描く人 / ヘタリア 日+独+伊
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「お祭りに行きませんか?」と云われてドイツは顔を上げた。日本がもう一度繰り返そうとするから「日本の祭りか?」と問い返す。
「はい。三日三晩行われるお祭りです。」
「三日三晩?」
「はい。別名、春を呼ぶ祭りです。どうですか?1週間後から開かれるのですが」
「・・・いけるだろう。」
「良かった。イタリア君も誘いましょうか。」
どこでも何でも脱ぐ男を呼んでいいものか、とドイツは一瞬思ったが日本の提案なのだから跳ね除けるわけにもいかない。この後、用事があるという日本に代わってイタリアに説明すると「楽しそうだねー行くー」と素早い返答があった。
多くの人で賑わった祭りは気温はここ一番の下がりようだというのに、静まる事のない一つの炎に見えた。昼間も十分人通りは多かったが、夜になると更に多くなった。
「あれがジンジャー?」と駆け出していきそうなイタリアを引っ張って側に留めておく。こんな所で安易に裸になられても困るし、余計な騒ぎを起こされたらたまったものではない。
「盛況だな。」
「この島で最も大きなお祭りです。最もこのお祭りを知ってるのは以南の人たちのほうが多いようですが。」
「しかし、何故こんな寒い時期に・・・」
「さあ、でもこのお祭りが過ぎると春がやってくるとここの人たちは思うそうですよ。1年の始まりを告げるお祭りなのでしょう」
チラチラと周囲から視線を向けられるものの、ドイツは一向に気にしなかった。イタリアは愛想よく手を振っている。
「これはどういう祭りなんだ。」
「商売繁昌を祈る人が多いですね。神社の神様も商売の神様ですから」
「ああ、だからこんなにも出店が多いんだな」
細部まで知りたがるのは相変わらずだな、と日本はドイツを見上げながら思った。それでも自国の文化に理解を示す姿勢は嫌なものではない。
「何か欲しいものはありますか?」
「そうだな、ビールとソーセージが食べたい」
「・・・ビールじゃなくて甘酒にしましょうか。フランクフルトでいいならありますよ。」
「ああ、」
きょろきょろと周囲を見渡した日本はこちらです、とはっきりとした声で告げてドイツを呼んだ。側にいたイタリアの手を引っ張る。
「ドイツー、俺、クレープ食べたいなー。」
「日本に聞いてみるか・・・菊!」
「はい、なんでしょう!」と、突然の言葉に日本はドギマギする。
「イタリアがクレープを食べたいらしいんだが。」
「ああ、ありますよ。もう少し行ったところとても美味しいクレープを売ってますから。先に甘酒もらっておきましょう」
イタリアとドイツに甘酒を手渡し、日本はもう少し先に進みましょうと云った。
人の流れは、左右に分かれ行きつ戻りつを繰り返している。その流れに逆らわず三人も先に向かう。
「・・・どうして、誘ってくれたんだ?」
「いつもお世話になってばかりでしたから。たまには、何かお返しできたら、と。ですが、もう少し温かい時期を選べば良かったですね。思いついたのがつい数日前でしたから。」
「いや、このくらいの寒さはなんともない。ありがとう」
口下手な日本を否定しないドイツの温かさが好きだ。
全てを受け止めてしまいそうなイタリアの笑顔が好きだ。この人たちと一緒で良かったと冷えた掌を、二人に気づかれないように温めながら日本はそんな事を思った。
「しかし、道が狭いな。」
「・・・申し訳ないです。」
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