しかしそれも長い時間ではなく、ほどなくして男の言った××町の駅前に到着した。そこは地下鉄の駅で、辺りは飲み屋が密集している少し明るい所だった。昌行はホッとしてドアの開閉ボタンに手をかけた。その時。

 ガッ!

 男の青白い手がにゅうっと伸ばされ、運転席のシートを掴んだ。

「・・・すみません」

 男はそう言ってわずかに身を乗り出す。一瞬にして昌行の顔に緊張が走った。

 (無賃乗車?それともタクシー強盗?!)

 だが、男は再び深く座り直すと、小さな声で続けた。
「××公民館まで、お願いできますか」

 タクシーは再び目的地に向かって走り出した。駅前から××公民館へ行くには、先ほど男を乗せた場所に戻るような形で道を走ることとなり、昌行は怪訝そうにミラー越しに男を見つめた。しかし男は顔を上げることもなく、青白い顔で俯いたままである。静まり返った車内に、男の手にしていた書類が、がさがさと耳障りな音を立てているだけだった。


 

 ほどなくして、タクシーは車通りの多い道から、公民館へと向かう細い路地に入っていった。ここから先は狭く入り組んだ道が続く。住宅が密集する中をタクシーは静かに走り抜けていった。

 「あ・・・」

 突如上がった男の声に、昌行は小さく身を竦めた。ハンドルを握る手に力が入るのがわかる。

 「すみません・・・止めてください」

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