先ほど事故が起きたであろう場所は、比較的見通しの良い大きな交差点である。しかしその交差点は、緩やかな下り坂とわずかにカーブがかかった道の終点にあたり、事故の多発地帯となっていた。昼間ですら事故件数は多いのだから、夜となった今、その場所で事故が起きても何ら不思議はない。

 だが。

 昌行はわずかに首を捻る。

 (事故車なんて止まってたかなあ・・・)

 確かにその交差点を通り過ぎてきたはずなのに、昌行には事故現場の記憶というものがなかった。いくら道が混んでいて車が連なっていたからといって、事故に遭った車なり人なりを見逃すはずはあるまい。もしかしたら、交差点を右か左に入った先で起きた事故なのかもしれない。そうであれば、事故車が見当たらないのも頷ける。

 ふとそんなことを考えながら、昌行は再びバックミラーを覗き込む。だが、すでにその交差点の姿は見えない所まで来ていた。
 首を傾げながら視線を前方に戻した直後。
 視界の隅に人の姿が飛び込んできた。歩道橋の袂(たもと)で、おずおずと遠慮がちに手を上げている。

 (お客様だ)

 ウインカーを出しながら、昌行は素早くタクシーを道の端に寄せ、手を挙げている人物の前に滑り込ませた。

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