立ち止まれない / パラレル:陶晴賢×吉川元春

支えるしかない腕を必死に動かして元春は口に詰めていたタオルを抜き出した。
背中で息をする元春の背骨を辿る。
俺は早くここから立ち去りたくてしょうがなかった。
だが、そうするには興奮したペニスを元春の体内から抜き去らなければならない。俺は、立ち去りたくてしょうがないのに身体が硬直したように動かない状態にあった。
それぐらい、元春にかませていたタオルは俺を安定させていた。
「晴兄、俺はあんたとは違うんだよ。」
「・・・なに、」
「あの人の庇護の下でしか暮らす術をしらない10年以上前のあんたとは違うんだ。なあ、ってば・・・聞いてんのか!」
「聞いてる、よ」
元春は、俺に後ろ手で拘束されている右手に力をいれて振り払う。これで最後の砦も崩されたと思った。
大丈夫だと思った、いろんな壁をつくりあげてそうすりゃこいつを抱けると思った。元春は怒ってるんだろう、顔が見えないから分からないけど。
「俺は、あんたにヤってる時の顔見られても、嫌だとは思わないし、声だって、そりゃ恥ずかしいけど、聞かれたって構わない。あんたに好きで抱かれてんだから、」
「もとはる、」
「俺ら初めてするのにバックからして、真っ暗にして口にタオル詰めて、右手拘束して目隠しまでして・・・こんなの強姦だよ。こんなことしないと抱けないくらいなら、抱いてほしかねえんだよ!」
「俺は、お前が好きだから、でも」
「・・・こんなふうにしか抱けないなら止めてくれ。一人でやってるのと一緒だ」
挿れる瞬間の、あの苦しくて吐きたくなるような瞬間の、俺の声や仕草を見るのがあの人は好きだった。俺は、元春のそういうところは見たくなかった。
あの頃の俺みたいな顔をしていたら、と思うと怖くてどうしようもなかった。感じたくないのに勃ちあがるそれを見せ付けられて、出したくないのに前立腺を突かれれば声は抑えられない。
嫌で嫌で堪らない表情をされたら、それこそどうすればいいか分からなくなる。
ただの幼馴染から恋人になったことで俺の元春への執着は更に高まってる。それが恐い。俺は、そんなふうに元春を愛したいわけじゃない。
元春の体内から俺自身を引き出す。元春は目隠しに宛てていた布を即座に引き下ろして、俺を見やった。
憎悪だった。
嫌われたかな、と思った。もうきっと口も聞きたくないはずだ。
身体を思い切り床に叩きつけられて、後頭部を痛める。馬乗りになった元春が眉を寄せてこちらを見ていた。
「ふざけるなよ!その程度で諦めるんなら初めから俺にかまってんじゃねえ」
「俺は・・・」
「・・・あんたは、俺のこと見てるふりしてただけだったんだな。俺が何云っても聞く気もないんだろ。あんたじゃなきゃ駄目だって俺が云ったんだ。晴兄はちゃんとした言葉をくれないから、何度も何度も云ったのに・・・あの人よりあんたのほうが最低だ。」
「元春、」
「戻れないぞって云ったのそっちじゃんか。」
どんなに大人びてても、こいつはただの高校生なのだ。精一杯背伸びして届かないから興味の無いふりをした高校生。
俺と違ってひどく純粋だ。
そういうところがとても愛しい子供だ。
「元春、」
「・・・」
「俺のこと好き、」
「好きだよ。」
「俺も好きだ。ごめん、嫌な思いさせちまって。でも、多分またお前にこういう思いをさせると思う。だからそん時は今日みたいに叱ってくれよ。諦めずに、呆れずに。」
「・・・あんたが嫌って云うほど云ってやるよ。」
「そりゃあ、頼もしい。」
俺は、愛しい恋人の瞳を見つめながらゆっくりと唇を近づけていった。