとに桜の咲き具合も変わ る。桜のトンネル。桜の絨毯。桜吹雪。桜の中を泳ぐように進む。

疲れがたまったりスタミナつけたいって時にはムショーにレバニラ炒めを喰い たくなるヒトなのだ。って訳で。今夜の晩メシは白メシとレバー炒めと野菜を 買って喰らう。満腹になったら橋の下で寝る。


・(078)03/31/2002/宮崎県・田野--宮崎/
月末だ。日記を寄稿せねば。いいタイミングでデカい街・宮崎市に入れる。 2日くらい滞在するか。

まだまだ夕方前の暑いくらいの午後3時に宿に入ることができたのでザバリと シャワー浴びて荷物をぶちまけながらTVをつけてみる。
と。沖縄・八重山地方で地震。そして津波警報発令。Live中継される石垣港。 まだ津波は押し寄せてくる兆候は見られないが、おいおい大丈夫か?
ネットカフェ探しや晩メシのために街に繰り出そうと思ってたが、ニュースの 続報が気になってTVに釘付け。ラジオをつけるとTVと全く同じ放送になっ ているのでとりあえず外に出る。

すぐに警報は解除され被害もなかったようで一安心。
とは言え。いくら僕が心配しても何も手を出す手を貸すことはできないのだっ た。今後も旅を続けて行く中で自分が通ってきた土地、これから行く先のこと がニュースになることは増えてゆくことになる。
でもでも。無関心、他人事でニュースを流し聞くよりよっぽどいいような気は する。

取材の為に現場に行く訳でもなくましてや事件事故を引き起こす為に居るので はないが。旅をするというのは精神的にニュースに巻き込まれてゆくことなの だなぁ。そういう関わりもナニカを識る切り口なのだな。

観光案内所のおネエさんのよると市内にはネットカフェが1軒しかないとのこ とだったのでそこに行ってみたら。休みだった。ガクーン。仕方なく隣のサブ カル・アート本屋?に入る。面白くってすっかりはまり自分が今どこに居るの かすら忘れそうになった(笑)。

あったあった。マンガ喫茶。最近じゃネットもできるところが増えてるので助 かる。早速、メールやwebをチェック。3時間。店内の貼紙に注目。夜中0時か ら朝8時まで¥1900定額。仮眠可。おおっ!これなら宿泊まるより安い。 明日はココ(マンガ喫茶・惑星)だ。


・(079)04/01/2002/宮崎県・宮崎/
宿チェックアウトして川原へ。天気抜群。っつうか暑い。太陽の動きに合わせ て橋の影に逃げるにげる。今日は夜中までここで過ごそう。ラジオ聞きながら 日記書き。そしてヒルネ。気がつくと爆睡。うわっ暑っ。影がすっごい動いて る。

夕焼けを楽しむくらいまではよかったが夜になると寒い。メシと酒買ってきて 夜景見ながらしのぐ。

さてやっと時間。日記原稿打ちこみ開始。終わったら少しは眠るつもりだった が次回の分まで少し進めておいたら朝になってしまった。まぁでもなかなか快 適な店だった。ありがとう。

しまったぁ。エイプリル・フールの楽しいウソが思い付かなかったぁ(笑)。


・(080)04/02/2002/宮崎県・宮崎--川南/
店を出ると通勤の人々。僕は徹夜明けの眠気ナマコを朝日にしばたかせながら デカい荷物を背負って逃げるように街を去る。

どっかであったかい朝メシ喰おう。と思ってたのに街を外れたら店すらなくなっ てしまった。
ランチタイムが始まる頃ようやくメシにありつく。

基本的に国道を歩いているので車用の標示に従って進む。主要な町までの距離 も標示されるので目安になっていい。が。困るのは「バイパス」。すごく幅広 い歩道もあったりして歩きやすいけれどバイパスは市街地を回避して田畑のど 真ん中を走っているので食料補給ポイントがない!実は遠回りだったりするし。

