__Walk_in_the_moonshine,_and_drink_like_a_jellyfish.__

[02.05.01] 

〜海月の放流〜 009

□前回までのあらすじ:
沖縄の離島をあちこち船で訪ね歩いた。冬春を飛び越してすっかり夏の日々。
行き当たりばったりの旅でありながら会うべき人々とは出会ってる気がする。


●『アイランド・ホッピング - 再びの那覇そして奄美諸島の巻 -』

島の時間に自分のリズムが合ってくる、順応する、ということはつまり。
島酒・泡盛がウマくなってくる。ってことだ(笑)。

島を転々と渡り歩く。どんなに小さな島もどんなに離れた島も海底ではみんな 一つに繋がっている。人も然り?


・(046)02/27/2002/沖縄・那覇/
日の出の頃、那覇港に到着。早朝過ぎて身動きも取れないので港の売店で朝メ シ買って喰ったりしながら2、3時間ボケボケ。

そろそろいいだろうと10am頃、柏屋に電話。またしばらくお世話になることに。

前回那覇に居たのは1ヶ月前になる。道々や店々が懐かしくすら感じる。勝手 知ったるホームタウンに戻ったような安心感。顔がニヤけてしまう。柏屋にも 馴染みの顔ぶれが勢ぞろい。帰ってきたって感じ。また偶然にも1Fスペース でイベントが始まるらしい。いい予感。
ひとまず荷物を置いてだらりらした後、美大生の展覧会があるというので街に 繰り出す。

前回も1週間くらい那覇には居たけれどまだ踏み込んでいないエリアがたくさ んある。それは観光客にとってはディープゾーンであり地元民にとっては「日 常の場」だった。

僕はむしろ日常の場にこそ惹かれるのだった。面白みを感じる。考えてみると 僕の旅はナニカを求めている訳ではなく、そこに住み暮らすとしたら、という 目線で歩いているようだ。条件を付ける訳でもないし全く当てもなくぶらぶら ふらふわしてるだけなのだけれど。

今回の那覇でも1週間以上は居座ろうと思ってる。しかもまったく無目的に。 やりたいこともあるがそんなのは「効率的に」やれば2、3日で片付く。
そんなことよりも今回の滞在は「期を待つ」時間稼ぎなのだ。
一つはまさかここで観られるとは思わなかったライブのタイミングが合うこと。 一つはこれから沖縄を離れ北上するにはまだ寒いだろうということ。
そしてそれら以上に漠然とここに留まらせるナニカが呼んでる気がすること。

本格的に春休みシーズン到来ということなのか宿は満員。共有スペースで自分 の居心地のいい場を確保しとこう、ととりあえず座り込んでマンガを読み始め たら。ハマった。続きを読まずにはいられず動けないぃ。


・(047)02/28/2002/沖縄・那覇/
遅寝遅起生活スタート(笑)。ついでに一日ニ食生活も始まる。昼過ぎに空腹 感で目覚め街に出てブランチ。夕食は宿の¥300メシ(おかわりモリモリ)。 マンガに熱中して気が付くと午前3時4時。で寝る。そんな生活。

今日はそれでも動き回った。おかげで地域の町名と位置関係が頭に入ってきた。


・(048)03/01/2002/沖縄・那覇/
赤い鳥プロジェクトの代表・斎藤が出張で那覇にやってくることになっている。 到着は夜11時頃と言ってたが、昼前に起きてから既にソワソワ。旅先で旧友 に会う。お互いが旅の途中で会う。というのはなんとも不思議で嬉しいこと。

ようやく夜中に合流できた。お互いの近況云々よりも今後の旅及び「放流」の 方向性と斎藤のビジネスとの接点について語らう。まあたまには真面目な事も あるのだよ。

「明日があるから」「仕事が早いから」そういう理由で宴をお開きにするのは もっとも一般的なやり方だったりする。が。もう一般から片ヒザ逸脱してる僕 にとってはこの宴の瞬間瞬間がこの晩にしかない。それを思うといつも寂しく なる。

