※僕のアリスED後


















遠い遠い昔の記憶
そよ風と木漏れ日と

優しい…




【忘却】




「チェシャ猫最近よく夢を見るわ」

少女は唐突に話を始めた
何も見ていないような目は今ではない何かしか映していない
少女はチェシャ猫と呼んだ者に構わず続ける

「女王様も公爵もビルもいるのよ!廃棄君もいて皆で花畑を歩いてるの」

呟くようにそれだけ言うと少女は視線を空へと向ける
開け放たれた窓から見える景色は少女の心を捕らえることはできない


「そこに僕は居たかい?アリス」


ふいに少女ではない声が少女に問い掛ける
その声は甘ったるくてどこまでも優しい声…

「居たに決まっているでしょう?チェシャ猫が居ないはずないじゃない」

アリスと呼ばれた少女は困ったように笑い
先程からチェシャ猫と呼んでいた男の灰色のフードを掴んだ
それに合わせてチェシャ猫は少しかがむ

「チェシャ猫は私の味方なんでしょ?」

傍に居てくれないと困るわと屈託の無い笑顔で笑いながらアリスはチェシャ猫の頭をいいこいいこと撫でる
チェシャ猫のいつものニンマリ顔が更にニンマリとなっているのをアリスは知らない


「じゃあアリス…」


チェシャ猫は名残惜しそうに離れアリスに向き合いながら三日月型の大きな口を開く
アリスはただそれを見ている真っ赤な舌が動いている


「     は居たかい?」


そして今にも少女の…アリスの首筋に食い込みそうな鋭い歯が並ぶ
だが決してそれは赤い甘い水に濡れる事はない
そう猫は忠実なる少女の僕

「     ?私はそんな   知らないよ?」

猫はこの世界でアリスの心を占める唯一無二の存在
チェシャ猫何を言ってるの?とアリスはキョトンとチェシャ猫を見つめる


「うんそうだね…アリスは知らないんだよだから夢なんだよソレは」


面白いねチェシャ猫はとコロコロ笑いながら目を細める
そう言いながらも     については決して聞こうとはしない

「そう…楽しい夢が見れたわ」

あの日から少女の心には猫しかいない
あの日から少女の心から     は消えてしまった

「それよりチェシャ猫散歩に行こう」

チェシャ猫はニンマリといつもの通りの台詞を紡ぐ


「僕らのアリス君が望むなら」


アリスは窓から何の迷いも無く飛び降りた
アリスが望めば窓から飛び降りた先は花弁が舞う花畑

「チェシャ猫ー!置いていくよ?」

アリスは蝶を見付けそれに着いて行く
その愛らしい姿はふわふわと現実を忘れた人形のよう
チェシャ猫は満足そうにそれを眺めていた


「僕のアリス君が望むなら」


それだけ呟くとチェシャ猫は音も無くアリスを追った





真っ赤な血は


一人の少女を狂わせた


灰色の欲望は


一人の少女を捕まえた




「シロウサギ…他の連中はアリスを欲しているんだよ…ただ君は忘れていた」


僕を含めたこの世界の連中がアリスを欲している事を…




fin




これは企画です