隠れ家 / オリジナル


「…暇だな」

客のいないコンビニのレジで頬杖をつきながら、クセになりつつある何度目かの溜め息を吐いた。
店の外には屋台が所狭しと並んでいる。
平日だというのに屋台の隙間からは相当の人影が見えた。繁盛しているらしい。
はぁ、ともう一度溜め息を吐いた。

「お前も祭りに参加してこいよ」
「嫌だね。一人で行っても面白くも何ともない。それに私は人混みが苦手なんだ」

雑誌を見ていた影(こいつは断じて客じゃない。何故なら一度もここの商品を買ったことがないからだ)は、妙に弾んだ声で答えた。
仮面に黒いマントという装いはいっそのこと祭りに参加してくれていた方が様になると思う。

(何しに来たんだ)

人混みとまではいかなくとも、ここまで来るのだって相当な人がいたはずだ、が聞いたところで返ってくる言葉はある程度予想ができたので、わざわざ聞いたりはしない。

「今なら君を独り占めできるだろう」
「聞いてないことを答えるな」

言えば、影は何が可笑しいのかくつくつと笑った。

(…くそぉ)

何か負けた気がして悔しかったから、横顔を睨み付けていたら、そんなに見つめられたら照れる、などと言い出したので呆れてしまった。
そして、続いた言葉に脱力する。

「その暇な仕事が終わったらお参りに行こうか」

俺は数十分の間に逃走計画を練らなければならなくなった。