僕、長野博の朝は、彼女とお揃いの目覚し時計のアラームで始まる。勢い良くベッドから抜け出た僕は、そのまま洗面所に向かった。目覚めは悪くない方だ。
 プラスチックのコップに刺さった歯ブラシを抜き、軽快にブラッシング開始。砂時計で時間をチェック。の落ちる様を目で追いながら、手早く歯磨きを切り上げ、続けて顔を洗う。鏡に映る僕は―――いけない、今日はずいぶん寝癖がヒドイや。ヘアセットにも時間がかかるぞ。とりあえず広がった髪を押えつつ、朝食の仕度に取りかかる。

 ひとり暮しもずいぶんと慣れてきた。食事だって掃除だって、もちろん洗濯だって僕ひとりでできる。でも―――さすがにここ数年は、それが寂しいことだと思うようになった。それまでは、たいして気にもとめてなかったのに・・・。

 彼女。

 ―――彼女に出会ってから、僕の心は変わった。

 初めての出会いは、大学時代の同級生にムリヤリ連れて行かれた飲み会だった。たいしてオシャレでもない居酒屋で、飲めない酒をムリヤリ飲まされへたれこんでいた僕に、彼女は冷たいおしぼりを差し出してくれたのだ。今でもあの時の彼女の優しさを忘れることはない。彼女はまさに、僕の前に舞い降りた「天使」だった。

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