うまれたときからふたりはいっしょ。
なにをするにもふたりはいっしょ。
ずっと二人だと、盲目的に信じていた、愚かすぎた自分。
全く同じ顔をした二人は、甦ってからもこの不毛な関係を続けていた。
カノンは生前と変わらず———それどころか以前にもまして女神に唾棄し、
英雄であるアイオロスを罵倒し続けた。
その度にサガは暗い顔でカノンに言うのだった。
私たちが今ここにいられるのは女神のおかげなのだと、
アイオロスが私たちに赦しを与えてくれるおかげで、ここにこうしていられるのだと。
カノンはその度に怒り狂い、ますます女神やアイオロスを侮辱し続けた。
それはサガにとってとても聞くにたえないものだったが、
それでもサガはカノンを宥め続けた。
そして決まって最後にはサガは黙りこんでしまい、カノンはそんな兄を見て苛つき、
周りにあるものをひたすら蹴り飛ばしたり、投げたりする。
カノンがひとしきり暴れまわったあとで、ひとり静かに片付けをはじめる兄を、カノンは殴りつけた。
「どうした!俺を殴ることもできないのか!いつから兄さんはそんな腰抜けになったんだ!
俺を殴ってみろ!またあの岩牢にでもどこにでも閉じ込めるがいい!」
サガはそれでも黙ったままだ。
カノンはサガの長く美しい髪を乱暴に掴み、顔を無理矢理に向かせた。
「弟を嗜めることもできなくなったか・・・なァ、兄さん、あんたはそうやって黙ったままで、
一体何をやっているんだ。女神に再び吹き込まれた命で、あんたは何がしたいんだ?
そうやって黙って、アイオロス銜えこんどきゃあ老後は安心か?
ははっ!そうだろうなァ、なんたってあいつはお前に狂っちまった次期教皇だ!
あいつに抱かれてるうちはお前も安泰だろうな!」
カノンはそう言ってサガを床にたたきつけた。
サガは俯いたまま、顔をあげない。
「お前はそうやって、いつまでもあいつの籠の中だ」
「・・・・・」
「弟の俺がいくら呼んだところで見向きもしない」
「・・・・・」
「なあ兄さん、昔は、こんなことはなかったのにな」
「・・・・・」
「俺が馬鹿なことをして、サガが俺を殴って怒鳴りつけた。
サガがあのクソジジイのところに謝りに行って、それで終わりだ。それで終わったんだ」
「・・・・・」
「散々俺を怒鳴りちらしていたクセに、久しぶりに会ったと思ったらだんまりか。
一体、どこにいったんだ。あの頃のお前は。強く、美しかった双子のサガはどこにいった?」
「・・・・・」
「————あいつのせいだ。あいつの・・・あいつのせいだ。
あいつがサガの心を奪った。
あいつがサガの目を奪った。
あいつがサガの耳を奪った。
あいつがサガの体を奪った。
あいつのせいだ。あいつがいるから俺はいつまでたってもサガと一緒になれないんだ・・・!」
そう言っている間にも、カノンはサガの肩を蹴りつけ、顔を殴り、髪を手に巻きつけるようにして引っ張った。
そしてまたいつものように———カノンはサガの首筋に歯をたてる。
それは情事の際の甘噛みなんていうものではなく、飢えた獣が獲物をみつけひたすらに牙をむくようなものだった。
サガが苦痛に声をもらすと、カノンは満足そうに笑った。
頬に、耳に、首に、肩にきつく噛み痕を残し、カノンはその血をなめ続けた。
サガはひたすら黙って受け入れていた。
カノンは一度傷をつけた箇所に、何度も何度も歯をたてる。
傷を抉るような行為に、サガは唇をかみ締めぐっと堪える。
やがてサガの反応に飽きると、サガの腹を殴ったり、美しい顔を蹴り飛ばしたりする。
それでもサガが何も言わないと、カノンはサガの尻を貫きにかかるのだ。
自分とサガを繋ぐ間に血が滴っているのを見ると、カノンはサガを貫くその腰の動きはそのままに、
優しく、壊れ物を扱うような丁寧さでサガの髪を、背を、撫でるのだった。
わざと傷をつけるようなまねをするカノンを、サガはそれでも黙って受け入れていた。
それは、たとえどんなに酷く傷をつけられようと、弟から離れられないのだということに、
カノンはまるで気付いていないのだった。