聖闘士☆風邪 後編

「サガ、何か食うものは・・・」
軽食をトレーに載せ寝室に戻ると、サガは少し苦しそうに眠っていた。
徐々に体力を削っていくとシオンの言った通り、時間が過ぎるにつれサガの調子は悪くなる一方だ。
トレーをベッド脇の小さな箪笥の上に載せ、タオルで汗を拭う。
(苦しそうだな・・・)
眉を寄せ、時折苦しそうな呻き声をあげる。
普段体調の変化を表に出さないサガが、ここまで苦しむほどの風邪かと思うと、
アイオロスは心配でならなかった。
(すこし寛げておくか)
少しでも穏やかに眠ってもらおうと、きっちりと着込んだ寝間着の前を寛げようと手を伸ばした。

「てめえ人んちの兄貴にナニやってんだよ」

背後から突然声をかけられびくりとして後ろを振り返ると、そこには海界にいるはずのカノンが立っていた。
「カ、カノン?海界にいたのでは・・・」
「突然サガのコスモが消えたもんだから戻ってきた。・・・・手」
手、と言われ、アイオロスは慌てて手を引っ込めた。
別にやましいことは何もしていないのだが、なんとなくバツが悪そうな顔をする。
「風邪か?なんでコスモが消えるんだ」
「それが聖闘士のコスモの燃焼を妨げ体力を奪う風邪らしい」
「そんな風邪が聖域にあんのかよ!ったく・・・で、すぐ治るのか?」
「ああ。だがこれといって治療法もないらしく、時の流れるに任す以外には・・・」
「そうか」
カノンはサガの頬に触れ、乱れた髪をそっと流す。
「ムリしすぎだバカ」
口の悪さに対して、サガの髪に触れる手はひどく優しい。
カノンは額に手をやると、そっと黄金色のコスモを流しはじめた。
「?」
「双子っつのは不思議なもんでさ、コスモの質とかも似通ってくるんだ。
黄金聖闘士は特に何も気にしてなくてもその違いが自然と感知できるが、
青銅のガキどもじゃまだ分からない。
あいつらがなかなか俺たちの見分けがつかないのはその辺の理由もあるんだ。
・・・外部から似通ったコスモが流れ込んでくれば、少しはマシになるだろ」
「カノン・・・」
「あ、お前普段突っぱねてるくせにとか思っただろ」
「いや?」
「くそー覚えてろよ」
穏やかに流れてゆく黄金のコスモ。暫くそうしていると、サガの様子も大分良くなったようだった。
カノンはそれを見届けると、アイオロスに後は頼むといってサガが起きるのを待たずに去ってしまった。
なかなか素直になれないでいる弟に、アイオロスは苦笑した。

陽もすっかり落ち、辺りが暗闇に包まれた頃、ゆっくりと寝ていたサガが目を覚ました。
「おお、目が覚めたか」
「アイオロス・・・」
「腹は減ってないか?あまりうまくはないが飯でも作ろうか」
「いや、もうすっかりいいんだ。お前の黄金のコスモを今ではちゃんと感じられる」
「本当か?」
サガは頷くと、体を起こし、金色のコスモを立ち上らせた。
「確かに治っているようだ」
と、アイオロスはベッドの端に座ると、嬉しそうにサガの体を引き寄せた。
「お前が眠っている間、何度手を出そうかと思ったことか」
「今日はやけに紳士的だと感心したぞ」
アイオロスは笑うと、サガの髪を撫で、唇を重ねた。
数度軽く口づけを交わすと、深いものに変わっていく。アイオロスはサガをそっとベッドに押し倒す。
唇を重ねながら寝間着をはだけさせていく。
唇をおろしていき、白い首筋に痕を残し、手は脇腹や腰を撫でる。
このまま身を任せようとサガは思っていたが、ふとあることを思い出し慌ててアイオロスの体を押し戻した。
「サガ・・・」
これからというときに中断されてアイオロスも恨みがましい目をする。
しかしサガにはどうしても聞いておきたいことがあった。
「夢に見たんだ。誰かが私を暖かい気で包んでくれた。懐かしい・・・しかしとても身近な・・・」
「ああ、カノンだ。カノンが来たんだよ」
「カノンが?まさか。あいつは今海界だ」
「それがお前の変化を察してここまでやってきた。お前にコスモを流すとすぐに帰ってしまったがな」
「カノンが・・・」
なかなか信じられないでいたが、あの暖かさは遠い昔に二人を包んでいたものだと、
サガは嬉しそうな顔をした。
「コスモが全く使えないせいか・・・ひどく、人らしい思いをしたよ」
「人らしい?」
「ああ。・・・得た力にばかり頼ってはいけないな・・・人は病気であれ異常に苦しむんだ」
「・・・しかし、その得た力は、俺たちがそれこそ死ぬ思いで得た力だぞ。存分に活用し、役立てればいい」
「そうだな」
サガは微笑むと、アイオロスの胸に凭れ掛った。
その珍しい行為に、アイオロスは思わずどきりとした。
アイオロスの背に手を伸ばすサガに、アイオロスはそっと口づけを落とし、優しく抱き締めた。

恋人たちのひそやかな夜に、黄金色の蝋燭の灯りが、いつまでも灯っていた。