中尉殿の震える手が、何に怯えていたのか分かってしまった。 「大丈夫か、」 彼は行軍中僕にそんな言葉をかける。そういう時は大体が大休止の時で、彼は暖かい茶を必ずといっていいほど僕に手渡した。 立ち上がろうとするのを制されて、僕は座ったまま大丈夫ですと答える。彼はそうかと答えて僕の隣へ立ったまま、隊を見回す。 熱すぎる茶が冷めるのを待つ間(茶が熱いのではなく僕の体が冷えすぎているのだが)見上げた彼と目があった。 彼は(こんな中であるというのに)笑ってそして足早に指揮官へともどった。 その腫れ物を触るような態度に僕は何か失敗をして彼に嫌われてしまったのかと思った。だが彼は好悪の感情というものを露骨に出しはしない。 臆病だと、いった指揮官の顔を思い出した。 そう、彼は怯えていたんだ、僕に。 自身の弱さを(それが演技ではないことは確信できる)見せることで僕を鼓舞した。それに励まされる僕を恐れたんだ。 「どう思う」 彼はまた湯飲みを持って僕のもとへ来た。文字通り湯の入ったそれを僕に渡して応えを待つ。 村を焼いたことだろうか。 僕は彼がそう望んでいるであろう少し砕けた幼さを装って応える「この場合、最善だと思われます。」その応えに満足した(本当は満足していないのだろうけれど、きっと彼は僕がそう応えると思っていた)らしい大隊長殿は忙しくなると言い残して去った。今のうちに休んでおくようにという命令だと解釈する。 僕は無言で敬礼した。 できるか、と。問われて僕はご命令ならばと応えた。頼むといわれて僕は誇らしい顔を作る。 僕に怯えるこの人へ、僕は彼の望む僕を与えることで罪滅ぼしをしようとしているようだ。 兵藤少尉が僕を心配していたが、それ以上に大隊長殿が僕を気遣っていることがわかった。だが僕は兵だ、死の覚悟はできている。死ぬことにためらいはないのだ彼とおなじように。 だからもう、僕に




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