ところで。今日もすごい体験をした。昼前に起きてシャワーを浴びてるとシタ ールとタブラの音色。インドの安宿のフラッシュバック。あわてて出ると目の 前で演奏中!たまたま泊り客にミュージシャン夫婦が居たのだった。インドと 同様な石(コンクリ)づくりのこの宿では最高にそれらしい響きになってた。 そして。夜もせっかくだからとみんなの前で演奏してくれた。こんなに間近に シタールを観たのは初めて。すごいすごい。


・(049)03/02/2002/沖縄・那覇/
今日は柏屋が予約で満室になってるので僕は一晩だけ他の宿に移動ってことに なってた。昼頃「スマイルの宿」へ。古民家を改造修理したこの宿もなんだか ミョーに落ち着く。一日中一歩も外に出なくてもいい気になってしまう。

とは言え腹が減ったら。安メシを求めて歩くあるく。2時間以上もさまよう。 大学近くの学生たちが喜びそうな定食屋発見!これこれ。こんな店探してた。

不動産屋に自然に目が行ってしまう。この辺で大学生をやるってのもいいな、 なんて考えてみたりして。

夜、茶の間で一人で飲んでると他の人たちも各々酒持参で飲み始める。けれど みんなでワイワイやるわけでもなく各々のペースで思い思いの事をしながら夜 は更けゆく。会話はあるようなないような。
こんなゆるい場、ただこの同じ空間に同じ時間に居る、そこから何も飛躍せず 沈没もせず、ギリギリ「ナニカ」で繋がってる場。こんなのもありだな。


・(050)03/03/2002(サルサの日)/沖縄・那覇/
スマイルにはもうちょっと居たかったが今の時期このテの宿は大人気で既に予 約で満杯だし柏屋の方には今日から一週間の予約を入れてあるのでまた移動。 イベントの最終日だと言っていたので差し入れにワインをぶら下げてく。

ライブペインティング。ってのは刻一刻と変化してゆく過程もおもしろいのだ が。一体どの時点で終了とするのかは本人すら決めかねるところがあるようだ。 一応、時間で〆たがその後も飲み語らいながら数時間手が加えられていった。

1Fではまだまだ絵が変化してる頃、2Fでは既に飲み会が主役抜きで盛り上 がってた(笑)。


・(051)03/04/2002(三線・サンシンの日)/沖縄・那覇/
毎週月曜日は「メンズデー」で映画は¥1100で観られることを知り「オーシャ ンズ11」を観てみた。ヒマだったので2回続けて見る。「オーシャンと11人の 仲間たち」?の方を観てみたい。

クーラーの効いた室内から外に出ると夏だった。

街をブラブラ。宿ではマンガ三昧。


・(052)03/05/2002(サンゴの日?)/沖縄・那覇/
宿のオーナーが声かけて総勢10人くらいで「夜の遠足」。要は飲みに繰り出す んだけど。路地から路地へゾロゾロゾロゾロ。まるで香港映画のプロローグの ような気分で(謎)狭い裏道を抜けるとイカスショットバー。

今夜はうちらだけで満席貸切状態。創作インチキ昔話を考えたり飲んで踊って いい気分。

2軒目もまたいい感じの店。知ってるヒトに付いていかないかぎり店があるの かすら分からないような所(シャッター閉まってるんだもん)。

一歩二歩踏み込んで行かないと出会えない場というのが在るのだ。


・(053)03/06/2002/沖縄・那覇/
泊り客に芸大受験生の娘がいる。今日、合格発表日。結果は・・・NG。そう かぁじゃあ反省会もとい残念会するか!ってことで柏屋で飲む。今夜も。連日 満室の柏屋。今夜はやたらに女性比率高し。女三人よればかしましいとはよく 言ったもので・・・。

残念会とは言うものの本人が一番明るく元気に大騒ぎ。


・(054)03/07/2002/沖縄・那覇/
明日帰る人たちの送別会と称してまた飲み会。連日の飲みは、みんな別々の所 からやってきて別々の意思を持って集った一期一会の宴ではあったが、なんだ かなんかの合宿でもしてるような気分で「いちゃりばちょーでー(出会えば兄 弟)」という沖縄の言葉がまさに言い得て妙だった。