植物公園で野宿。ハーブ園の横が気持ちいい。が。夜中に雨。特急撤収。
トイレで丸まって夜を明かす。


・(081)04/03/2002/宮崎県・川南--都農++延岡++高千穂/
春休みってのはいつまでだ?4/7?このまま最短距離で北上しても別府辺りまで 行くのに1週間はかかるぞ。間に合わないな。ワープしかない(笑)。

海岸沿いに国道10号と日豊本線が平行して走る。あの海を走るような電車に乗っ たら気持ちよさそう。1時間に1本来るかどうかのローカル駅(かろうじて無 人駅ではない)から延岡までワープ決定。と言っても次の電車まで1時間待ち。

海を眺めていたいけれどイネムリ、ヒルネが似合う電車。

全く何の予備知識も憧れもなかったのだが数日前に突然降ってきた地名が高千 穂。地図を見ると延岡から高千穂鉄道(レールバスと言うらしい)が伸びてる。 しかも延岡到着に合わせたようにレールバスが待ってる。エイッ飛び乗ってし まえい。これこそが寄り道の王道(?)。山間の渓谷を縫うように走るはしる。 所々で絶景ポイントの解説アナウンスが入りスピードまで落としてくれる。東 洋一の高さの鉄橋の落差105mに軽くビビリつつ高千穂に到着。

さて。降りたはいいがどうする?観光案内所で地図やらガイドやら資料もらう。 宿は¥8500〜と高いのであきらめ、とりあえず食料調達に市街のスーパーへ。 買った弁当をすぐその場で喰いながら資料を見ると、毎夜8時から「夜神楽」 が高千穂神社で公開されるらしい。近くに天岩戸神社なんてのもあったしやは りナニカ由緒があるのだろう。

8時になる前に野宿できそうな場所を神社裏の林に見つけ林の中に荷物は隠す。

お神楽なんて初めて観る。約一時間、畳にあぐらかいて最前列で喰い入るよう に観る。他の客は全員温泉宿の観光客。さらに半分以上は浴衣姿。
神話を舞にしているので改めて神話を勉強したくなった。

予報では今夜の最低気温は3℃まで下がるらしい。うひょー耐えられるかぁ? 着れるものは全部着込んで祈るように寝る。早く朝が来て欲しい。


・(082)04/04/2002/宮崎県・高千穂-(熊本県)-大分県・(竹田-大分-)別府/
祈りが通じたのか凍死することもなく朝を迎えられた。寒かったよぉ。 考えてみると朝=太陽を待ち焦がれるってのはまさに昨夜観た天の岩戸の神話 そのものぢゃないくゎ。

ウンザリするほどの峠を上っては下り行けども山山山。このままじゃ食料も調 達できないまままた山の中で野宿だ。日数がない。再びワープだ。

歩いて県境を越えるってのは疲れてはいても思わずガッツポーズが出る。
今日は一日でなんと3つの県をまたいだ事になる。熊本県はホントにかすめた だけだけど。
(ラジオでたまたま聞いたのだが「ガッツポーズ」ってガッツ石松がチャンピ オンになった時に初めて誌紙上で使われ出した言葉なんだってさ。マジで?)

一日たった2本しかないバスを30分待って乗ることができた。他に客もいな い間、運転手さんが話しかけてくる。旅や仕事、将来などお互いに想う事を取 り止めもなく話してた。ローカルバスは楽しい。

竹田の駅に到着。よしっこっから大分市まで一気に電車だ。待ち時間の間、観 光案内に行くと竹田も面白そうな町ではあった。『荒城の月』のモデルになっ た城跡があったりするらしい。うーむ悩む。しかし。迷ったら前へ!

街に明かりが灯る頃、通勤客に混じって電車に揺られる。
違う「日常」とのニアミス。不思議な気分。

別府駅前に安宿・駅前高等温泉があることをM君からのメールで情報を得てい たので別府まで行く。

温泉の休憩室が夜9時以降宿泊可能になる。フェリーと同じように細長いフト ンが敷き詰められてる大部屋¥1500也。あー温泉。ゆるむねぇ。

別府の繁華街の客引きたちは振り切って弁当とビール買ってきて風呂上りに宿 で喰ってとっとと寝る。
明日はこどもらに会える!


