Sweet or Bittersweet

今日は2月14日、バレンタインデー。世界がチョコレートの香りで満たされる日である。

そしてそれは、ピンク色をした高速艇、エターナル内も例外ではなく。其処彼処に甘〜い匂いが漂っていた。










    
               〈 Sweet or Bittersweet 〉











「よし、できた!」

亜麻色の髪の少年が綺麗にラッピングされた包みを持ちながら嬉しそうに言う。彼が今居るのは甘い香りの出所である食堂だ。
他に3人の少女、ラクス、メイリン、ルナマリアの姿もある。

「上手くできましたわね、キラ」
「うんV チョコ作りなんて初めてだったから不安だったけど、ラクスたちが手伝ってくれたおかげでなんとかできたよ!本当にありがとう」

キラと呼ばれた少年は3人の少女にピョコンと頭を下げる。少しはにかみながら…

((( か、可愛いvvv )))

そんなキラの姿に3人がノックアウトされたのは言うまでもない。


「・・っ さ、さぁキラさん早くチョコを渡しに行かないと日が暮れてしまうかも、ですよ?」

軽くトリップする3人のうち、一番立ち直りの早かったメイリンがキラを促す。

「そうだね!わかった。すぐ探しに行ってみるよ。今日は色々とありがとね〜〜」
 
そう言ってキラは小走りで食堂を出て行った。






















キラが出て行って暫くすると、3人は素早く目立たない服装に着替えた。

「さぁ、行きますわよ!メイリンさん、ルナマリアさん、用意は出来ましたか?」
「はい、ラクス様!」
「準備OKです!あぁ、この日をどれだけ待ちわびたことか…」

メイリンとルナマリアがカメラやビデオを見せる。

「よろしい。では、しっかりと見届けますわよ!題して『キラのチョコは誰の手に!?男たちの熱くて醜いキラ争奪戦』の始まりですわvv」
「「おおー!!」」

何やら恐ろしい台詞を叫びながら、3人は何処かへと行ってしまった。


















* * * * * * * * * *












一方その頃、チョコを片手に艦内を彷徨うキラ。もちろんチョコを渡す相手を探しているのだが、その相手とは…

「アスラン何処に居るんだろう?」

言わずもがな、アスランである。しかしいつもは呼ばなくても勝手にキラに引っ付いてくるアスランだが、珍しい事に今日は何処を探しても姿は見えない。

「おかしいなぁ〜、朝起きた時は隣に寝てたからエターナル内には居るはずなのに…。やっぱり昨日アスランと待ち合わせの約束すればよかったなぁ」

アスランは他の艦に移るときは必ずキラに一言言ってから行くので、此処に居ることは間違いない。間違いないのだが普段からキラがアスランを探すというのは滅多に無く、いつもアスランのほうがキラを探してやって来るので、アスランが一人のときは何処に居るのか皆目見当もつかないキラなのである。
そこで仕方なく、思いつくアスランが行きそうな所を探しているのだが、いない。

(あと探してない所って何処かなぁ、ブリッジ?ジャスティスの中?・・・あぁ〜もう!一体何処に居るんだよ、アスラン!)

そんな事を思いながら歩くキラの周りにはいつの間にか大勢の男性クルーが集まってきていた。当然皆キラの手の中にあるチョコと思しき包みが目当てである。(さながら砂糖に群がる蟻といったところか。)
が、当のキラは考え事に集中しているためか全く気付いていない。

そんなこんなで男たちをゾロゾロと引きつれながら歩いていると・・・


「キーラーさん!vv」


前からシンが走ってきた。キラはそれに気付き、俯きぎみだった顔を上げる。

「あ、シンくん。こんな所でどうしたの?僕に何か用事?」

少し首を傾げながら尋ねるキラ。

「////(か、可愛いv)いやこれといった用事はないんですが(そんなことないけど)…あ、それよりもキラさんこそどうしたんですか?って言うか周りの状況に気付いてます?キラさん?」
「え?周りって…?」

