夢境

13年間、自分の誕生日を迎えるのが恐ろしかった。
生まれてきたことを恥じ、悔やみ、枕に顔を埋めて屈辱に震えた。
双子座がいなくなり、射手座が殺されたあとも、不在の双子座の生誕を祝う式典は繰り返し行われてきたのだ。
本人のいない厳かで、華やかな式典は、まるで空っぽの棺を囲み皆で涙しているような滑稽なものだった。
それを傍から見ている私は、なんと惨めで、なんと愚かだったのだろう。


そして、甦った私のなんと罪深いことだろう。


「サガ」

サガはどこか遠くで、よく馴染んだ声が自分を呼ぶのを聞いた。
夢を彷徨う中で聞こえてくるその声はとても心地がよいもので、自分が罰を負わされていることを忘れそうになる。

夢を彷徨うこと。
それはサガに科せられた『罰』だった。

はじめは女神の気遣いだった。
甦ってから罪悪感のため眠ることさえしなくなったサガに、女神は半強制的に深い眠りに入るようまじないをかけた。
それを知り興味をもった冥界の神が、咎人を甦らせるかわりにという理由をつけ、『夢』という『罰』を与えた。
夢は突然に訪れる。目覚めたばかりの朝。執務におわれる昼。恋人と過ごす夜。
あらゆる時間に夢は訪れては、サガを夢の中へ引きずり込み、自分の昔見た夢、他人の夢を彷徨わせるのだ。
それはほんの数分で終わることもあれば、何日も目を覚まさないこともある。

夢の長さも、いつ訪れるかさえも全く読めない夢ではあったが、一つだけ特徴があった。
夢が訪れるのは決まってアイオロスが傍にいるときだったのだ。
二人が近づくことで夢が訪れるとなれば、自然と二人の距離は空く。
サガは本来教皇宮で行うべき執務を全て双児宮で行うようになった。
アイオロスは不用意にサガを夢へと落とすわけにはいかないと、自然と双児宮を避けることになってしまった。

初めのうちは、皆サガを気遣いもしたが、幾度も重なれば人は慣れる。
繰り返される出来事に憤りすら感じはじめるのだ。

サガは次第に外に出るのを拒むようになった。

女神はサガをそのような目にあわせたのは自分だと、涙を流しサガに謝った。
『罰』を解くよう冥界へ行くという女神を、サガは丁重に断り、その罰を受け入れた。
愛する者と夢に引き裂かれ、いつ目覚めるとも知れない夢の中を漂うことを。

『本来ならば甦ることもかなわぬ身。再び女神をお守りすることができるだけでも、
私にとってはこの上ない幸せなのです』

冥界の神の思惑が知れたとき、サガは女神の前でそう言い微笑んだのだ。

互いが近づかなければ、互いが言葉を交わさなければ、普段通りの日常が続く。
こうしてサガは、冥界の神が罰を科してから、アイオロスとまともに会うことがなくなった。
姿を見つけた瞬間に、愛しい者と引き裂かれる辛さ。
しかしサガは、それでもアイオロスの穏やかで暖かな小宇宙を感じるだけで、生きている喜びをかみしめた。


双子座の誕生日を間近に控えた今、サガは今までにない長い眠りについていた。