| ●『土佐へ』
高知へ引っ越す。なんのアテもない。友人知人親類縁者の類も一切いない。
 ただ予感と衝動に突き動かされて、ゆく。
 
 ひとまずの仮住まい先を決めた。
 引越業者を決めた。
 
 荷物などたいしてあるわけでもないので。
 引越日まで掃除三昧。
 徹底的に磨きをかける。
 一点のヨゴレを黙々とこする。
 くもりが晴れてゆくごとに記憶の薄皮がめくられてゆくように
 これまで出会ったモノ・コト・ヒトが浮かび上がってくる。
 もっとはっきり思い出すために魔法のランプをこすりつづける。
 
 これまで生活圏としていた地域とは全く異なる文化圏。
 何が待っているのか。何ができるのか。
 
 友人知人たちとも会っておきたいような気もするけれど。
 話したいことはたくさんある気もするけれど。
 いまはもう気持ちがココにはないのだ。
 そろそろゆくよ。
 
 遊びに来てくれたまえ。
 うまい酒と肴を用意して向こうで待ってる。
 
 
 
 
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