傷ついて傷つけて今更だけれど

ねぇわたしは あなたのほんとうの笑顔が見たいのに



はかない願いと理由



「ねぇ」

私が上目遣いでちらとシンを見遣ると、彼は少し困ったように微笑んだ。また、この顔。
彼はいつも困ったように微笑む。下がり眉は元々なのだけれど、でも。

「すきよ」

突然言われて驚いたのか、彼は顔を赤くした。だけど私はお構い無しに彼にキスをせがむ。

「どうしたの、マナ」
「どうもしないわ」
「だけど」

彼が言いかけたところで、私から唇を塞いだ。
得る為にした行為じゃなかった。キスしたくなったからキスした。だけどきっと彼は疑う。それを絶対に見せようとはしないけれど。
優しくしてるつもりでしょう、きっと。だけど気付いてないの?その優しさが、余計私を惨めにして、かなしくさせること。

唇を離して、息のかかる距離で見つめ合った。

「ねぇ」

笑って?ちゃんと微笑んで。

「すき」

笑って、ちゃんと。私に見せて。

「どうしたの」

彼はまた困ったように微笑んだ。歯の奥で何かを転がしているような、やり切れない苦しさを秘めた微笑み。
嫌。そんな顔、しないで。

「シンも、言って?」

彼は至近距離で目を逸らした。ほらまたそう笑うのね。どうして?

「すきだよ」
「足りない」
「・・・すき」
「ちゃんと言ってもっと」
「きみが、すきだよ」

苦しそうな笑みに、もう何も言えなくなってしまった。
ああこれからも彼の笑顔は見れないのだと確信する。


ねぇ、わらって


言えない。言えやしないわ。きっと彼はまた傷付くだけ。
こんなにもかなしいのは久しぶりだ。
こんなことで、こんなにもかなしくなるなんて。
そんなの、そんなの。

「マナ?」

私の曇った表情を見てシンは私を抱き寄せた。


ねぇ、どうしたら笑ってくれる?
ねぇ、どうすれば笑ってくれる?
ねぇ、わたしにも笑ってくれる?


「・・・シン・・・」

いつの間に涙が溢れていた。
彼は気付いて慌てた。

「どうしたの?マナ?」
「・・・・・・て・・・」
「え?」
「わら・・・って・・・」
「え・・・」

私は俯いてぽろぽろと雫を落とした。
スカートに染みてゆく。

「泣かないで」

そう言った彼はなおも苦しそうに微笑む。ねぇ、笑ってくれないの?

「わらって・・・」

私がやっとの想いで言葉にすると、彼まで俯いた。また傷付けてしまったのだろうか。
傷付けることにも慣れた筈なのに、こんなにも胸の奥が痛いなんて。

「マナ」

呼ばれて顔を上げると、そこには。




慟哭の先に見えたもの、それは曖昧で不確かなわたしとあなた



end.