チョコより甘い物



「壬晴チョコレートあげるよ」


帷は唐突に話し始めた
右手にはこの部屋の甘ったるい香の元凶が可愛い皿に乗っけられていた
左手に温かい紅茶入りのマグカップを持って


「何で?」

壬晴は帷が目の前に出したフォンダンショコラを珍しそうにつつく
甘い物は嫌いではなくむしろ好きな方だ
自然と表情も柔かくなる


「何でって…今日はバレンタインだろ?」


後ろからそっと帷は壬晴を抱きしめた
愛しくて大切な人と確かめる様に


「そっか…」

自分を抱きしめる腕を拒むことなく触れる
好きと言われれば好きなんであろう人を愛しく思う


「壬晴は俺の愛しい人だからビターじゃなくてスウィートチョコ使ったよ」


「それ関係あるわけ?先生ケーキ食べたいよ…もぅ」


なんだかんだ言いつつも恋人同士
そうして二人でじゃれ合いながらソファーに傾れ込む
体重に任せて沈み込むソファーはとても心地良い


「だって俺もバレンタインする権利はあるだろ?」

「でも俺チョコなんて用意してないよ」


壬晴の体温を感じながら項に額を押し付ける
帷は腕の力を強めて囁く


帷の言葉は壬晴の体温を少し上げつつ
壬晴は子悪魔の笑顔を浮かべ帷に言葉を返す


「先生…俺がチョコになろうか?」


帷は壬晴からの意外な言葉に驚いたが
それは一瞬の事で…先ほどより3割増の優しい笑顔で
壬晴を自分のほうへ向かせる

自分らしからぬ言葉を言ってしまった事に後悔した壬晴は
急に自分の体が浮いた事も気付かなかった
いきなり帳の優しい笑顔に不覚にも心拍数を上げられた


「そうだな」


にっこりと笑い壬晴の瞼に口付けしながら帷は答えた


「壬晴にチョコレートになってもらおうか?」


口付けたれた瞼は壬晴の頬紅く染めたが壬晴は嫌ではなかった


帷は素直に想いを壬晴の耳元で囁く
甘く
甘く
それはまるでチョコレートの様に

壬晴は帷の想いに溶かされていった
甘い
甘い
チョコレートの様にトロトロに


「壬晴…?」


「…先生…今のは少し恥ずかしい」


互いの想いが溶け合い混ざり合い一つになれば

それはチョコレート以上に甘く…

そんな2/14の出来事





fin
written by 青桐候也[Tic-Tac] 2007