箱詰

「お前、馬鹿だろ。」
錦馬超はすれ違いざま、麒麟児に声をかけた。
馬超に随っていた馬岱は肝を冷やしたが、そんなことを気にかける従兄上ではない。一礼してやり過ごせたかと岱が思ったとき、振り返った姜維が声を上げる。
「ご不満ですか、」
高く上ずってしまった声は幼さを感じさせた。馬超は鼻で笑った。
「気づけよ。お前がここにいる理由。」
チラリと姜維を見てから馬超は去った。岱はもう一度礼をしてその後を追う。
回廊にコツリと姜維の靴音がした。


右隣を歩く馬超殿は無表情だ。
「あの、もう大丈夫ですので。」
城内の造りなどどこも似たようなものだし、もう子供でもないのだから迷ったりするわけもない。そのことを解らない馬超殿ではないだろう。
何よりこの気まずい空気から逃げ出したい。
「おまえやっぱり馬鹿だな。軍師なんてやめちまえば。」
馬超殿から返ってきたのは小馬鹿にした笑みと罵声。
そんなに私が気に入らないなら案内役などかってでなければ良かったのだ。丞相や趙雲殿はともかく、馬岱殿は私と馬超殿が不仲なのを知っているはずなのに止めもしないなんて。
「ここ、お前が自由に使えって言ってたけど、」
私にあてがわれた室にたどり着き、これで開放されると思うとため息が漏れた。馬超殿に続いて中に入ると
「ぐっ」
「げ、」
聞きなれた断末魔と少しあせった馬超殿の声がした。
「あー、殺しちゃった。」
どう見ても敵国の者とは思えない死体が転がっていた。どういう状況かわからず、死体と馬超殿とを交互に見る。
馬超殿の唇に返り血がついていて、それを舌が舐めとるのを見た。
「不味ー。くちなおしな。」
なぜだか馬超殿に接吻されて、ますます混乱する。血の味だ。
「あのさあ、おまえ無防備スギなんだけど。」
言われて正気に返った。あわてて場超殿を突き飛ばして距離をとる。
「そうそう。しばらくは武器ぐらい持ち歩けば。」
そうだ、ついこの間までここは私にとって敵国だった。誰もが降将を歓迎するわけがない。
ならば目の前の馬超殿はいったい。


そこはツンデレのデレの部分ですよ。

written by 習字[夜行バス7時間] 2007