ライオンの叫び / ヘタリア:米+日

彼は本当に計り知れないね、とアメリカが薄く笑うのを握りつぶしてやりたく思いながら日本も薄く笑った。
アメリカなどに計られたくなどなかった。

身体が発熱している。ぎしぎしと関節が痛んで意識まで朦朧としかけている。
「私が行こう、」
「え、」
ここは私の出番だと彼は云わなかったが、強い意志を感じさせる背中だった。起き上がっていた日本の額を押さえてゆっくりと布団に鎮める。
(まだ戦わなければ)
(もう無理だろう)
(諦めるな、この国が負けるなどとあってはいけない)
(でも傷つくのは彼方たちじゃない)
歯軋りしたくて堪らなかった。本当はもっとずっと前に降伏するべきだったのだ、自分の力がどれほどのものかを図れないほど幼くもないし血気だっても無い。
最初の一戦がうまく行き過ぎたせいで誰もが浮き足立った。
(また、この国は資本がないのだと思い知らされた)
(もう無理だ。分かっている、国民をこれ以上殺すわけにはいかない。大体、また原爆を落とされたらそれこそ――)
日本の肩を掴んで止めたのは、この国の神と謳われた一人の人間だった。不思議な人だった。立場上、崇めたてられるのは当然の人であったのに幼少の頃はあまり好まなかったという。
その頃はまだ接触がなかったから、周りから聞いたことではあったが。

「僕はね、日本国民は絶望に打ちひしがれてると思った。そして彼を責め立てるとそう思ってたよ。驚いたね、みんなが僕たちがイエスに祈りを捧げるように彼に頭を下げるんだ。そうして希望を持つんだよ。可笑しいだろう?戦争を始めたのは彼だというのに」
アメリカは戦争に勝ったことと意外な要人の登場に楽しいのか、返事をしない日本に向かって何時までも話しかけた。
「僕は簡単にこの地を制圧できると思ってたんだ。」
「・・・この地を?」
「そうだよ。」と日本がいきなり口を利いたことにも驚かずアメリカは云う。発熱のせいか視線のあわなかった日本が、初めて己を見たことに気付いてアメリカはにっこりと微笑んだ。
「ドイツもイタリアも、そして君も一度も世界を征服のしたことのない国がいきがってた。俺達は云うまでもない。だから醜い抵抗をすると思ったよ。それか絶対服従かなあ。でも彼は違った。頭を下げているのに全然そんな気がしなかったよ。そして、日本中を彼とともに回った。国民は俺達に畏怖し、そうして彼を侮蔑すると思ってた。」
それがなんだいあれは、とアメリカは苦笑して云った。日本はその様子を知らない。焼けるような痛みが全身を襲っている。
彼はあれからまだ一度も顔を見せにこない。アメリカの云う通りなら全国を歩き巡ったなら、日本の元に来る余裕もないだろう。それに何より誤解を招くような態度を見せたくないはずだ。
一度、全国を占領したこの国は、解放はしてきたものの、所々に基地を残していった。下手な真似をすればどうなるか分からない。
それでも、定かでない意識のなか日本は口にした。
「今はあなたの元に這い蹲っていても、いつかあなたが脅威を感じるほどの国になってみせる。」
「・・・それは楽しみだなあ。日本は百獣の王になろうっていうんだ」
「百獣・・・」
「ライオンだよ。動物園とかで見たことあるだろ?でもね、知ってるかい?ライオンでさえ一目置く動物がこの世にはいるんだよ。」
「だとしたら、その動物も、ライオンに、一目置いてるのでしょう。不可侵領域、というものですよ」
それまで云って日本は意識を奥深くに鎮めた。
「・・・やだなあ、この国は。天皇も国も一筋縄じゃいかないし、国民も直ぐに折れない。こんなに魅力的な土地なのになかなか手に入れられないや」
アメリカはさらりと日本の髪を梳く。
真っ黒な髪、真っ黒な瞳。吸い込まれてしまいそうだ。
それは中国とは違った脅威を感じさせる漆黒の闇だった。

「だからといって、俺が簡単に見逃してあげるはずもないけどね。」