ようやく夕日が沈む。彼女に会うまでの時間が、なんと長く感じられたことか!

 「いらっしゃい、いらっしゃい!」

 商店街は、夕方の活気で溢れていた。僕はそこを足早に通り抜ける―――と、僕の目に鮮やかな『』が飛び込んできた。
 八百屋の店先に並ぶリンゴ。太陽をいっぱい浴びて育ったんだろう、美味しそうに色付いている。

 「お兄さん、どうよ!リンゴ、うまそうだろっ?安くしとくよ」

 威勢の良い店主の声に押され、気付いた時には、僕はそれを紙袋いっぱいに入れて抱え込んでいた。

 「まいどありー!」

 ・・・その店では買うのは初めてだったけどね。

 良く熟しているだろうリンゴが、鼻先で甘く芳醇な香りを放っていた。僕はそれを胸いっぱい吸い込む。そうだ、彼女にこれでアップルパイでも作ってもらおう。きっとメチャクチャ美味しいアップルパイになるぞ。僕はそれをお腹いっぱい食らいたい。そんな僕を、彼女は優しい笑顔で見つめてくれたりして―――。

 リンゴを抱えた僕の頬は、いつの間にか弛んでいたらしい。擦れ違ったオバちゃんが怪訝そうな顔で見つめてくる。僕は慌ててリンゴの包みを抱え直すと、今度は花屋へと足を運んだ。

 赤い花・・・赤い花・・・。ずいぶんいろいろな種類があるんだなぁ。僕が迷ってるのを見越した店員が、いそいそと近寄ってくる。色白の彼女に合う花が欲しいんだけど―――。

 「それでしたら、こちらが」

 女性店員が指し示したのは、可愛い小さめなサイズの薔薇だった。淡いピンク色。確かにこれならイイかもしれない。小柄な彼女にはちょうど良いサイズに思える。だけど僕は、店員が推してきたピンクではなく、隣にあった赤い方を指差した。それでも店員は顔色ひとつ変えることなく、特上のスマイルを浮かべたまま、手際良く包装を済ませてくれた。

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