in the early afternoon
皇国の守護者/微パラレル

邸をでて角を一つ曲がった途端、声をかけられる。反射的に睨みながら振り返った先には笹嶋が居た。
「その、一緒に行かないかい?」
君も一人なんだろう、と見透かした笹嶋は答えを聞く前に歩き始めた。
「奥方やお子さんはどうしたんですか」
「子供は嫁と行ったよ。もしかして君、副官達を誘ったりしてないよね、」
驚いた顔で振り返った笹嶋に、話を理解できない新城は機嫌の悪い視線を贈る。
「義姉には断られました。」
ははは、と笹嶋は祭囃子にも負けないほどの大笑いで返す。
「君、愛されてるね。」
一つ目の鳥居をくぐった。
新城の顔が更に凶悪になったのにあわてて笹嶋は弁明した。
「ここのお社にはね、女神が祭られているんだ。これがまた嫉妬深くてね。そういうことで、縁切りの神様って言われたりしてるらしいよ。」
呆気にとられた新城へ笹嶋は小声で続ける。
「だから君を誘うのもためらったんだけど。男同士だし、ね、」
今朝からの事態を理解したからか目の前の照れた笑顔のせいか、心が軽くなった新城は自然と顔がほころぶ。
「ああ、ならこれもわかりますか?」
懐から篤胤に渡された包みを取り出して見せた。笹嶋も懐へ手を入れたかと思うと瓜二つの包みを取り出す。
「神様からお金を借りて、お守り代わりにして、次の年には色をつけて返すっていう寸法。」
「へぇ。でもこういうものは借りた本人が返しに行くべきなんじゃないんですか」
「人から頼まれたの?」
新城はええと答えて、使用人や保胤に頼まず自分へ渡した篤胤を思い返した。副官を誘うなと忠告した時の笑顔は縁切りうんぬんの事だったのかと思うと少し脱力する。
借りてくるようには頼まれなかったのか、笹嶋にそう声をかけられて気を取り直した。
「ええ。」
これにもそう答えて返答を待つ。笹嶋を相手に会話する時、新城はいつも以上に口数が減のだ。余計なことを話す必要が無いし、笹嶋は並以上のおしゃべりだった。
「願がかなったから、とかじゃないの。で、誰だか知らないけどその人は君のことについて神様にお願いしてた。それがかなったから次は借りないし、君が返しに行ってもいいんじゃないかと思った。どう?」
「ギリギリですね。」
やや酷な評点にも笹嶋は笑った。まぁ返さないよりはいいでしょと言って付け加える。
「ほんと、慕われてるね。嫉妬しちゃいそうだよ」
「それは、」
問い返した声は人並みと囃子にかき消された。