ザッパとS子の関係って……


1、はじめに

ザッパは、不幸な青年である。
彼自身には何の罪もないのに、勝手にS子という幽霊に取り付かれ、さらに他の幽霊にまでも取り付かれ、肉体と精神を(一時的にではあるが)奪い取られ、体と心を苛まれる日々。
さらに、彼自身には「幽霊に取り付かれている」という自覚はなく、この事態に対しての対策がまったく取れないでいる。
これだけ不幸な人間も珍しい。自分にはまったく非はないのに、一方的に被害を被っているのだから。

しかし、彼と同等、いや、もしかしたらかれ以上に不幸な物がいる。
何を隠そう。ザッパに取り付いているS子自身である。

今回は、ザッパとS子の、知られざる関係に迫ってみたいと思う。


2、体質?運命?それとも……

ザッパには、S子を除いても、大量の霊が憑いている。
剣の霊、三つ子の霊、犬の霊、ムカデの霊、ラオウ(名前なのか種族なのか職業名なのかは不明)の霊、そのほか、名前は知られていないが他多数の霊も取り憑いているものと考えられる。

この中で、唯一S子が取り付いている理由は明かされている。
なんでも「殺したいほど憎い男がいて、その男にザッパが似ていたらから、彼を殺そうとしている」らしい。
これは納得である。殺したいほどの熱く黒い感情。その怨念が、彼女が亡き者になっても、彼女の魂を現世にとどめるエネルギーになっているのだろう。
しかし、その他大勢の霊が取り憑いている理由は明らかではない。
なぜ彼ら(もしくは彼女ら、それら)が霊になったのかも定かではないが、ザッパに憑く理由も不明である。
もしかしたらザッパは幽霊に取り付かれやすい体質なのかもしれないし、霊のいる所ばかりになぜか行ってしまって、そこかしこで霊を乗っけてきたのかもしれない。
公式な設定は明らかはなっていないが、筆者は、この理由を「たくさんの霊は、S子が呼び寄せた」と考えている。

次からは、その理由を明かして行こうと思う。


3、彼女の矛盾

ちょっとザッパの戦闘について考えてみよう。

戦闘中は、戦っているのは彼の肉体だが、精神というか操縦者というか、コントロールしているのは別の者(=S子)である。
よって、彼の戦闘は、彼の意思というよりS子の意思によって運営されていると考えていいだろう。
あるいはたくさんの霊が好き勝手ザッパの体を操っているのかもしれないが、それにしては彼の動きは統率が取れているので、ここでは「S子の指揮(命令?)のもと、複数の霊が彼の体を使用して戦っている」=「S子が戦っている」と考えさせてもらう。


さて。
ここでちょっとおかしいことに気づく。
何で彼らは、わざわざザッパの体を媒介にして戦わねばならないのか。
そして、
何で彼らは戦わねばならないのか。
この二つの疑問、考えたことのある人もいるのではないか?

まぁ、後者は実はストーリーモードで明らかにされているのだが。
ザッパ(S子)は戦闘前、「オ前ガ憎イィィィィィ!」だとか、「ウラメシィィィィ!!」だとか言っている。
つまり彼女(彼女ら)の戦う理由は、それだけなのである。恨めしい。憎い。殺したい。
分かりやすくて非常によろしい(殺されるのは勘弁してほしいが)が、それだと一つ目の疑問がさらに強くなる。
恨めしいのなら、憎いのなら、殺したいのなら、そいつに取り憑いちまえばいいのだ。 もしくは呪い殺すとか。
霊の事はよく知らないんで迂闊な事は言えないのだが、ザッパの肉体を変貌させるくらいの力を持っているのなら、そのくらいわけないんじゃないだろうか?
実際、三つ子の幽霊は相手に取り付くことにより、相手を不幸にすることが出来る。

それなのに、ザッパの肉体を介して、彼女らは戦っているのである。

なんと言っても他人の体、生者の体である。
思い通りに動いてくれないこともあるだろう。無理すれば壊れるかもしれない。
そんな無茶をしてまで、彼女は彼の肉体を使って、戦闘をしている。何故か?

この答えを探すヒントが、戦闘とストーリーモードに隠されている。
前述したとおり、S子はザッパを殺したいらしい。しかし、S子は時に不可解な行動をとる。
ザッパのガードを思い浮かべて欲しい。
あれは誰であろう、S子がガードしているのである。
ガードしなければ、ザッパは死に、目的は果たされるのに。

