夢 / オリジナル(heroシリーズそのA)


目の前に広がる光景に影は口の端を緩ませて微笑んだ。もっとも仮面をつけているので、外からは分からないが。

(これは、夢、だ)

あれは、幼い自分ともう一人…



「さめさん、あかかして」
「だめ。いまつかってる」

二人の少年はお互いの顔を描きあいながらお絵かきをしていた。
さめと呼ばれた少年はもう一人の少年の顔をちらりと見て、手をとめてしまった。

「どうしたの、さめさん?」
「…べつに」
「………きになる?これ」
「もうなれた」

これとは、仮面のことだろう。
少なくともさめと出会ってからかげは、一度も仮面を外したことがなかった。

「それに、あってもなくても、おまえはおまえだろ」
「…そう」

小さく相づちをうったかげは、うつむいてしまったので、さめはお絵かきを再開した。

(さめさん、さめさん、ぼくは……………)



「……ま、…様!影様!!」

急激に意識が現実へと引っ張られ、目を開けると猫又が顔を覗き込んでいた。

「あぁ、寝ていた」
「だったら、ペンを持ったまま寝ないで下さい。俺には、あなたが起きているかいないか判断できません」

そういえば職務中だったな、と思い至り、デスクの上を見ると書きかけの書類にミミズが走ったような線があった。
よくよく見渡せば書類の山が減っている。

(やってくれたのか)

自分の部下達の中で率先して書類整理を手伝うのは、猫又しか思い浮かばなかった。
影は椅子に座り直すと、書きかけの書類にペンを走らせた。

「あ、それ書き直してくださいね」

書類は丸めて捨てた。