その想いは永久に/戦国BASARA(小十郎×政宗)
あたしゃ構いやしないよ…そういう考えは嫌いではないよ

妖のお前にもそんな感情があるのだな


さぁ…どうだろうね…感情なんざもう解からないよ…で後悔は無いんだね

嗚呼…



「んな戯言が俺に通用すると思ってんのかぁぁああぁぁぁぁぁぁ!?」
夜も深まった城に響き渡る城主の声は悲壮そのものであった
「とっと殿…どうか落ち着いて…」
「この状況に落ち着いて対応できるのか?あ?」
「いや…その…っしっしかし…」
「邪魔だ!!」
部下達が抑えるのも乱暴に振り払い息も荒々しく政宗は目の前にあるソレの前立ち
愛刀を突きつける
「どういう了見だ…申し開きがあるなら述べろっ!!」
政宗は今にも崩れ落ちそうな膝に必死で鞭を打ち何とか立っている状態だ
それ程目の前の状況が信じれなくて…信じたくも無い最悪に出来事だった
「…」
暫くソレを睨んでいると不意にソレから言葉が紡がれた

「それはごめいれいですか?まさむねさま」

「…っ…!?…こ…っこじぅ…」

聞き慣れた最も政宗が信頼し背中を預け腹を割っていた漢の声
しかしその声に抑揚は無く生気は全くなかった
目の前にあるソレはその漢そのもの…しかし…
漢は生きてはいなかった

正確には稼動していた



半刻ほど前に妖とソレは政宗の前に現れた
妙な生暖かい気配に政宗はゆっくりと床から起き上がり傍らの刀に手を伸ばし
『…誰だ?』
ゆっくりと呼吸を整え周囲を窺い問い掛けた暫く答えが返ってくる事はなかった
それどころか気配は消えるどころかじっとりと政宗に絡み付いてくるように濃くなっていった
政宗は何も解からない不安を押し殺しながら枕の下の短刀を弄り寄せる
やがて気配がぐにゃりと歪み政宗はその異形な光景に吐き気を覚えたがなんとか押し殺し渦の先を睨む
『誰だ?』
もう一度問い掛けるとそこから一人の俯いた女が現れた
薄衣を幾重にも重ねた衣を頭から被り顔は覆われて見えなかったが微かに白粉の香が政宗の鼻をつく
女が姿勢を正すと布の隙間から口と鼻だけが見えた
【お届け“者”だよ】
そういうと女はにぃっと薄気味悪い笑みを浮かべた
真っ赤に紅の刺された唇は明らかに人ではありえなかった
【ほれお前達早く持ってきな!!】
状況を飲み込めず困惑しながら警戒している政宗を余所に女は金切り声を上げ渦の奥へと手を叩いた
すると直ぐにこれまたこの世のものとは思えない不細工な形相の小さな妖がわらわらと湧き出て大きな布を被せた何かを持ってきた
【すまないねぇ…さぁ確かに届けたよ】
おぞましい猫声で政宗にも荷らしきものにも声をかける女に政宗は漸く口を開いた
『あんた…人間じゃねーな?』
女は特に政宗の問いに答える事無く荷を奇麗に整えていた
政宗は続けて問い掛ける
『何のようだ…まさかお迎えじゃねーだろうな…』
引き攣りながらも気圧されまいと必死な政宗に女は手を止め政宗に向き直り面白く無さそうに答える
【五月蝿いねぇ…あたしゃ荷を届に来たと言ったろう?】
その声は地の底から響くような低い老婆のような声で政宗は鳥肌が立つのが解かった
【全くお迎えなんぞはそこいらにいる亡者にでも鬼にでも頼みなよ】
にたぁと小馬鹿にしたような口調と笑いは政宗を苛立たせたがそれよりも困惑の方が勝っていたので何も言わず問いを変える
『その荷は何だ?』
視線を荷に一瞬移し答えを促す政宗に女は。あぁと一言漏らし政宗に答える
【忠義な人形だよ】
政宗は余裕が出てきたのか女に言葉を返す
『ha…そんなもん頼んだ覚えはねーぜ』
政宗の答えに女は笑いを堪えるように可笑しそうに袖で口を覆う
【頼んだのはこの人形自身さ】
政宗は意味が解からないと女に言うと女はお構いなしに続ける
【あたしゃこーいう類の人間が居るから餓えないんだよ】
『…what?』
【確かめてみるといいさ…】
『…』

【忠節だの信義など護るなぞ…寿命ある人間にやぁ面倒だぁねぇ】

荷は確かに届けたよともう一度笑みを浮かべて女は消えた
それと同時に政宗は脱力しその場に崩れ落ちた
どれだけの時がたったのか一瞬かそれとも丸一日か感覚が全く解からないただ全身から吹く出ている汗が政宗の緊張を表していた
夢か
現か
幻か
目の前に残された荷だけが政宗の所に残った