シンに言われてキラは周りを見渡し、漸く自分が沢山の男に囲まれているのに気付いた。

「え!?み、皆どうしたの?」
「い、いやぁ〜、たまたま俺たちもこっちに用があったんだよ。な、なぁ皆ι」
 
キラに問いかけられてその中の一人が必死に言いつくろい、他の皆も焦った様にこくこくと頷く。
しかし、そんな様子を黙って見ていたシンが、

「なら、早く行けば?俺はキラさんと2人っきりで話があるんだから!(あんたらさっさとどこかへ行け)」

と物凄い形相で睨みながら言ったので(勿論キラは見えていない)、男たちは慌てて何処かへ行ってしまった。
後には満足げなシンと呆気にとられたキラが残る。

「ところでキラさんvその手に持っているものは何ですか?」

唐突にキラのほうに向き直り尋ねるシン。絶対に分かっているのに態々尋ねるシンは確信犯だ。

「え?あ、あぁ、これは…チョコレートだよ////だって今日バレンタインでしょ/////」

ちょっと頬を赤く染めながらキラは答える。作っているときは何とも思わなかったが、男がチョコを誰かに渡すのは変かもと今更ながら考えるキラであった。

「ってことは、そのチョコ誰かにあげるんですよね?誰にあげるんですか?(もしかして俺?)」

キラの考えていることなど分からないシンは容赦なく質問を重ねてくる。それにキラは顔を真っ赤にして俯いてしまう。

「あっ、そっ、それは…////」
「それは?」
「あのっ、だから…///」
「っもう、もったいぶらずに教えてくださいよ!(この反応はやっぱり俺!?)」

焦れたシンは先を促す。結構忍耐力の無い男だ。キラも言ってアスランの居場所を聞けばいいと考え口を開く。

「あっ、あのね、アス「あれー其処に居るのってキラじゃん!」

キラの台詞を遮って突然聞こえた第三者の声にキラとシンは驚き、声のした方へ視線を向ける。するとそこには、


「ディアッカ!イザーク!?」


とっくに自分たちの戦艦に帰ったと思っていたディアッカとイザークの姿が。

「な、なんであなた達が此処にいるんですか!!(せっかくキラさんと二人っきりだったのに!!)」

せっかくいい調子だったのにいきなり横槍を入れられたシンは怒り心頭。凄い形相で2人を睨む。が、そんなシンの剣幕は2人には全く通用しなかった。

「ふんっ、俺たちが何処にいようと貴様には関係の無いことだ!(キラと2人っきりになろうたってそうはさせるか!!)俺は今キラに用があるんだからな!」
「なに〜〜!!」

イザークとシンの間で激しい火花が散る。両者一歩も譲らない姿勢だ。
あわやこのまま殴り合いにまで発展するかと思ったそのとき、剣呑な雰囲気に全然気付いていないキラが口を挟む。

「ねえ、イザーク。僕に何の用事?」

この一言により、剣呑な雰囲気があっという間に霧散してしまった。イザークとシンは睨み合いを止め、キラにしか見せない笑顔でキラのほうを向く。

「ああ、今日はバレンタインだろ。だ、だから、キラは…その、だ、誰にわた、渡す・・」
「はぁ〜、イザークが言いたいのはだな、キラは一体誰にチョコを渡すってことだ。」

なかなか聞けないイザークにディアッカが助け舟をだす。シンも気になっていた事なので大人しくしている。

「えっ////さっきもシンにい同じこと聞かれたんだけど…なんで皆そんなに気になるの?」
「それは〜なあ?」
「えっ!?(俺に振るなよ)、あ〜だから〜やっぱりぃ〜」
「ええぇい!!俺が言う!キラ、俺たちはお前のチョコが欲しいんだ!」

