むかしむかし、それはそれは美しいひとがいました。
そのひとの名前はサガといいました。
サガは弟のカノンとふたりで、双児宮にすんでいました。
サガには好きなひとがいました。
しかし、サガはそのひとを遠くへ追い出してしまいました。
そして、カノンも牢屋にとじこめてしまったのです。
何年も何年も、サガはひとりぼっちで暗い双児宮にいました。
そして何年も何年もたったあと、サガのすきなひとはかえってきました。
「アイオロス」
サガはかれの姿を見られるだけで幸せな気分になりました。
カノンはそれをゆるしませんでした。
カノンはサガを双児宮からけっしてだしませんでした。
ふたりはずっと双児宮で暮らしました。
それをゆるさなかったのはアイオロスです。
かれは、じぶんを追いやった「罰」といって、
サガをかれの住む人馬宮へむりやり連れ出してしまいました。
カノンはおこりました。
おこって、サガにのろいをかけました。
「お前は呪われている!ここから出たら、お前はすぐに死んでしまうぞ!」
アイオロスはサガをだいじにはしませんでした。
むりやりつれだしてしまったのを気に病んで、
そんなじぶんを愛してもらうのがもうしわけなくて、
わざと冷たくあたりました。
「お前は、黙って俺のところに居さえすればいい」
サガは、だまってアイオロスのそばにいました。
ずっとずっと、だまってアイオロスのそばにいました。
そして、カノンのいったとおり、だんだんとよわりはじめてきました。
「サガ、サガ」
アイオロスはとてもとてもしんぱいしました。
それでも、あまりやさしくすることはしませんでした。
おまえなんか嫌いだ、といって、
サガが自らアイオロスのそばを離れていくのをまっていました。
もしもサガが、双児宮にかえりたい、といったら、
アイオロスはおとなしくかえすつもりでいました。
でもじぶんからいいだして、サガを双児宮にかえすのはいやだったのです。
しかしサガは、だまってアイオロスのそばにいました。
だまって、ひにひにサガはよわりきってしまって、
うごくこともできなくなっていきました。
アイオロスは、サガをカノンのところにかえそうか、どうしようか、
弟のアイオリアにきいてみました。
「サガはにいさんを追い出したんだ。
にいさんがそばにいてほしいとおもうなら、ずっとそばにおいておけばいい」
アイオリアにいわれて、
アイオロスはサガをかえすのがおしくなってしまいました。
とてもとてもうつくしいサガを、かえしたくなくなってしまったのです。
何回かひるとよるをくりかえして、
サガはついにめざめなくなりました。
「サガ・・・?」
いきをしなくなったサガを、アイオロスはなみだをながしてだきしめました。
「すまない・・・すまない・・・」
アイオロスはあやまりつづけました。
こんなことになるのなら、ずっと双児宮にいさせてあげればよかったと、
もっとやさしくしてあげればよかったと、
なみだをながしました。
カノンもサガの死になみだを流しました。
「ああ・・・お前は、なんて馬鹿なやつなんだ。
お前が一度でもここに戻ってきたら、呪いなんて解いてやったのに」
アイオロスはサガをだきしめつづけました。
何日も何日も、つめたいサガをだきしめつづけました。
そうして7日たったころ、きんいろに輝くひかりがアイオロスにふってきました。
アイオロスがまばゆいひかりにめをほそめると、
そこにはまっしろなふくをきて、やさしくほほえむサガがいました。
「サガ・・・!サガ、すまない・・・許してくれ・・・俺はお前を愛している。
ずっと、ずっと、愛している。お前の罪など、俺は罪だとは思っていないのだから」
アイオロスはなみだをながしました。
サガはだまってほほえんでいました。
「アイオロス。すまない、アイオロス。やさしいお前に、嘘をつかせてしまった。
憎いと、恨んでいると、嘘をつかせてしまった。
けれどもそれは、とてもやさしい嘘だった。私のことをおもってくれていた、証拠だ。
ありがとうアイオロス。そして、すまない。そんな嘘をつかせてしまった私を、許してくれ」
サガはそういうと、ひかりの中にきえてしまいました。
アイオロスの腕の中のサガも、いなくなってしまいました。
アイオロスは七日間涙をながしつづけました。
そのなみだは、アイオロスの中のサガがあふれでたものでした。
そのなみだをためて、カノンが双児宮に湖をつくりました。
すっかりなみだをながしきると、
アイオロスはサガのことをすっかり忘れてしまっていました。
カノンだけはしっていました。
それが、サガがアイオロスがこれいじょう自分をせめないようにかけたおまじないだということを。
それでも、アイオロスのなかにほんのすこしのこったなみだは、
アイオロスをたまにかなしいきもちにさせました。
アイオロスは双児宮のあおいあおい湖をみると、
いつも、なぜだかわからないけれど、
かなしいきもちになってはらはらとなみだを流すのでした。