ココロいちごととまと ―――――― 神無弥生
「お前はいちごみたいだな」
「…………はい?」

僕の方を見ずに、手の中で紙パックのジュースを転がす彼に思わず気の抜けた返事を返してしまう。
何を思って、そして、何を意図して突然そんなことを言い出したのか。
紙パックの側面には「あまおう」、と書かれている。苺の品種だ。だからなのだろうか。

「いちごみたいだな、って言ってるんだよ」
「あの……それはどういう……」

そう発言すれば彼は不満そうに眉間に皺を寄せる。いきなりの発言で分かれと言う方が無茶だろう。

「わからないのか?」
「ええ、申し訳ないですが、まったく」

心当たりはない。なぜ僕がいちごなんて可愛らしい物になるのだろう。
少なくとも彼が一番、僕が可愛くない事を知っているだろうに。

「いちご……というかこのあまおうに限ってか?……赤くて、丸いだろ?」
「ええ、まあ」
「赤くて、丸くて、甘そうなくせに、意外とすっぱい」

ほら、お前じゃないか。
そう言って彼が笑って、手の中の紙パックはゴミ箱の中へと消えて行った。







「でも、トマトでもあるよな」
「……ええと、あの」

この流れからすると先ほどの話の続きだろうか。
彼の手には現在買い物かごが握られていて、そして今は帰り道の途中、スーパーに寄った所だ。
野菜コーナーでトマトを目にした彼は面白そうに目を細めていた。

「今度は分かるだろ?」
「……赤くて丸い、というところまでは」

というか、普段の僕はあれではないのだが。
あれは閉鎖空間にいる時だけであって、二回ほど見せたきりなのにどうしてそこまで彼の脳内にインプットされているのだろう。

「さっきも言ったのに、そのくらいいい加減わかれよな」

なんというか、無茶苦茶だ。
彼はもっと常識人だと思っていたのだが、流石涼宮さんの選ぶ人、なんて呆れてしまう。
まあ、そんな彼の事が好きなのだから、おそらく僕も同類なのだろうが。

「そう言われましても……」
「口答えすんな」

はい。と反射的に返事をしてしまう。が、彼は満足そうなのでよしとしよう。
よし、今日はサラダでもするか、と彼がトマトをカゴに放り込む。トマトは苦手なのですが、とでも言おう物ならまた怒られるのでとりあえず黙っておく。

「赤くて丸くてすっぱいくせに甘い」

ほら、やっぱりトマトだ、と彼が笑う。
だったら彼は何の野菜だろうなと考えて、僕も笑った。



あかくてまるくてあまくてすっぱい、(すっぱくてあまい)