今夜も気が付きゃ午前6時。


・(055)03/08/2002/沖縄・那覇/
客が入れ替わると宿のムードも変化する。今夜はずいぶん静か。なぜかみんな 集まってるのに黙々とマンガに没入。

新聞、雑誌、マンガ、テレビなどを見ていると。いろんな土地、時代などが出 てくるので今自分がどこにいるのかフッと忘れてることに気付いたりする。 どこに居てもどこにでも行ける。旅をしながら別の旅もしてる。不思議な感覚。

午前0時を回る頃。マンガ読みにみんな疲れたのか、長期滞在者たちが動き出 しちゃぶ台につまみが置かれると自然に手には泡盛。もうすっかり体に泡盛が 馴染んでる。 東京の沖縄料理屋で飲んでた時は正直言ってウマいとは思ってはいなかった。 それは自分に合う泡盛に出会ってなかったことと、やはり土地のものはその土 地の気候風土の中でこそウマさが引き立つからなのだろう。

共有スペースでマンガ読んだりだらりら過ごしている今の自分はなんなのだろ う?と突然、思った。そのタイミングで声が掛かった。
自分から何か働きかけた訳ではないがなんとなく今日一日モヤリと頭を占めて いたテーマ(ハンディキャップとバカ)についての語らいとなった。内容はも う覚えてない。が。
ああそうか。コレを待ってたんだ。コレに呼ばれるのを待ってたんだ。この時 のタイミングを無意識に計ってたんだ。

で。結局、午前7時。


・(056)03/09/2002/沖縄・那覇/
この一週間は観光するでもなくむしろ観光客のいない方へ来ない方へと路地散 策気分でさまよい漂う日中だった。あと3日もここに居たらもうここから抜け られなくなるような居心地の良さ。もう動き出さないと早くも旅が終わってし まう(笑)。いい頃合だろう。次へ進もう。明朝の船で沖縄を発とう。

「どんとルックバック」追悼フィルムライブ。まさか沖縄で観られるとは思っ てなかった。よかったぁ。
興奮覚めやらずでも空腹には勝てず。一緒に行ったカメちゃんと宿の客達とま ずはそば屋へ。腹ができたら宿に帰って飲もう!

沖縄は夜が遅い。夜が深くなるほど盛り上がる。明朝は6時半には出発する。 少し寝ておこうかと思ったが結局寝ずに迎える朝。名残惜しく語らっているう ちに朝になってた。
飲み付き合ってくれた人たちが付き合いついでに見送ってくれる。餞別までも らったりして(こんな事はこの宿では珍しいらしいが)。なんだかモウレツに 照れくさい。

ここにもう1年も棲んでるハマさんはこの船に乗り遅れたばっかりにこの宿に 居ついてしまうことになったらしい。あぶないあぶない(笑)。僕もそうなる 可能性が高いので「ぢゃ行ってきます」とキッパリ手を振り、去る。


・(057)03/10/2002/沖縄県・那覇〜鹿児島県・与論島/
あっ、洗濯物干しっぱなし。しかし。ここで戻ったら1年滞在コースだ(笑)。 進もう。

沖縄を離れ鹿児島県へ。とは言うものの与論島は返土岬からも見える程近い。 これから奄美の島々を一個一個アイランド・ホッピングしていくのだ。

朝出港して昼には着いた。青い海もさとうきび畑も何も変わらない。なんだか 拍子抜け。
まずは港で島の略地図入手。とりあえず市街地に行こう。

今日はヨロンマラソンの日だったらしい。ゴール付近にひょっこり出たら42km 走ってきた人々の列。しばらく道端で応援者気取りで眺めながら今日はどうし ようか途方に暮れてみた。

安宿探すのはあきらめた。マラソン客でどこも満室に違いない。スーパーで食 料調達して観光協会でもらった地図を頼りに今夜の野営地を見当付ける。

ここがもう沖縄ではないと気付かせるのは人の暮らしの文化にあった。行政上、 車のナンバーが鹿児島ナンバーなのはもちろんの事、ずっと吸ってたVioletと いう煙草もない泡盛もない。まぁこれらは予想してたが。

墓の形、大きさ。が内地と同じく小さくなっていたのにはハッとした。墓が違 うということは死の考え方、生の捉え方の違いにも反映されているのだろうか?

