red sunrise
皇国の守護者/微パラレル

浮かれた気持ちが無かったわけではないのだけれど、それでも気分が悪くなかった。幼子のようにむくれる義姉の姿を眺めて珍しいなと微笑む余裕もあったのに。

「直ちゃんとなんて絶対にいや」

軽い気持ちで声をかけたわけではないのだけれど、それどころか強張る顔と引きつる喉に鞭打って絞り出した声は彼女にしてはこれも珍しいほどハッキリとした否定の、そして嫌悪の言葉に打ち消されてしまった。
「・・・これは失礼しました」
癇癪を隠そうともせず廊下を歩き去る義姉の後姿を見ながら小さくこぼして、新城も自宅へ引き返す。ところが自宅で腰を下ろした途端、使い走りの女中が篤胤が呼んでいると伝言をよこした。
一度眉間に皺を寄せてから新城は腰を上げた。

「失礼します。」
「すまなかったな。行ったり来たり。」
いえ、珍しく舶来ではない酒を盃で舐めている篤胤にそう返して、新城も椅子へ座る。渡された盃を三度からにしてから篤胤が切り出した。
「祭にはまだ行っとらんのだろう、」
「ええ、義姉上をお誘いしたら断られましたので。一人で行くのも味気なく」
「ほお、蓮乃が。」
篤胤は渋い顔をする。
「はい。義兄上と行くつもりだったらしく、虫の居所が悪かったですね」
篤胤は大きく息をついて盃を降ろした。
「神事といえば大昔はそれこそ政だったわけだが。こんな日にも接待とはややこしい世の中だな。」
全くですと目で返した新城はもう一杯干した。
「そんなところへ行くのは面倒臭いということでな、これを頼まれてくれんか。直衛、」
そう言って篤胤は小さな紙の包みを渡した。触ってみた感じでは中に六、七枚の硬貨が包まれているらしい。
「ああ、噛み付かれたくなかったら副官等は誘わんほうがいいぞ。」