さらに。ストーリーモードでのザッパの目的は、「ファウストに出会い、病気(本当は悪霊が取り付いている)を治してもらう」である。
そしてストーリーモードを進めていくと、結果的には、ザッパはファウストに出会うのだ。
言ってしまえば、S子はファウストに会うことを肯定したのである。
S子は、いくらでもザッパの体を操ることが出来るのだから、ファウストに会わないようにすることも可能であろう。
もしかしたら、ファウストは除霊も出来るかもしれないのだ。
普通の医者なら出来るはずもないが、あのファウストである。出来ないとも言い切れない。
それなのに、ザッパはファウストに会った。会えたのだ。
もしかしたら、低い可能性ではあるが、自分は彼の体から取り除かれ、目的(=ザッパを殺す)を果たせなくなってしまうかもしれないのに。


このようなS子の不可解な行動。
しかし、彼女の心理状況を分析していくと、これらの行動はある理念の上で、しっかり成り立っているのである。
そして、それは前項で記した「霊はS子が呼び寄せている」と、見事に合致するのである。
次で、それらについてまとめてみよう。


4、想いは、正しく伝わらない。

ザッパの体を媒介にして戦うS子。
ザッパの体を守るS子。
ザッパとファウストを会わせたS子。

不可解である。なぜ彼女は、そんなことをするのだろうか。


実を言うと、その答えはすでに出ているのである。
彼女の肉体が滅び、霊という存在になってもなお、彼女が現世にとどまる理由。

殺したい。
憎い。
恨めしい。
必ず、殺してやる。

そう、彼女は、「彼(=ザッパ)を殺すこと」を望んでいるのである。

しかし、それなら話は簡単だ。彼女はザッパの体を操れる。それなら、いくらでも方法はあろう。
高いところから落ちたり、爆発に巻き込まれたり。考え出したらきりはない。
しかし、彼女はそれをしない。していないのだ。だからザッパは生きている。
S子がその気になれば、ザッパはとっくに死んでいるのだから。

S子が、そうしてザッパを殺さない理由。

ここで、冒頭の文章を引用してみよう。
>さらに、彼自身には「幽霊に取り付かれている」という自覚はなく、この事態に対しての対策がまったく取れないでいる。
つまり、ザッパは、S子が取り付いていることを知らないのだ。当の本人なのに。


これが、「S子がザッパを簡単に殺さない答え」である。

殺したい。憎い。燃えるような黒い感情。
それはある意味、恋に似ている。

仮に貴方に、好きで好きで、どうしようもないくらい愛している人がいるとしよう。
しかしその人は、自分を知らない。
いつもそばにいるのに、気づいてくれない。
歯痒いであろう。悔しいであろう。
しかし、相手は気づいてくれない。こんなにも自分は愛しているのに。


仮に貴方に、憎くて憎くて、どうしようもないくらい殺したい人がいるとしよう。
しかしその人は、自分を知らない。
いつもそばにいるのに、気づいてくれない。
歯痒いであろう。悔しいであろう。
しかし、相手は気づいてくれない。こんなにも自分は憎んでいるのに。


そう、これが答えなのだ。

もし、S子がザッパを高いところから落として、殺したとしよう。
地面にたたきつけられる前に、意識を彼に返す。
しかし、意識が戻った彼にはその状況をどうすることも出来ない。落ちるしかない。先にあるのは、死だ。

そして、彼は死ぬ。

その死の理由を、調べる者もいるかもしれない。
しかし、霊の仕業だ。分かるはずもない。
そして、彼の死因は、結局こうなる。

「転落死」。

事故かも知れない。酔っていたのかもしれない。
しかし彼は転落し、命を落とした。

ただ、それだけ。
その事件に、「S子」という存在は、入り込むことが出来ない。
ザッパは主観的にも、客観的にも、「原因不明の転落死」で死んでいるのだから。


彼女の望むべき道は、それではないのである。

彼女は、死してなお、現世に留まり続ける。
その理由はただ一つ「ザッパをこの手で殺す」。

しかし、事故死であろうと、転落死であろうと、アルコール中毒であろうと、自殺であろうと、死因がなんであろうと、彼かその周りの人間が、「S子」という存在に気づかない限り、彼女は「ザッパの死」という事件の外側にいるのだ。
それは、彼女が現世に留まる理由、「自分がザッパを殺す」ということを、自ら否定することになるのだ。

無論、彼を上の例で殺したとしても、手を下したのは彼女である。
だが、それを知っているのは彼女だけ。殺された当の本人でさえも、それに気づいていないのである。


殺したいほど憎い男がいる。
その男の体をどんなに苛んでも、その男の精神をどんなに痛めても、彼は自分に気づかない。
ただ、「これは病気だ、原因は自分にある」と思い込んでいる。

これほど悔しいことがあるだろうか?


ストーリーモードで、エディは、憎まれることによって、怨まれることによって、この世と、もう長く生きられない自分とを繋ぐ「絆」を創ろうとした。
実はS子も、同じことを考えているのではないだろうか?