野宿には身体を暖め一日の移動を締め括る為にも酒が必要だった。泡盛はなく なったがここ与論をはじめ奄美の島々には“黒糖焼酎”があった!

小さな島だがいくつものビーチがある。うまく風が防げる浜を見つけ今夜はこ こで野宿決定。海に日が落ちると星がやってくる。


・(058)03/11/2002/鹿児島県・与論島/
昨日まで朝寝昼起生活だったけれど。今日からは日の出とともに起きる。朝メ シ喰って野営撤収。耳にラジオ。まだ沖縄の放送。たまにはNHKにしてみるか。 国会中継でムネオくんの証人喚問聞きながら、さとうきび畑・牛小屋・海の繰 り返しの道をポテポテ歩く。歩くあるく。

食料調達できる店がなかなかない。

夕暮れ迫る。やっと食料入手。道は行き止まりの岸壁。でもここが結構いい場 所だった。海で手足顔洗ってさっぱり。夕焼け見ながら晩メシ。星を眺めなが ら酒もチビチビ。

流れ星を数えながら寝る。


・(059)03/12/2002/鹿児島県・与論島/
登山は好きではない。僕より重く大きなザック背負ってる登山家には無条件で 尊敬。でも。高い所は好き。塔とか屋上とか展望台があれば登らずにはいられ ない。上に伸びる階段や梯子に無闇に反応してしまう。惹きつけられる。

10m上がれば10km先が見渡せる。100mなら100km。高さは広さだ。
って訳で与論島と周りの海さらに他の島々や沖縄まで見渡せる丘に登る。丘の 上には博物館があり他に客もいないのでゆーっくり見学。貸切気分。

丘の上で当たりを付けた辺りまで歩いてゆく。小さな島だがなかなかたどり着 けない。道はキビ畑の都合に優先されて曲がりくねる。鳥のように一直線には 行けないのだ。そしてコレが歩く速さなのだ。

午後早い時間には島一周完了してしまった。港の近くの砂浜にいい野営地を見 つけたので一旦ここを離れ街で食料調達してからまた戻る。夕暮れに間に合う ように野営準備。いつものように杯を掲げてこの場所で一晩寝かせてもらう事 をこの場に告げ危険がないことを祈る。そして晩メシ。今日買ったレタスは大 正解。海水で洗ってそのままかぶりつくといい塩梅。残りはビニール袋に入れ て海水で満たし浅漬け風にしてみよう。


・(060)03/13/2002/鹿児島県・与論島〜沖永良部島/
港までは15分もあれば着ける。船は12時発。ゆっくりできる。海で顔洗っ て朝メシ。浅漬けレタスもイケル。ひとまず荷物をまとめて体温を上げるため 日向で海を眺め本を読んで過ごす。

さぁ次へ進もう。今日の船は豪華。2時間しか乗っていないが風呂(湯船)が 付いているので久しぶりに湯船に浸かる(沖縄辺りではシャワーしかないとこ が一般的)。窓の外は真っ青な海。なんて贅沢な風呂。しかもまたしても貸切 状態。

小一時間ヒルネしたら沖永良部・和泊港に到着。さてと。まずは町役場に行っ て地図をもらう。あと2、3時間で日が暮れる。

海浜公園が少し歩くとあった。トイレもシャワーもあるから便利。でもテント を持ってないので吹きっさらしの所では夜中寒そうだ。ちょうど風が遮れそう な防風林の中に寝床を決める。沖永良部にはハブもいないというから一安心。

残照に星がちらちらし始めるのを眺め一日を締めくくる。


・(061)03/14/2002/鹿児島県・沖永良部島/
朝メシ後雲行きヤバし。そしてやっぱり歩き出すと雨。まいったなぁ。重くデ カい荷を背負って雨の中を歩くことほど憂鬱なこともない。休憩もままならな い。

2時間ほど歩くと空港があった。ここでしばらく雨宿りして今日からの予定で も考えよう。空港には途方に暮れた人々ばかりだった。この土砂降りで欠航便 が相次いでる。そして突然の停電。トホホを絵に描いたようなシチュエーショ ン。