・(083)04/05/2002/大分県・別府--日出/
地図で見る限り明るいうちには着ける。逆に早く着きすぎても受け入れ態勢が 整ってないと困る。晩メシ時がベスト。ってことで朝ものんびり出発。朝の海 を散歩する犬をしばし眺めながら朝メシ。

オバさん(父の姉)に電話。到着予定時刻としばらくお世話になる事を伝え歩 き出す。
歩いてると車で街に行く途中のいとこ・佐月さんにバッタリ遭ってしまった。 わあ見つかっちゃった(笑)。
乗ってく?と誘われたが歩くことにし数時間後に再会する事を告げる。

オバさんに教えられた目印になる地点までは予想以上に早く昼には着いてしまっ た。(オバさんたちは3年前に引っ越したのでその家を僕は知らなかった)
早過ぎるので海辺で日光浴しながらメシ喰ってヒルネ。2時間。

さてと。こっから山の中腹って言ってたよなぁ。トンネルがどうとか・・・?
ずんずん歩いたがどうも違う方向に来てしまったようだ。電話しようにも圏外。 だいたい自分が今どこにいるのかもわからないから伝えようもない。山をなん とか下りるしかない。あぁどんどん日が暮れてくる。

トンネルまで戻るとPHSのアンテナ全立。すぐ電話。トンネルはくぐってはダメ だったったらしい。車で迎えに来てもらう。もうあとちょっとだったのに。

近づくと手書きの案内「こっち←」とか貼ってある。待ちわびたこどもらが迷 わないようにと貼ってくれたらしい。くぅー泣かせる。すまん。ありがとう。

オジさんオバさんいとこ2人とこどもら6人。もうみんなの大歓迎ぶりにもの すごく照れテレ。とりあえず風呂に浸からせてもらって。それからみんなでご 馳走を頂く。んもう。来た甲斐があったよ。こんなに喜んでくれて。待ってて くれて。ありがとう。


・(084)04/06/2002/大分県・日出/
疲れを取るには温泉!っつうことでみんなで車で行く。地元の人しか知らない 来ない隠し湯?
旅の疲れ痛みがゆるむ。が温泉って結構体力使う。へろへろ。小雨がちだが火 照った体にはちょうどいい。

一日中雨なので家の中でゴロゴロ。小さい子らの子守り?っつうよりは遊んで もらってる。

大きめの子らはバレーボールに熱中。今日は近くの小学校の体育館で練習と言 うので見学に行く。普段はふにゃふにゃな(失礼)やつらがキビキビとカッコ イイぞ。それどころか見てるこっちが緊張してしまうくらい張り詰めた体育館 のムード。海月の旅とは対極??

こどもらと会うのは3年ぶりくらい。3年って子供にとってはすごい成長期間 なんだなぁ。


・(085)04/07/2002/大分県・日出(--宇佐)/
いとこのダンナって人称名詞ナニ?オジさん?が山香(という地区)神楽保存 会に入っていたのだった。で。今日ある、と言う。ので一緒に連れてってもら い見学させてもらえることになった。
まさか身内に「御神楽」やってる人がいるとは知らなかった。
だいたい御神楽自体つい先日高千穂で初めて観たばかりだったのだ。やはり高 千穂への寄り道は「呼ばれた」ってことだったんだなぁ。

御神楽は神にささげると同時に地域の安全や息災を祈願するものでもあるらし い。今日は車で1時間ほど行った宇佐のある地区公民館まで出張。
御神楽は「踊る」のではなく「舞う」あるいは「ハネる」というらしい。
ひとハネいくら、という祈願料がちゃんと決まってるらしい。

竹を割ったり色紙切って折ったり、まず準備から始める。せっかくだからと教 えてもらいながら手伝う。
一通り準備が完了すると着替え。で。なぜか僕の分まである。えっ?ええっ?? 観に来ただけのつもりだったのに。いつの間にか白装束に水色の袴姿で鐘(小 型のシンバル状の物を2枚)を打ち鳴らす役が与えられてた。

