あなただけ

あなただけなの




ふたつのぬくもり




耳を澄ます。何も聞こえない。身体全体でこの空間を感じる。
となりにいるのは、あなた。

二人に言葉は必要ない。今だってあなたは横で雑誌をめくっているし、あたしはそんなあなたの肩にぴたりと寄り添っている。

ずっとずっと、こうしていられたらな。

ふう。肺の奥底から深く息をつく。あなたはまたページをめくった。あたしの息が、あなたの右腕にかかる。それはまるで優しく包むよう。あたしはうっすらと開いた目で、あなたのよく焼けた右腕を眺めている。
きれい。と心の中で呟いた。しなやかに伸びた腕。浮き出た血管すら愛しく思うのだ。こんなあたしを、あなたはきっと知らないけど。

込み上げた想いに便乗して、あなたの腕を抱きしめてみた。きゅん、と胸が痛む。
あなたは少し動きを止めて、おそらくあたしを横目で見て、も一度視線を雑誌に戻した。そんな仕草がたまらなくて、あたしはもっと抱きしめる腕に力をこめる。


「…なに」

ぼそっとあなたは呟いた。

「きれいなんだもん」

答えになっていない答えをあたしは縋りつくような瞳で返し、「すき」と言う。

「すきなんだもん」

何回でも言えるんだよ。あなただけだよ。

「……」

あたしを見ていたあなたの瞳が、また雑誌にそそがれて、あたしの胸の奥はまたきゅん、となった。


いつまでもいつまでも、こうしていられたらな。

こんな、夢みたいな話。

いつ、目が覚めるのかな。




fin.



040918