雨が上がると今度はモウレツな日差し。うりひゃあ蒸し暑ー。じゃんじゃん脱 ぐ。しかししばらくするとまた雨。何度も繰り返す。まいった。

夕暮れ。寝所を見つけないと。今は止んでるけど雨の心配もしとかないと。な かなかいい場所が見つからない。日没直前、やっと公園を見つけるが高台の吹 きっさらしは寒そう。夜中、人が来るのも困る。周囲の森に踏み込み寝床確保。 いざ雨、となったらダッシュで公園の東屋に避難しよう。

ああ、今日は疲れた。


・(062)03/15/2002/鹿児島県・沖永良部島/
夜明け直前。パラッ。パラパラパラ。うりひゃー降ってきたぁ。撤収!屋根の あるところに避難。風があるので濡れずに済む所が少ない。小さく丸まってう とうとしながら夜明けを待つ。

昼前から天気回復。山を下りて海へ。野宿にちょうどよさそうなキャンプ場付 海浜公園発見。夏ならにぎわうのだろうが今は誰もいない。集落で食料をまと めて調達してここで2泊くらいしよう。

炊事場には水もあるし照明もあるしコンセントもある。早速靴下洗濯しつつPHS の充電(圏外だけど)。ここなら雨も防げる。日が落ちても本が読める。なん だかそんな普通の事が嬉しくて今夜は遅くまで起きて本を読みふけった。

もはや飛ぶ力もなくボロボロになった蝶が最期の力で葉ににじり寄る。蝶は姿 勢をフルフルと正すとその形のまま果てた。その一部始終の立会人となった。

夜中、寝ているとガソゴソと音がして緊張した。こちらには気付いてないよう なので耳に全神経を集中して様子を伺う。あの音は食料袋だ。荒らされてる! がばっと飛び起きて散らかってるゴミに途方に暮れる。逃げ去る黒猫の後姿。 仕分けておいたゴミ袋の匂いを嗅ぎつけたのだろう。これは僕のミス。誰もい ないという気の緩みで荷物を広げすぎた。布製の食料袋は猫の爪でパックリ裂 かれてる。あーあ。まぁ猫でよかった。


・(063)03/16/2002/鹿児島県・沖永良部島/
曇天。今日はもうどこにも行かない。ラジオ聞きながら日記を付けてこれまで の旅を反芻する日。気持ちだけ飛んでってしまってちっとも文字に置換できな いのだけど。

今日の日照時間は5分くらいだったな。

常に動き続けて到着する日と出発する日が同じになる日々は疲れる。たまには 今日のようにぢっとしてるのも必要、かもね。
旅の中にいることを実感するのは動いている最中よりもむしろ立ち止まった時 だったりする。

月の見えぬ夜は余計に寒い。


・(064)03/17/2002/鹿児島県・沖永良部島/
さあ歩くか。太陽も出てきた。島の西半分をぐるりと巡る。

鍾乳洞に入ってみる。観光スポットで入場料も高いが他に客なんていない。
旅の日常ともまた違う異世界に遊ぶ。自分が知らない世界は地中にも広がって るのだった。

今日は山のキャンプ場で野宿するつもりだったが途中に全く店がなくて食料調 達ができなかったのでまた海まで下る。やっと集落。地図にある公園を目指す が野宿には適さない。今夜も雨になりそう。近くのアダンの林の中にもぐりこ む。

寝てたら降り出した。葉の茂みで少しは雨風は弱まるが水の中で寝るよりはマ シ、くらいな程度で結局びしょぬれだ。

早く夜よ明けてくれ。雨よ上がってくれ。


・(065)03/18/2002/鹿児島県・沖永良部島〜徳之島/
やっと朝。雨は上がったが強風。公園でしばらく濡れたシートを風になびかせ 乾かす。

もう先へ進もう。徳之島へ。着いたら宿探そう。着てる物全部コインランドリー にぶち込もう。

船着場には出航の2時間も前に着いてしまった。しばらくボーっと過ごす。
久しぶりに旅人たちを見る。彼らは島のどこにいたのだろう?
友人に似た人がいてドキッとしたがコンマ数秒でぬか喜びに終わる。そりゃそ うさ。
誰からも声は掛からず誰にも声を掛けず乗船までの時間を過ごす。

