慌てて見下ろしたグレーのズボンには、赤黒い染みがじんわりと広がっている。

 ポタッ・・・

 再びその液体は、昌行の太腿に染みをつくった。鼻先をつく鉄錆臭―――。

「・・・っ・・・ッ・・・!・・・!?」
 視線はおどおどとさ迷い出し、息が乱れ始める。その荒い呼吸と、ドクンドクンと高鳴る鼓動だけが、昌行の耳を支配していく。

 

 見慣れた光景。
 いつも走っている大通り。

 だがその景色を、昌行は《ほんの少し前》に見たばかりなのである。

 

 

 見慣れた光景―――そう、いつもタクシーで走っている繁華街。すでに裏道も頭に叩き込んである、慣れ親しんだ場所だ。
 いつも走ってる大通り―――この道は繁華街の真ん中を通っている道で、中心部に向かって緩やかな下り坂になっており、わずかなカーブを描いている。比較的大きな道だが、坂の終わりには事故が多発している《交差点》がある。

 

 交差点―――。

 

 遠退いていく救急車のサイレン。
 停車していた数台の消防車やパトカー。

 

 今日もそこで事故があった。
 昌行はそれをバックミラー越しに見つめていた。だからこそ、その景色は《ほんの少し前》に見たばかりの光景なのだと―――

 

 「違う・・・」

 昌行は呆然と目を見開いたまま、正面を見据えた。

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