永遠

永遠なんていうものは、私には一番縁遠い言葉だ。
永遠に続くものなど、何もない。
地球も、太陽も、月も、何度も何度も人が輪廻を廻るうちに、
塵と消え、霧散し、消滅するのだ。

ましてや人の感情などが、永遠であるものか。

『たとえ、生まれたときから死ぬときまで、誰かを愛していたとしても、
人が死ねば、その人が持っていた愛情も消えてしまう。
永遠に続くものなど、この世にはありはしないよ』

かつて私が口にした言葉。
彼はそれを否定した。

『たとえ死んでしまったとしても、愛された人の中には、
その人の愛情が残っている。その人が死んでしまったからといって、
その人の愛情までもが失われるわけではないんだよ』

『では、その愛された人が死んだら、愛した人の愛情は、
どこに行くんだ?』

『その二人の愛情を、知っている人に残る』

彼はそう微笑んだ。
私は信じなかった。
永遠に続く想いなど、何より有りえないものだ。
人の感情ほど、脆く、移ろいやすいものはない。


彼は私を愛してくれた。
私も彼を愛していた。

やがて彼は私に殺され、
私の中には彼の愛の残骸が転がっている。


何より永遠であるものを否定する私は、
誰より永遠であるものを求めていた。


そう気付いた時には、もう何もかも遅かったのだけれど。



俺が愛した人は、何より永遠であるものを望んでいるのに、
誰より永遠であるものを否定していた。

『たとえ、生まれたときから死ぬときまで、誰かを愛していたとしても、
人が死ねば、その人が持っていた愛情も消えてしまう。
永遠に続くものなど、この世にはありはしないよ』

かつて彼が口にした言葉。
俺はそれを否定した。

『たとえ死んでしまったとしても、愛された人の中には、
その人の愛情が残っている。その人が死んでしまったからといって、
その人の愛情までもが失われるわけではないんだよ』

『では、その愛された人が死んだら、愛した人の愛情は、
どこに行くんだ?』

俺は驚いた。
頑ななまでに永遠を否定する。
その頑なさは、逆に永遠を求めて、焦がれて仕方がないように見えた。

『その二人の愛情を、知っている人に残る』

彼は少し悔しそうな顔をしたが、
それきりそれについては何も言わなかった。


永遠なものを信じようとしていた俺は、
誰より永遠など信じてはいなかった。


それでも何か、永遠なものを彼に与えたいと思った。
たとえ俺が死んでも、彼が死んでも、残るものを与えたい。


そして俺は死んだ。
彼の中に俺が愛した記憶だけを残して。
きっと彼は忘れない。
苦しさを伴っても、きっと忘れない。
それは永遠に彼の中に転がり続けるだろう。

無理矢理つくった永遠の形はひどくいびつで、君の心を傷つけてしまうけど。

痛みを伴い、苦しみを伴い、傷をつくり、血を流し、
それでも俺が愛した想いは、彼の中に留まり続けるだろう。


彼は、気付いてくれるだろうか。
彼の中に息づく愛情に、彼は気付いてくれるだろうか。