『 もう2度と離さないように 』


そう言ってきつく結んだリボンは

いつの間に ほどけてしまったの?

どこへ行ったの? わたしのちょうちょ

あなたは知ってる? ふたりのちょうちょ

知らないでしょうね

あなたは

蝶々結びができなかったから



いだ手



冷たい朝を迎えたのは、何度目だろう。雀が泣いてる。わたしも泣いてるわ。
それなのにあなたは、どこにいるの。

トーストにマーガリンを塗った、いつも通りの朝でも、じんわりと侵食してゆくマーガリンはどうしてか悲しそう。
いただきますは言わないの。答えてくれるあなたは、もういない。

あなたがどこかで笑っていればいいと、いつも想ってる。

知らない場所で、知らないひとと、それでも悲しみに耐えながら、笑っていてくれればいい。
わたしは生きてる。生きてるわ。
空を見上げれば鳥が飛んでいる。わかってる、わたしに羽根はないけど。
空は進む。明日はやって来る。そのときにあなたが笑っていればいい。
大丈夫、空は進むわ。明日は来るわ。わたしは生きてるわ。たとえ息を止めても、なにも変わらないから。


あの赤いリボンはどこに行ったのだろう。世にも珍しい赤いちょうちょが生まれたね。
安心して。わたしは結べるわ。あなたは誰かに結んでもらってね。そしていつかひとつになって、あなたに笑って欲しいから。

蝶々結びで二人の手首を彷徨う赤いリボン。二人の手首の間を舞う赤いちょうちょ。あなたは憶えている?
明日になって、雨が降っても、その赤い羽根を羽ばたかせていられるといいね。あのころのふたりのように。


空は相変わらずそこにあって、紋白蝶がふわふわと舞っていた。

いままで深い青はわたしに何を見せただろう。
あのとき赤い蝶はわたしに何を見たのだろう。

この世界は愛で溢れて、駆け抜けた、ほら、この商店街はあの頃よりも少し寂れてしまったけれど。
眩しいほどの銀杏並木も、見て、蒼く艶めく葉を揺らしてる。
あそこにいる二人は、愛し合っているのね。手を繋いで、キスをして、永遠を誓うのね。あのころのふたりのように。
あなたに見せてあげたいな。この世界は愛で溢れてる。



迷子になることもなかったし、ずっと一緒にいれると想ってたわ。
それでもちょうちょはいつか、飛び立ってしまう日が来るものね。
蝶々結びをちゃんとあなたに、教えてあげておけばよかったのに。
そうすればもしかしたら今頃、隣にいられたかもしれないのにね。



もうすぐ夜が来る。赤い空でカラスが泣いているけど、わたしはもう泣かないわ。
だからあなたも、泣かないで。

繋いだ手を、蝶々結びを、切り離しても。

明日あなたは、笑っていて。



end.



040503