「ザッパを殺す」という行為によって、自分の怨念を、恨みを、憎しみを、悲しみを、ザッパという存在に刻み付けたかったのではないのか?
自分が確かに殺したのに、ザッパ本人にはその自覚がないのだ。
殺したい男がいて、その目的を成就したのに、その男は自分が殺したことを知らない。
それどころか、自分の存在も知らないのだ。
自分が殺した彼の死体は、あさっての方向を向いて倒れている。これほどの屈辱は、他にはない。
彼女には、ザッパが死んだ時の「彼の恐怖」が、どうしても必要だったのだ。

だからこそ、彼女はザッパとファウストを会わせたのではないのか。
高名で優秀な天才外科医である。さまざまな症例を見てきた医者である。
S子は期待していたのだ。ファウストが「霊の仕業」だと診断してくれるのを。
彼が自分の存在に気づき、助からない、どうしようもないと恐怖する瞬間。
それこそが彼女が待ち望んだ瞬間なのだ。
その時が訪れてはじめて、彼女は目的を達成できる。
霊になっても自分を動かし続ける衝動。殺したい、恨めしい、悲しい、悔しい。
それをザッパの心に深く刻むことが出来るのだ。
これこそが、S子の悲願だったのである。

だから、彼女は戦闘の時には、彼の体をガードする。
この男は私のものだ。誰にも渡さない。私が殺すんだ。他の人間に殺されてなるものか。
そんな彼女の意思が、彼の体を守る力として具現化し、彼の体を守っているのだろう。


そしてこれは、「ザッパに取り付いている霊は、S子が呼び寄せた」ということにもつながる。
彼女にとっては、他の人間にザッパが殺されるわけにはかないかない。
しかし、彼女一人では、やはり彼を守るのには限界があったのだろう。
だから、剣やら犬やら、戦闘に向いてそうな霊を連れてきて、ザッパの体を守っているのではないのだろうか。

さらに考えてみると、彼女がわざわざザッパの体を媒介にして戦うのにも納得がいく。
いくらなんでも人間の体、霊が変化させたりしたら、遅かれ早かれザッパの体は壊れてしまうだろう。
S子は、これも狙っているのではないか?
いくらなんでも、気を失って、気がつくと骨折やら打撲やらをしている、という状況が続けば、ザッパも病気ではなく他の原因を考えるのではないか。
そうなることを願って、彼女はわざわざ彼の体を使って戦っているのではないのか。
もしそうならなかったとしても、ザッパは医者に行くだろう。現に彼はファウストの元に行った。
あとは前述したとおりである。その医者が、「これは霊の仕業だ」と診断してくれればいい。
と言うか、何も医者でなくてもいいのだ。
ザッパはその症状(病気ではないのだが)が続く限り、原因を探し続けるだろう。
だから、たとえば占い師とか、そういったものでもいいから、とにかく彼女は「その怪我は霊の仕業だ」といってくれる人間を探しているのだ。
しかし彼女は霊である。彼女が探すことは出来ないし、仮に出来たとしてもザッパに教えるのは難しく、また探している間にザッパがどうなってしまうかも分からない。
だから彼女は、ザッパが自分から原因を探すように仕向けるために、彼の体を媒介に戦い、わざと怪我をしているのではないのだろうか。


5、彼女の事情

S子は、ザッパが憎かった。世界の男達が憎かった。
だから彼女は死んでもなおこの世に留まり、自分の想いを遂げようとした。
しかし彼女は霊となってしまっている。
他人は自分を見ることが出来ない。声を聞くこともでかいない。
彼女は強い想いを抱いているのに、憎き周りの男達、そして自分が取り付いている最も憎い男さえも、自分の存在に気づいていない。
彼女は、そんな歯がゆい環境の中でも、必死に自分の憎さ、つらさ、悲しさを表そうと努力している。
そんな彼女の心境を考えてみると、やはり彼女が不憫でならない。
しかし彼女が思いを遂げると言うことはザッパが死ぬと言うことだし。
さて、今後はどうなっていくのか。





※おまけコラム「闇慈とS子」※

ストーリーモードでは、闇慈がザッパとあったとき、闇慈は「お、アンタ重そうなもの肩に乗っけてるね」と言った。
つまり、闇慈はS子、もしくはS子と特定できていなくても霊っぽいものが見えているのだ。
「重そうなもの」と言っているあたり、S子というか「女性の霊」と認識は出来ていないようであるが。
S子がもしザッパに自分の存在を気づかせたいのなら、もしかしたら闇慈を糸口にする可能性も出てくるかもしれない。
まぁ、S子が憎んでいる対象である「男」を頼りにするのも癪と思うだろう。
そんな部分も含めて、S子は報われない人生(死んでるけど)を送るハメになっているのかもしれない。



最後に。
なんか全体的にまとまりのない文章でスンマセン('A`)
急いで書いてるもんで。ちょこちょこ修正していこうかと思ってます。


2005/12/24:加筆修正。少し読みやすくなったかな?


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