『おい…こじゅ…』

政宗はいつも傍に居る漢の名を呼ぼうとしはたと止めた
常に傍に居るためか当り前のように呼び癖がついていたが今日は珍しくその漢は暇を取っていたのを思い出した
だから枕の下にまで短刀を忍ばせていたというのに…
政宗は一瞬躊躇ったが妖に恐れをなしてはと腹を括った
そしてグッと荷を包んでいる布を掴み念のため刀を抜き結び目を解いた瞬間政宗は半歩下がり臨戦体制ををとる
布は静かにはだけ落ち荷が露になった
政宗の眼の映った荷は・・・

『…It is unbelievable』

先程呼ぼうとしていた漢そのものだった
忽然と現れた漢に政宗は刀を下ろし近づくとつんと脂と油が混じったような嫌な臭いが漂っていた

『こっ小十郎…?』

政宗の呟きに目の前の漢らしきものは答えた
《はい、およびですかまさむねさま》
『!?』
政宗はいきなりの事に身体をビクッと震わせ漢を見た
目に光は無くそれどころか樹木と皮膚が混じったような妙な継ぎ接ぎが見える
恐る恐る触れてみればそこに人間の温かみは無くまるで…
そう…
あの女は言っていた

『doll…』

【忠義な人形だよ】
まさか

【頼んだのはこの人形自身さ】
そんなハズは…



最も信頼していた家臣は人形になった
呆然とその人形を眺めていると人形は漢との声で言った

《まさむねさまこのこじゅうろうがかならずやおまもりいたします》

その言葉を聞いて政宗の頭に浮んだのは女の言葉


【忠節だの信義など護るなぞ…寿命ある人間にやぁ面倒だぁねぇ】


薄気味悪いあの真っ赤な紅の唇が吐き出した言の葉


【あたしゃこーいう類の人間が居るから餓えないんだよ】


政宗の頭は理屈を超えて理解してしまった
自分を護るために漢は…
妖に魂を売り渡し…

不死の身体を手に入れたという事を

『こっ小十郎…こ!こ…こじゅろぉおおおぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

気が付けば意思と関係なく考えるよりも先に叫んでいた
城主の叫びは城中の者に届く程大きかったが政宗は自分が何を叫んでいるかすら解からない
ただ冷たい漢の前で狂ったように絶叫を繰り返すばかりだった




「それはごめいれいですか?まさむねさま」
具体的な命令なしには動けないのか小十郎は特に困惑の色も見せず再度政宗に問い直した
先程から特攻隊長の従兄弟や官房長官の家臣などが問い掛けるが小十郎に答える気配は無い
主である政宗の声にしか反応しないようになっているのか小十郎は一切喋らなかった
「小十郎…」
政宗は言葉が見つからず声を詰まらせる
「はいまさむねさま」
「元には戻れねえのか?」
切実な政宗の願いは今の小十郎には理解はできない
「もとにとは…ばしょでございますか?」
抑揚のない漢の声に政宗はついには涙を抑えきる事ができなくなり瞳から大粒の涙を零し始めた
その涙には複雑な思いが込められているのを小十郎は知れない
「何で…小十郎っ…」
気丈な政宗が恥も外聞も放り投げ何も見えないかの様に涙する主の姿に家臣はそれぞれ目を逸らす
「天下を…取って…一緒に…傍に…」
「はいまさむねさまてんかをかならずや」
「傍にいるって…言ったじゃねーか」
痛々しい政宗の泣き声を誰も止める術を知らない
知っているであろう唯一の人間だった者はもう居ない

泣き崩れる政宗をただ小十郎はじっと見つめていた
そして血の通わなくなったその頬を水かどうか解からない液体がたった一度流れた事は誰にも解からなかった
その水が滴り胸元に彫られた黒と白の椿の花を濡らした事も



俺の魂を抜き人形にしたら…一つ頼みがある

妖のあたしに頼み事なんざ…あんた変わってるね…で何だい

胸元…心の臓の部分に黒と白の椿の彫物を消さないで欲しい

ほぅ彫りたてだねこりゃ微かだが美味そうな血の臭いがするよ…忘れたくない事かい?

人間みたいな事言うんだな

まぁ…元人間だからねあたしも

…主への想いだ

勝手にしなよあたしゃそーいうのは苦手でね…でも…

(黒椿に想いを託します…政宗様…どうか白椿をお受け取りください)



散る椿の花落ちる落ちる闇の底

花弁は風に乗ることも出来ずそのまま朽ち果てる



fin