|  リンゴの入った紙袋と小さな薔薇のブーケを抱えながら、僕は彼女が講習を受けている場所へと向かう。 彼女は、駅から歩いて12分、車通りの多い大通りに面したビルの6階―――そこで開かれている、超人気のお菓子作り教室に参加している。彼女が受講するのは夕方のコースで、すべての講義が終了する頃には、もうとっくに日が暮れているのだ。大通りに面しているビルとはいえ、そこから一歩裏に入った駅に向かう小道は、外灯も少なく女性ひとりで歩くには危険も多いだろう。  僕は、もうとっくにシャッターを下ろした郵便局の前を通り過ぎる。ちょうどここまでで、駅前ロータリーから連なっていた商店街は終わりを告げた。 その時。  ふと、黒い影のようなものが僕の視界に映り込んだ。  ああ、ライダースーツを着た人か。 僕はすぐに視線を元に戻して歩き続けた。さあ、あと少しで彼女の元に到着だ!  |