もう全くの見様見真似でチャンチャン鳴らし舞を見つめる。ただ見学するのと は全然違う。やはり動きをよく見てテンポなど予測しながらだからもう真剣。

町内会の人たちが酒や魚、昼飯、さらには晩飯までご馳走してくれて家に帰っ たのは夜9時を回ってた。

丸一日やってくれたのだからとナント今日の収入の分配金まで頂いてしまった。 散々恐縮して断ったが「こういうものはもらっておくものだ!」と熟練のおじ 様方に言われたのでありがたく頂いておく。
旅の資金も底が見えているのですっごい助かる。

お金の事はともかく面白い体験ができた一日でよかった。興奮が冷めず夜中ま で寝付けない。で。また焼酎(ここの家のすぐ近くで作ってる二階堂)のお湯 割りなんかをぐびりと飲っちゃうわけね(笑)。


・(086)04/08/2002/大分県・日出/
なかなか天気がよくならない。さすが雨男の本領発揮(泣)。今日はだらりら と家で過ごしオバさんの買い物に付き合ったり、こどもらに地図見せながら旅 の話したり。

今日から新学期が始まったんだなぁ。そろそろ僕も動くか。中2になった彩花 の誕生日が今週末4/13なのでそれまで居てと泣きそうな顔でせがまれたが。
・・・やっぱり明日出発しよう。


・(087)04/09/2002/大分県・日出--奈多/
どういうルートで行くか結局決めかねたまま、とりあえずここは離れる。みん なに見送られるのはホントに照れくさい。できれば置手紙でもしてこっそり夜 明け前に旅立ってしまうってのが理想なんだけどなぁ。

さてと。こっから先はいつまでにどこっていうのもなくなったので気分次第、 呼ばれるがままに流浪。

国東半島を回るっていう選択肢は歩き出すまでは眼中になかったのだが、しば らくの休息の日々のおかげで快調に歩けるもんだから行ってみることにした。

一台の車が止まって途中まで乗せてやるというので素直に乗せてもらう。サン ドイッチまでご馳走になる。車では10分ほどだったが歩いたら1時間はかか る道のりだった。感謝。
杵築城で降ろしてもらい、公園で昼メシ。いとこの麻由美さんにメールしたら 娘のまなちゃんの高校入学式後の足でここまで追ってきてくれた。今朝顔を合 わせられなかったからと改めてお見送りしてもらう。いろいろありがとう。

季節はずれの「海の家」は物悲しい。今日はここで風をよけて、久しぶりに野 宿。


・(088)04/10/2002/大分県・奈多--?(国東半島)/
国東半島サイクリングロードというのが海沿いに走っている。国道から外れる と車の心配もない。がものすごく遠回りだったりするのでなかなか地図上の距 離は進まない。
まぁ急いでるわけではないのだからいいはずなんだけど。もっと身軽ならなぁ。

これから先どう行こう?九州も西側に全然行ってない。
ひたすら北上を続けるか?ジグザグに進むか?んーむ、日本は広いなぁ。


・(089)04/11/2002/大分県(国東半島)--宇佐神宮/
天候は下降の一途。歩道のない道は車が怖い。気分も急降下。疲れとともに周 りを見る余裕もなくなり足元しか見えない。そして雨。泣きっ面にグーパンチ 級。山沿いの田舎道。雨宿りできそうなところもなく疲労の極み。もう町に出 て宿に泊まろう。

バス停がポツンとある。あと15分ほどで来るようだ。これを逃すと1時間以 上やって来ないだろう。乗ろう。湿ったしわくちゃの煙草になんとか火を点け てバスを待つ。寒いぃ。
バスに乗るとホカホカとあたたかい。あぁとろけるー。

宇佐駅前にはなーーんにもなかった。宇佐神宮まで行ってみたらどうか?電話 ボックスさえあれば電話帳で宿の見当もつけられるのに。

止む気配も見せない頑固な雨。電話帳の宿のページは破り盗られてる。宇佐神 宮参道前の宿では断われる。仕方なく誰も居ない広い境内の玉砂利をじゃりじ ゃり響かせ一人夜の参拝。ここでは二礼四拍手一礼、らしい。