徳之島到着。亀徳港で島地図入手。
今夜は宿に泊まりたい。1泊¥1500の安宿の看板!あったやった助かった。

港からしばし歩く。松山ガソリン。スタンドの2Fが貸部屋になってる。別に 臭わない。他に客もなくのびのびくつろげそう。2泊することに決定。ここで はレンタカーも一日3千円と安く借りられるらしいが今回はNo ThanQなのだ。 スーパーもコインランドリーも近くにあるのもグー。ここにたどり着く途中に ネットカフェもあったしいいぞいいぞ。

なんか疲れもたまって鬱々してたのも吹き飛んで風呂上りにビール(発泡酒) で乾杯!酔った勢いのままゴロリと“フトン”で眠れる仕合わせ。


・(066)03/19/2002/鹿児島県・徳之島/
朝洗濯。マシンが止まるまでの間、「手ブラ」で身軽に散歩。天気もいいし スキップしたくなるほど嬉しい開放感。

昼メシは弁当買って防波堤によじ登って海を見ながら。
プシュッカコッ。ヒルマビールもあけちゃう。うひょひょひょ。そしてヒルネ。 エイエンノキュージツノオスソワケノヒトカケラ。

ネットカフェで3時間。日記を打ちこみFDに保存。
宿に戻りTV見ながら晩メシ喰いながら明日からの歩くルート考えながら酔っ たら寝る。


・(067)03/20/2002/鹿児島県・徳之島/
休養取ったおかげで荷物も軽く感じた・・・のは最初の30分だけ(泣)。や たらにアップ/ダウンのキツイ道。集落も店もなくなっちゃうし。何台もの選 挙カーから「よろしくお願い」されちゃうし。

『海辺の集落には必ずネコ』の法則、継続中。

もう歩けん、って状態を21%(当人比)くらいオーバーしたところでようやく 寝所になりそうな場所にたどり着く。夏場はにぎわうだろうウォータースライ ダー付プールもあるし、ロッヂ、BBQコーナーもある海浜野外公園施設。しか も!更衣室の鍵は空けっぱなし。おおっ、ここなら雨風しのげる。明日は雨だ とラジオで聞いたし、こりゃ助かった。

風を防げるというのはすごいことで。いつものかっこで寝てると暑くて眠れな いくらいなのだ。壁一枚向こう側では天候も荒れだしたというのにだ。


・(068)03/21/2002/鹿児島県・徳之島/
宿とは比べようもないが。野山、浜辺で野宿するのと違って公園とかの公共施 設で寝てるのはとても緊張することなのだ。人が来るから。だから外の明るさ 気温変化で過敏に朝を感じると目が覚める。体温を活動温度まで上げるために とりあえず何かを口にねじ込んで喰うとすぐに撤収準備。逆に公園だから夜が 明けてしまえばベンチでゴロゴロしてる分には何の気兼ねもいらない。

と、ここまではいいのだが今日はものすごい豪雨雷雨。土砂降りの雨を眺めて る。もう今日は誰も来ないだろうと気が抜けたら睡魔が来た。

緊張がゆるみきった二度寝の爆睡をブチ破る怒声!3秒間、何が起きたのか全 く判断できなかった。そして「雨宿りしてるんです」とやっと一声。
怪しまれて当然だよなぁ。「犯罪者か?テロリストか?オウムか?」ちょっと (ヤ)風の地元のおじさんから質問攻め。内心すごくビビリつつ平静を保って 一つ一つ丁寧に応えて説明するしかない、ゆっくり。少しは信用してもらえた のか「寝ててもいいぞ」とお許しが出る。

が一応警察に照会するというので免許証を見せるとどこぞに電話をかける。実 際、県警にかけてる風ではあるが相手にされなかったのか照会の上問題なしと なったのか数時間待っても警官がこの場にやってくることはなかった。この雨 だしどこかに逃げようとも考えてないので、日記でもつけながらたたずむ。

おじさんには結局丸一日監視されてる形となった。が素性経歴、旅のことなど いろいろ話した。やっと信用してもらえたか。一転してメシおごってやると弁 当とビールを差し入れしてくれた。安堵と恐縮。
こういう人が島中に目を光らせている限りこの島は安全でありつづけるだろう。