中々言い出せない2人を見てキレたイザークが一気に言った。

「えぇっ!?////そうなの!?ディアッカもシンくんも?」

キラは驚いて、ディアッカとシンを交互に見る。

「ああ//だから気になるんだ。なあキラ、一体誰に渡すんだ?俺か?」
「おいおい、イザーク。やっぱここは俺だろ?」
「違いますよ。俺ですよね、キラさん?」

3人に詰め寄られ、キラはとうとう壁際へ追い詰められてしまった。

(どっ、どうしようι本当はアスランに渡すんだって言い出しにくいしなぁ。どうにかして逃げなきゃ…何か役に立ちそうな物ないかなぁ・・・あっ、そうだ!ラクスから困ったときにはって渡してくれた物があったんだ。確かポケットに…)

キラがポケットを探ると示し合わせたように一口サイズのチョコレートが3つ入っていた。

「(よし!)はい、イザークこれ。これはディアッカに。こっちはシンくんの分ね。じゃあ僕忙しいから行くね!じゃあね〜」

呆気に取れられている3人を後目にキラは去っていった。


残された3人は暫く渡されたチョコを眺めていたが、

「チョコは貰ったけど何だか納得がいかないのはどうしてだろう?」
「同感だ」
「俺も」

時間が経つにつれ、沸々と疑問が湧き上がってきた。

「そもそも、俺たちはキラが手に持っていたチョコを狙っていたのではなかったか?」
「確かに」
「じゃあ、あのチョコは誰に上げるんだ?」
「そりゃ、俺たち以外の誰かでしょう」

当たり前のことを言っていることも半分放心状態になっている3人には最早判断ができない。

「誰かって、誰だ?」
「そこまではわかりませんよ。・・・あ、じゃあ俺たちのチョコって…」
「…本命じゃないってことだよな」
「本命じゃないってことは・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」


「当然義理じゃないのか?」


3人が頭ではわかっていても恐ろしくて口に出来なかったことを、いつの間にかいたレイが言葉を紡いだ。

「「「や、やっぱり」」」

あまりのショックに3人は暫くの間立ち直れ無かったそうだ。







* * * * * * * * * *









3人が静かに涙していたその頃、キラは展望室に来ていた。しかし展望室はシーンと静まり返っていて、人の気配はしないようだ。

「やっぱり此処にも居ないのかなぁ・・・・ん?あれは?」

展望室の奥へと歩みを進めたキラは、窓の方に人が立っているのを見つけ、近づいてみる。

「あ、アスラン!」
「ん?キラ?」

そこにはずっと探していたアスランの姿が。キラに気付いたアスランは窓のほうへ向けていた体をキラの方へ向ける。

「ずっと此処に居たの?」
「ああ」
「どうして?」

いつもとは違うアスランの様子に戸惑いながらも尋ねる。

「……独りになりたかったからかな」
「え?」
「キラ、今日が何の日か知ってる?」
「えっと、バレンタインでしょ?」

どこか影を背負った様なアスランに不安を覚えながら答える。

「ああ、そして俺の母上の命日でもある」
「あ!?」

アスランに言われてキラははたと気付いた。数年前の今日、後に〈血のバレンタイン〉と呼ばれる悲劇が起きたのだ。悲劇の場所となったプラントはにいた何百万もの命が一瞬にして奪われたのである。そしてそこにいたアスランの母レノアの命も。

その事を思い出したキラは、そんな重大なことも忘れ暢気に朝からチョコを作っていた自分が恥ずかしくなった。

「キラ?」

急に俯いて黙ってしまったキラを不審に思ったアスランは少し屈んでキラの顔を覗き込み、驚いた。

「ど、どうしたんだ!?キラ?!」

キラは泣いていた。アメジストの瞳を潤ませて。
いきなり泣き出したキラにアスランはあわてて問いかける。

「どこか痛いのか、キラ?」

キラはあとからあとから止め処なく溢れてくる涙を懸命に拭いながら、首を左右に振った。

「じ、じゃあ、どうして…?」
「ぼ、僕っ、今日が…っ…ア、アスの…レノアさんのっ…めっ、命日ってこと…わすっ、忘れてて…それでっ…アスランにはっ……つらっ…辛い日なのにっ……僕…っ…はしゃいでてっ…だからっ…っつ!?」