体力気力がギリギリ持つところまで歩こう。1km先に「かんぽの宿」の看板。 もうこの際値段のことはどうでもいい。泊めてクレイ。目の前まで行ったらあ まりにも立派な建物に躊躇。こっちはズブヌレのドブネズミ状態。いきなり飛 び込みでフロントに乗り込んでって断わられた時の精神的ダメージの事も考え て近くの電話ボックスから伺いを立ててみる。空いてるらしい。が。1泊6千 数百円。0.7秒考えて泊めてもらうことに。

部屋に入ってビックリ。ひ、広い。一人で泊まるにはもったいない。あぁなん とも身分不相応な気分。昨夜はホコリまみれの野宿だったのに。

とにかくなんとか21時半になってようやく落ち着ける。風呂行こ。大浴場は 健康ランド風の温泉!あぁぁ疲れたよぉ。助かったぁ。

洗濯と濡れた装備を部屋中に干して、後のことは何も考えずに眠りに落ちる。


・(090)04/12/2002/大分県・宇佐--福岡県・豊前/
カーテンを祈る思いでそろそろと開けると。まぶしいぃ。快晴!やったぁ。昨 日の憂鬱も吹き飛ぶ。ぶちまけてた荷物をバタバタとパッキングして、さぁゆ こう。

たっぷり水を貯えた緑が朝日にまぶしい。新緑の麦畑が広々と続く。緑の水面。 ササーッ。風が見える。

福岡県に入る。遅い昼メシなのか早い晩メシなのか「道の駅」でうどんをすす る。椅子に着席してテーブルで食事をするというのは楽でいい。が立ち上がれ なくなる。ゆっくり休みたいがそろそろ日も傾いてきた。寝所を見つけなきゃ。 そこら中が痛む身体に気合入れて、ごちそうさま。

すると、おばちゃんは「これ持ってきなさい」と今朝ついたばかりの餅などを 詰めたパックを手渡してくれた。どっから来てどこへ行くのか、問いも語りも しないのに。なんと粋なはからい。ただただ感謝、ありがとうを繰り返すこと しかできない。

町の中では眠れない。今夜は山か海か。適当な所が見当たらず日が落ちてしま う。人に不審者としてとがめられたりするのが怖くてどんどん人の居なさそう な方へ暗い方へ行く。余計にアヤシイヤツになってるのだが。

やっと防波堤を乗り越えたところにいい場所を見つけた。風が冷たい。遠くの 埋立地の工場の煙突が灯台のように点滅する。ぼーっと眺めながら多めにアル コホールを摂取して寝る。

夜中吐き気で目が覚める。吐きはしなかった。夢だったのかもしれない。


・(091)04/13/2002/福岡県・豊前--門司/
夜明け前は凍えたなぁ。太陽を待って撤収準備しながら食料をノドに押し込ん で徐々に体温を上げてゆく。

そこへ朝の散歩のおじさんが防波堤の上からデカい声で「そこで何してる」。 「旅、してるんです。」(ちょうど昨夜、なんとなく考えてた台詞)
距離があるのでお互い喧嘩でもしてるような怒鳴り声。けれど別に怒られた 訳でもなく。大声でしばらく話をして最後は「気をつけて行け」と励まして、 去った。元気が出た。

天気予報が気にかかる。ちょうど雨の時に宿に居られるようなタイミングにな ることが望ましい。次に泊まろうと思ってるのは下関。ここからでは2日はか かる。が明日の晩から雨が続くらしい。となると今日中に距離を稼いで明日の 早い時刻に下関に到着していたい。

小学生の兄妹。すれ違いざま。二人からステレオで声をかけられる。
「なにしよん?」「なにしよん?」「たび?」「たび?」
そう「旅!」
たったそれだけの会話だったが、なんだかスキップしたくなった。ふふふ。

北九州市に入ると道も整備され都市のムードが近づく。が、もう日が落ちる。 街に入っては野宿ができない。あえて小倉ルートはやめて北九州空港方面から ローカル県道へ。
日が落ちた。犬の散歩の人々から逃れるようにとりあえずコンビニで腹を作る。 野宿できそうなところを探しながら歩き続けるしかない。

町、住宅地が途切れない。海も大きい港があるからダメだろう。どんどん寒く なってくる。22時回る。もう疲れた。寒いさむいサムイ。

コンビニでカップラーメンすすり身体をあたためる。途方に暮れつつ地図を見 る。高速道の高架下とか側道辺りなら人家もなくていいかも?

