|  慌てて見下ろしたグレーのズボンには、赤黒い染みがじんわりと広がっている。 ポタッ・・・ 再びその液体は、昌行の太腿に染みをつくった。鼻先をつく鉄錆臭―――。 「・・・っ・・・ッ・・・!・・・!?」 
  見慣れた光景。 だがその景色を、昌行は《ほんの少し前》に見たばかりなのである。 
 
  見慣れた光景―――そう、いつもタクシーで走っている繁華街。すでに裏道も頭に叩き込んである、慣れ親しんだ場所だ。 
 交差点―――。 
  遠退いていく救急車のサイレン。 
  今日もそこで事故があった。 
 「違う・・・」 昌行は呆然と目を見開いたまま、正面を見据えた。  |