今日は一日いい勉強になった。今後の旅のためにも。

夜安心して眠れるように辺りを見回ってやると言い残しておじさんは去った。 真夜中にもう一度来たがもう大丈夫。

それにしても。このおじさんの正体こそ不明、な気分で一杯なのだけど。
でも感謝。


・(069)03/22/2002/鹿児島県・徳之島〜奄美大島/
今日で徳之島も後にして奄美大島に渡る。港までの道で小学生達から「おはよ うございまーす」と声を掛けられる。今日は終業式か。

田舎道を歩いていると見知らぬ旅人にも挨拶を掛けてくれるこどもらとよくす れ違う。そんな時は自然に笑みがこぼれほわんとあたたかくやわらかい気持ち になる。

港のある平土野の町に着いたが出航までまだ時間があるのでブラブラ。近所の じーちゃんが散歩中話しかけてくる。飴をもらったので煙草を一本あげる。 かつてじーちゃんは映画を撮っていたそうだ。映画が廃れてからは植木を育て て売っているらしい。見に来なさい。付いてって庭を拝見。
なんだかこの島も独特の時間の流れがあるなぁ。

空があやしくなってきた。船に乗ったらただ寝て過ごす。
奄美大島に着いたらまず役場に行って島の地図入手。雨も降り出しそうだが公 園でカップラーメンすすりながらネコにもお裾分けしながら宿に泊まろうか歩 こうか思案。

「迷ったら前へ」と旅の途中から自然と自分に言い聞かせるようになってる。 で。歩き出してみるのだが30分もしたら雨が降ってきた。うー、港近くなら宿 もあったのになぁ。

長いトンネルを抜けきる前に雨対策をして、ふてくされながら雨の中を歩く。 すると一台の車が止まってくれた。よっぽどお言葉に甘えて乗せてもらおうか と思ったが2、3日かけて歩いていこうと思ってる町まで一気に今日中に着い てしまう事になるので、丁寧にお断りする。

しかし。その直後、雷鳴。うひょー。野宿も厳しくなってきた。
と、そこに廃車が打ち捨てられている広場。ちょっと埃っぽいが濡れずに済み そうな車があったのでここで野宿決定。直後、ものすごい土砂降り雷雨。うわ っよかったぁここが見つかって。

とりあえず前に進んで正解。


・(070)03/23/2002/鹿児島県・奄美大島/
今日は天気がよくなった。さぁ歩こう。
しかし延々と続く山道。海沿いの集落まで下ればまた上り坂。

山間の集落。みかんの木?それはオレンジ、ネーブル、みかんを合わせたよう な“タンカン”。へろへろになりながら歩いているとおばちゃんが「ちょっと 待ってなさい」と家に飛んで帰ってタンカンを一袋1kgくらいどっさりくれた。 嬉しい!疲れがすーっとはじけてゆく甘酸っぱさ。
しばらくタンカン畑の緑とオレンジの大好きな色の組み合わせの道を歩く。

2000mつまり2km以上の長いトンネルを歩けば30分もかかるのだ。空気は悪い し暗いしうるさいし怖い。やっと抜けると深呼吸。フー。
すぐに川と橋。今夜はこの橋の下がいいや。川で手足顔を洗ってメシ喰ったら 寝る。まさかこんなとこで寝てるヤツがいるとは車に乗ってる人には想像もで きまい。


・(071)03/24/2002/鹿児島県・奄美大島/
また天気が崩れそう。もうとっとと鹿児島に渡ってしまおうか。

名瀬の町。久しぶりに大きい街に来た。山の中では飲み物を調達するのも大変 だったのにここには何でもあるような気がしてくる。

いよいよ降り始める。昼メシと晩メシを調達しておいて港の待合所で夜の出航 時刻までここでのんびり過ごすことにする。

悪天候の為、船の到着が30分、1時間と遅れることが報らされる。が乗れれ ば問題なし。船なら雨風防げるしシャワーも毛布もあるのだ。

沖縄から鹿児島まで1泊2日で航行する船。それに途中乗船する形になるから 既に沖縄から乗り込んでる人たちもたくさんいるわけで。僕が沖縄を出たのは いつだったかな?もう2週間も経ってた。