誰にも見つからないように暗闇の方へ消えて行く。犬にだけは気付かれ闇に響 く遠吠え。悪いことしてるわけではないのにすっかり逃亡者の気分。もうギリ ギリの体力。もう40km以上歩いてる。

高速と山を仕切ってるフェンス。やっとフェンスと山の狭間にちょっとひらけ た竹薮に寝所を見つける。23時半。
もう今日が終わる。今日はもう歩かなくていい。
駆け抜けてゆく騒音もヘッドランプも眠りを妨げることなどできなかった。


・(092)04/14/2002/福岡県・門司--山口県・下関/
朝日がまぶしい。今日一日、天気もつかなぁ?山を越えれば関門海峡のはず。 さぁゆこう。が。いきなり行き止まり。おじいさんに道を尋ねると親切かつわ かりやすい指示。
ようし。一つ峠を越えて一休み。「いい日和ですねぇ」と犬の散歩のおじいさ んに挨拶される。その響きがとてもいい。なんだかウキウキしてくる。

どんどん山を下る。が海峡とは反対側に下りてきた。ので、ぐるりと回りこん でゆく。
あ、港、あ、下関だ!海を挟んで本州が見えた。

もうすぐそこだ。門司港駅で昼メシ喰ってからトンネル歩いて本州・下関へ渡 ろう。

門司を歩くのは15年ぶりくらいか?ずいぶん変わってしまった。今やレトロ を売りにして一大観光スポット。ピカピカのレトロ。
ちょっと路地裏に入り込むと朽ちかけのレトロもまだ残ってて安心したりして。

こっから船なら5分で渡れる。昔、よく乗ったなぁ。でも、やはり歩いてゆこ。 九州と本州を繋ぐ海底トンネル。ちょうど境には一本のラインが引いてあり、 福岡県、山口県と記されてる。

一歩。またぎ越す。九州縦断完了!
本州編スタート。わははははは。なぜか一人テンション上がってる(笑)。

安宿探しのため下関駅の観光案内と電話帳。カプセルホテルが駅前にある。 ネットカフェも併設というし市内では最安値だし、決定。ちょうど雨が降り出 した。しばらくここでお世話になろう。

傘差して晩メシ放浪。韓国に近いから(ここから出てる関釜フェリーに以前乗 って行ったことがある)焼肉屋多し。匂いにやられるぅ。フク(河豚)を出す 寿司屋、割烹も多し。予算論外。

市内ガイド地図見ながら歩いてみると実は今日、高杉晋作の命日だったことを 知る。そして晋作終焉の地が下関だったのだ。知らなかったなぁ。彼が残した 「おもしろきこともなき世を(に)おもしろく」という句にモウレツに感銘を 受けてから出発した旅でもあった。鳥肌が立つ。これも「呼ばれた」のだろう か?

当てもなくブラついてもうコンビニ弁当でいいやとあきらめかけた時に一軒の カウンターだけの定食屋。とんかつ定食¥550にビールも1本つけちゃう! 本州上陸と晋作に乾杯ぢゃ。

歩いて旅をしてること下関には親父の墓があること下関門司はずいぶん変わっ たことをカウンター越しに店のおばちゃんに話すと、ごちそうさまと帰り際に 「残り物だけど」とにぎり飯を3つくれた。うれしさに小躍りしたくなる。

この旅の一期一会のほんの一瞬の接点での人々とのやり取りに心熱くなる。 不思議でたまらない。住所未定無職の不審者に対するこれほどまでにあたたか い接し方。べたべたするわけでも恩を着せるわけでもなく。あっけないくらい さばさばと気風がよく粋な振る舞い。 私はつくづく仕合せ者だ。

・・・(つづく)[02.05.05] 海月
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