わたしは歌うのをやめなかった
制止し続けるパパを見向きもせずに
隠れながらも、大きな声で。
わたしはわたしを見つけてくれるのを待っていた
それがもし、もしもパパだったなら
もう一度愛することができるかもしれないと思っていたから
S u n d a y n i g h t
家族みんなで同じ部屋に眠っていたころの日曜の夜は、いつも楽しかった。
パパのにおいを肺いっぱいに吸い込んで、青いストライプの模様の布団にもぐりこんだ。
パパとママ?
そんなの選べるわけないわ。
ふたりを愛していた。とめどなく溢れるものがまさか憎しみだなんて気付くわけなくて、わたしは愛されていると思っていた。たとえばわたしを呼ぶ声はいつだってやわらかく優しいものだったし、痛みを拭う指先だってひかり輝いていたから。
それが当たり前だった。当たり前だった、あの頃。
パパとママは煙草を吸った。
パパは煙を輪っかにできた。ママはできなかったけれど。
忙しいけどゆっくりと流れる朝に、わたしはいつも強請ってた。ねえパパ、あれやって!
ねえパパ、もう一度、もう一度…
だけれどパパはいつだって一度きりしか見せてはくれなかった。
わかっていながらもわたしは強請った。意味があるのは、輪っかを見ることではなくて、見せてもらうことだったから。
わたしは、愛されているとおもっていた。
いつだって、いつだって、ほかの家の子のように、惜しみない愛を浴びて。
でもいつしか家族みんなで眠ることはなくなった。
別々に電気の消える土曜の夜。別々に目が覚める日曜の朝。煙草のけむり。ママの叫び。パパの嘲笑。涙を拭おうとしたのはわたしの小さなうさぎのハンカチ。振り払われた手。そしていつか、慣れてしまうまで。
今更知ることはない真実と、二度と会うことのないパパと。
ねえ、わたしを愛していた? それとも、憎んでいたの?
パパとママとを繋ぐわたしを、ねえ、愛していた?
わたしはあなたを愛していたの。パパ、あなたを。
だけれどいつか幼い瞳で気付いてしまった。
そして、そして、憎んでしまった。
あなたのいない明日を、望んでしまった。
ねえ、パパ、きっと。
わたしを憎んでいたんでしょう。
そしてわたしの憎しみに、気付いて傷ついたのかもしれない。
だけどわたしは忘れない。
パパの胸にもぐりこんだ、あの日曜の夜を。
fin
040614
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