フワッ


突然腕を引っ張られたと思ったら、次の瞬間にはキラはアスランの胸の中にいた。キラの背中へ腕をまわし、アスランはギュッとキラを抱きしめる。

「ありがとう、キラ」
「え?」

耳元でアスランが囁く。しかしキラは何故アスランがいきなりありがとうと言い出したのか分からず、少し体を捻ってアスランと視線を合わせる。

「だってキラは俺のために泣いてくれたんだろう?」
「そ、それは///…っ!」

そうだけど…と続けようとした台詞はアスランからのキスによって言葉にすることができなかった。
2人はそのままディープキスを交わし、キラがもう限界と訴えるまで続けられた。

漸く離れて言った唇に少し安堵しながら、アスランに凭れ掛かったキラはここにきて手に持っていた物に気付いた。でも、アスランの話の手前、今これを渡すのはどうだろうと思う。

そんなキラの逡巡に気付いたアスランは優しく話しかける。

「キラ、手に持ってるものって、もしかして俺へのチョコレート?」
「え!?…う、うん。そうだよ…でもアスランはそれどころじゃなかったんだよね。ごめんね」

またシュンと落込んでしまったキラに内心焦りながら、そんなことはない、と伝える。
え、っと顔を上げたキラにもう一度軽いキスを贈ってから、

「確かに今日は母上の命日であり、他の一緒に死んだ人たちの命日ではあるけれど…」

その言葉にキラの顔が翳る。

「だからといって何時までもウジウジしてたら、それこそ母上が天国から俺を叱りに来そうだよ。だからね、キラがそんなに気に病む必要なんかないんだよ?」

そう続けられたアスランの台詞にキラはこくんと頷く。

「じゃあ、アスランにこのチョコ渡してもいい?」
「喜んでうけとるよvv」

それを聞くとキラは笑みを取り戻し、最高の笑顔をアスランに向けながら、

「はい、アスランvチョコレート受け取って?」
「もちろんvVVありがとう、キラ」

アスランにチョコを渡した。

「ここで開けてもいい?」
「うんv」

アスランはラッピングを綺麗に解いていく。最後のラッピングを綺麗に解き終わると、ふたを開けた。中には丁度いい大きさのトリュフが4つ。その中の一つを取り出し、口へと運んだ。

「おいしい?アスラン甘いものって苦手だからビターにしたんだよ?」

アスランの様子をドキドキしながら見る。

「うんvVとってもおいしいよvv甘さも丁度いいし」
「よかったぁ」

安堵のため息を吐くキラ。

「そろそろ、部屋へ戻ろうか、キラ?」
「うん!」

そうして、二人仲良く並んで展望室を後にする。

途中アスランがキラを引き寄せ、耳元に何かを囁いた。するとキラは顔を真っ赤にしてアスランの背中ををポコスカと殴り、アスランを置いて独りで走っていってしまった。これにはアスランも焦り慌ててキラの後を追いかけていった。





その後、この恋人たちがどんな甘〜い日を過ごしたかは・・・恋人たちのみぞ知る?













[Fin?]








































「見ましたか!メイリンさん、ルナマリアさん!」
「はい!しっかりとこの目に焼きつけました!」
「ビデオも写真もバッチリです!」

アスランとキラが去ったことにより人気の無くなったと思われていた展望室の隅にはなんとラクス、メイリン、ルナマリアの姿が。

「ふふふふ、これでまたキラコレクションが増えましたわね」
「アスキラツーショットもねVV」
「やっぱり最後はアスキラよね〜、いいもんみたわ〜」
「では、早速部屋へ戻って今日の収穫物を堪能しましょうvv」
「「は〜い!」」

3人はあっという間に展望室を出て行ってしまった。

これで漸く展望室に本当の静けさが戻ったのであった。




          [終わり]















あとがきという名の謝罪

ここまで読んでくれてありがとうございます。そしてすみません。駄文で;
甘々でギャグを目指してたつもりなのに、最後のほうで何故か微シリアスになってしまいました;
本当はアスランは変態にするはずだったのに、あんなのになってるし;他のキャラもイメージ壊してたらすみません;

written by 咲菜 2007