泣け!

ある休日の昼下がり。アイオロスは双児宮を訪れていた。
「サガ、人というのは溜めて溜めて溜めて一気に泣くといいらしいぞ」
「そうか」
「サガは優しいから人の行いに対して涙を流すことは多いが普段自分のことで泣くことはないだろう」
「泣く必要もなければ、そんな暇もないからな」
「泣くことでストレスが発散されてすっきりするらしい」
「・・・アイオロス?一体何を言いたいんだ・・・」
「俺の胸で思い切り声をあげて、泣け
「・・・・・」
「う〜ん・・なんかやらしい言い方になったな。まあとにかく思い切り泣いてみたらどうだ?」
「そうは言っても人はそう簡単に泣けるものではないだろう。ましてものの分別のない赤子ではないのだから」
「と、言うと思って俺はこんなものを用意してみた」
「?」
16小節のラブレター
「こっ・・・この音楽は・・・!」

「サガ、俺は幼い頃から、同い年であったお前には散々迷惑をかけた。
アイオリアが崖から落ちて大層怪我をした時にも、俺は大丈夫だと思ってそのまま鬼ごっこをさせて
お前が止めなければもしやあいつは黄金聖闘士になる前に死んでいたかもしれない」

「懐かしいな・・・」

「・・・・お前を蝕んでいた黒い影に、俺は気づくことはできなかった。
年長者として2人で聖域を見守っていくべき立場になる俺たちだったが、俺は何もかもサガに頼りきりで、
サガがひとりで何もかも抱えていたことに俺は気付けなかった。
あの時こうしていればなどと、今さら言えた口ではないが、今でも後悔の念は拭いされない」

「・・・・」

「お前に友情以外の感情を向けていると気付いたのは、・・・・女神をお連れして聖域を脱するときだった。
そのとき俺は、今までにない悔しさを覚えた。何もかも遅かったのだと思った。
きっと、もっと前からお前のことを好いていたんだ。それなのに、お前が孤独であったこと、
俺がもうずっとお前を好いていたことに気付いたのは、死を間近に覚悟したときだった。
サガ、お前がずっと俺を見ていてくれたのにも・・・
再び出会えた時、俺は嬉しくて仕方がなかった。だが、お前は深い深い罪を背負っていた。
俺にはその罪を失くすことはできない。だが、共に歩いてゆくことならばできる。
サガ、俺はお前を愛している。俺の心はお前に捧げよう。
お前が拒んでも、俺はお前を追いかけよう。
これから先はずっと一緒だ。もしお前が俺の今までの、お前に対しての数多くの罪を許してくれるのならば、
いつまでもお前の隣に在り、共に生きることを許してくれ。

・・・・アイオロス」


「ははっやっぱり恥ずかしいな、こういうのは」
「・・・・」
「サガ?」
「・・・・・・」
「い、いや決してふざけてるわけじゃないんだぞ?これは俺の本心で・・・・・サガ?」
「バカだな・・・お前は・・・」


罪を購うべきは私なのに、
許しを乞うのは私なのに、
なぜこの男はそんなことが言えるのだろうか。
そんな資格は私にはないのに。

それでも、嬉しいと思ってしまう私は、やはり罪深いのだろう。


何も気にすることなどない。
ゆっくり、罪を償う方法を見つければいい。
全てをなかったことにすることはできないが、その苦しみを少しでもいい、俺に預けてくれ。

少しずつでも、不器用でも、共にいたい、共に生きたい。
溜め込んだ涙を俺が空へ還そう。
サガの心が穏やかな青をうつしだす、その日まで、ずっと。