明朝には九州なんだなぁ。ちょっとした興奮と野宿の不安感からの開放でなん だか眠れず船内消灯後もチビチビ飲ってた。


・(072)03/25/2002/鹿児島県・鹿児島〜屋久島/
到着!しかし小雨まじり。九州に上陸したもののやっぱり屋久島には行こう。 鹿児島市街もなんだかワクワクする街の魅力を感じたが、もし船があるなら渡っ てしまおう。

高速艇は海面を飛ぶように進む。だからシートベルトをつけさせ「フライト」 と呼ぶのだった。

屋久島に着いたはいいが、さてどうする?野宿はしたくなかった。海からそび える山、という感じの神々しいまでのこの島では。
何軒か電話してやっと落ち着ける宿・タンポポを確保。離れは古民家をそのま ま開放されており素泊まり専用。おおっいいじゃん。こたつかぁ。寒かったか らうれしいぃ。ここに2泊決定。

スーパーでいろんなもん調達してきて引っ越し初日のような気分でワクワクす る夜。もちろん酒も進む(笑)。

つい先日、屋久島のキャンプ場で一家心中があったことはラジオで知ってた。 その所為で警察はピリピリしてるらしい。ここから「縄文杉」にたどりつくに は相当朝早く(4時5時)に出発しないとダメらしい。など宿の人から聞き、 入山届も出さなきゃならないことも面倒になったので明日はのんびり行けると こまで行ければいいやという気に変わった。


・(073)03/26/2002/鹿児島県・屋久島/
朝5時に起きてみようかと思ったが雨音を聞いたので二度寝に急降下。それで も7時には歩きだしてみる。荷が軽いので足取りは軽い!と言いたいところだ が急な上り坂が12kmも続く。この道のりはバスも通るので歩かず楽に行けるの だが、なんかちょっと意地張ってみたりして(笑)。

白谷雲水峡。この森を抜けて「縄文杉」に行くルートもあるらしいことは昨夜 のうちに知ったが、この森まで行ってみてからその先は考えようと思ってた。 しかしまずそこまでの12kmに3時間はかかったのでもうあきらめた。
でも歩いたことで桜を愛で野生の猿たちに遭うことができた。

白谷雲水峡の入口で森の散策ルートを説明してもらう。観光俗化してる事が一 番心配だったが、森に一歩踏み込んだ途端にそんな気持ちは吹き飛んでた。
もうここは時間軸が違うのだ。樹齢3000年の杉でさえもまだ若いと言うのだか ら。

一応見所となる立派な木や奇妙な形の木などがあり名前が付いてたりするが、 もうそういうのはどうでもよくなってる。清流が流れれば手を差し伸べ飲む。 甘露水!甘さすら感じるうまし水。
1ヶ月30日に35日雨が降る、と言われる水の豊かな山林島。森は地面、岩肌、 木々の全てをコケで装い。空までも緑に染める。緑の中に居る。緑になって居 る。そんな自分に気付いたとき先に進み歩くよりもここに居る事に涙まで出そ うになるほど声も失い座り込んでた。
歩みを止めると森が見ていることに気が付く。それは月に見られている時と同 じ安心感。

森に何も語ったり尋ねたりした訳ではないのに「それでいい」と応えをもらっ た(気がした)。

野生の屋久鹿がひょっこり飛び出してきた。向こうもこっちも一瞬の緊張で身 構える。僕は大丈夫だよと伝え鹿は観察を続ける。フッと両者の緊張が解ける とお互いに自分の道をゆく。座り込んでると近寄って来たりもするが馴れてい る訳でもなく、お互いに興味はあるがお互いの領域の距離感は保ってる感じ。

帰りはバスに乗るつもりで森の入口まで戻ってきたがまだ30分もあるのでま た歩いて帰ることにする。

森の中では降ったり照ったりしていたが、下界(?)では暑い日差し。
3時間かけて上った道のりも下りは2時間だった。大汗。

しばらくこの島に居たかったが滞在費が高いので明日は九州に渡ろう。
名残惜しくて遅くまで焼酎を飲んでた。

・・・(つづく)[02.05.01] 海月
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