彼女が好きと言ってから、不思議と僕の目には「赤い色のもの」が飛び込んでくるようになった。彼女の部屋は、もともとは白が基調の家具でまとめられていた。そこに、徐々に赤い色のものが増えていったのだ。目覚し時計ビーズクッション歯ブラシコップガラスの置物・・・。
 その所為か、ふと目に付いた『』に、いつも僕は彼女自身を思い出す。

 あれは寒い冬―――そう、久しぶりのホワイトクリスマスとなった去年の12月23日。せっかくのクリスマスだというのに、彼女は朝から晩まで、ケーキ作りに追われていた。彼女が働いていたのは、テレビや雑誌なんかにも取り上げられたことのある有名なケーキ屋で、もちろんその日は一番の書き入れ時だった。まだまだ見習いの彼女は、前日からずっと準備作業に追われ、それこそ休みなしの勢いで働いていたようだ。ようやく仕事が終わったのは、もう終電間近の日付が変わった頃だった。
 夕方から降り出していた雪にうっすらと覆われた街で、彼女の真っ赤なコート姿は、本当に良く映えて綺麗だった。寒さで染まったも、彼女の可憐さに拍車をかけていて、僕は胸のときめきを押えることができなかった。

 「うわぁ・・・!」

 誰もいなくなった駅前で、舞い落ちる粉雪にコートの裾を翻し子供のようにはしゃぐ姿。
 ―――真っ白な世界の中で、ただ一色に彩られた彼女は、本当に綺麗だったんだ。

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