他にも、閃光に眩んで階段から滑り落ちた所為で乗れなかった電車が、ホームから発車した直後に脱線事故を起こしたり、その時のケガが元でひとり取材に出られなかった時、隣接するアパートで爆弾を抱えた男による立てこもり事件が発生。たまたま帰ってきた先輩記者たちが人質になるという事件にも巻き込まれずに済んでいた。

 

 「おまえ、ほんとラッキーだよ」

 

 先輩記者は度重なる『偶然』に、そんな言葉を口にした。確かに俺は数々の事件に直面しながらも、命に関わる危険は回避し、スクープだけをものにしていた。だが、それはたまたま運が良かったのだろう。すべては偶然が重なったに過ぎない。

 

 『偶然』

 

 それらは、本当に単なる偶然だったのか―――。ただひとつだけわかっていることは、その時、必ず俺は親父の形見であるカメラを持っていたということだけ―――。

 

 「きっと先輩のお父さんが、守ってくれたんですよ」

 

 のんきな後輩がそう言って笑った。俺はそれに、どんな顔で応えていいのかわからなかった。まさかそんな非現実的なことが起こるとは信じられない。
 ―――ただ、心のどこかでは、そんな不可解な現実が、実際に存在しうると考えていたのかもしれないが。






 ジシャッ、ジシャッ。

 

 カメラを構える俺に向かって、局長が口を開いた。
「やっぱりおまえ、オヤジさんに似てきたよ」

 

 ジシャッ、ジシャッ。

 

 できあがった写真を見るベテラン記者は、決まってこう言った。
「なんだかオヤジさんのに似てきたなぁ」

 

 ―――それは、俺の写真が評価され始めた証。俺の実績が上がってきたしるしだ。
 悔しいけれど、やはり親父は最高のカメラマンだった。そしてそれは、俺の目標であり、越えるべき壁でもある。それを越えて、初めて俺は一流のカメラマンと認められるのだろう。写真を撮れば撮るほど、俺は親父に近付いていくのだから―――。

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