醒めない闇の音
深い闇を空のてっぺんから月が照らす頃、シンはマナの元へ帰った。
「どうしたの」
マナは目を擦りながら上着を脱ぐシンに訊いた。
「思ったより、計画が進んだんだ」
だから今日帰ってこれたとシンはマナに告げる。
「ふーん」
「寝てていいよ」
そう言うとマナは無言で再びベッドに潜り込んだ。
その背中を見つめて、シンは胸の奥の蟠りに気付かぬようにシャワーに向かった。
++
シャワーを終え、シャツを羽織って部屋に戻ろうとドアノブに手をかけてシンは動きを止めた。
歌が、聴こえた。
もう寝たはずのマナが、静かに口ずさんでいたのだ。
ちかちかと点滅する蛍光灯の下、透き通った声に酷く焦燥を覚えてシンはドアに背をつけて蹲る。
もえるようなゆめに どうかいのちを
くちはてたせかいに どうかやすらぎを
きえゆくわたしに どうかいのりを
ふざけた歌詞だ、と思った。こんな世界でこんなことを謳っても、誰の耳にも届かないだろう。
だけれどマナは、ずっと同じフレーズを歌い続けた。一体誰に?
シンに?それとも神に?
マナには誰もいない。家族も、友達も、みんな、戦争で失った。
シンにはなにもできなかった。軍人として、マナを守り、傍にいることしか。
マナがそれを望んだのだ。引き換えにマナはいつもシンを待っていた。
ひとりきりで。孤独な部屋で。
この先、僕は彼女を守り続けることが出来るのだろうか―
いつも不安が脳裏を掠めて、ざわつく。
もえるようなゆめに どうかいのちを
くちはてたせかいに どうかやすらぎを
きえゆくわたしに どうかいのりを
蛍光灯はとうとう切れて、そこはただの暗闇になった。
マナの歌声だけが響く中、シンは静かに泣いた。
end.
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